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山田 武

偽善者とかぐや姫 その12



 三つ、少女の下へ宝具が返ってきました。
 二つ目と同様に、それらはもっとも偉く尊き貴族──帝様からの献上品です。

 少女が二つ目に触れようとしたときの恐怖感は、薄れていました。
 それとは対極に、何かを求めるように手を伸ばしてしまいます。

 これまで同様、少女の脳裏にはかつての自分が歩んできた記憶が巡っていきました。
 遠き宙の世界、自分がどのような在り方をしていたのか。

 それを否定され、その結果がどれだけ愚かしいものとなっていくのか──それを強制的に焼き付けられていくのです。



 それが三つ目の宝具『火鼠の皮衣』に触れたことで、少女が思いだした過去の記憶。
 気づいた感覚はよりいっそう高まれ、少女という存在は少しずつ変化していきます。

 ──『私』は『妾』となり、『かぐや』は『輝夜』へ……少女が少女らしくあること、世界はそれを否定していきました。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 再び暇な日々が始まる。
 帝が来る日時は定まっているのだが、やはり現代と違って道の整備などが完全にはできていないので時間が掛かってしまう。

 そりゃあ魔法もあるので、遅いというわけではない。
 だが権力の誇示などの問題もあるので、超高速で来るわけにはいかないのだ。


「……まあ、しばらくはスキルの修練に励めるからいいんだけど」


 今の俺は縛りによって、一般スキル以外の行使が封じられている(一部を除く)。
 有能なスキルは大半がそれ以上のレア度に属しているので、それは不都合だ。

 ならばどうするか──答えはシンプル、一般スキルをやり繰りするしかない。
 眷属がカスタマイズしてくれたスキルがあるので、それらをよく使っているけど。


「──ノゾム、これノゾムや」

「なんだ、輝夜様か……どうかしたか?」


 離れの外の辺りで練習をしていると、わざわざかぐや……ではなく輝夜姫が声を掛けてきた──もちろん、簾越しで。

 こっちの世界の魔道具だからだろうか、なぜか簾が宙に浮いているんだよ。
 簡易型なのか、謁見っぽいことをしたときよりも少々小さめではあるが。


「帝の軍勢はもう倒せるか?」

「……実際、どれくらい強いのか分からないから難しいかな? 視て分かると思うけど、全力を振るうには条件があるから」

「そうじゃな。共有したことで審美眼辺りも目覚めたが、それでもノゾムの真価を見抜くことはできておらぬよ」

「真価、ねぇ……あんまり自信は無いから、そこまで凄いものとは思えないけどね」


 武術と魔法は、一般スキルだけでも豊富にあるためそれなりに扱えてあった。

 だが問題は身体や技能、特殊系のスキルである……レア度が高ければ高いほど、性能も異常なものとなる。

 眷属のスキルによって補ってはいるが、特殊系スキルは特に完全な再現ができない。
 使っていないものであっても、使えないのと使わないのとでは全然違うし。


「むぅ、ならば試して……これ、かぐや! 邪魔をするでない! これはノゾムのためでもあるのじゃぞ」

「……俺の?」

「そ、そうじゃ! ほれ、ノゾムもこう言っているのじゃぞ!?」


 これが本当の内輪揉め……なんてくだらないことを考えている間も、二心同体な少女たちの話し合いは続いている。

 その気になれば、主導権を持っている方が勝つんだが……内気な性格なのか、強引に割り込んできたことは一度もないんだよな。


「……まずは試し、試しだけじゃ。それならばよいじゃろう? ノ、ノゾムから言ってやれ! ぜひともやりたいと!」

「かぐや様、正直何をされるかは分からないところが多いのですが……帝様を相手取るのであれば、そういったことでもやっておいた方がいいと考えました。どうか、試させてください」

「…………分かりました。ノゾム様、何かありましたらすぐに止めますので」


 一時的に戻ってきたかぐや姫はそう言う。
 だがそれもすぐに輝夜という人格と入れ替わり、自慢げな表情でとある宝具をその手でこちらに見せつけてくる。


「えっと、竜……『辰の頸の珠』ですか?」

「そうじゃ。真価を発揮すれば、自在に辰を操る力を持つが……だから、違うと言っておるではないか! こ、今回はそれを調整することで、竜牙兵を召喚できるのじゃ」

「竜牙兵……かなり強くなかったっけ?」


 かなり厄介な魔物だ。
 触媒として名前の通り、竜種の牙を必要とするのだが……元となった竜種が強ければ強いほど、その位階ランクも高くなる。

 ちなみに、ソウの牙を使うと位階が12の竜牙兵を用意可能だ。
 英傑たちが力を合わせないと、普通は倒せないような尋常ならざる存在である。


「問題なかろう。妾レベルの宝具使いであれば、位階の調整も容易い……かぐやが心配せぬ程度にしておこう」

「なら、いいけど……本当に、分かっているよな?」

「──うむ、分かっておるよ」


 さっそく宝具に力を籠め始めるカグヤ姫。
 すると珠が光り輝き、地面から突如──竜牙兵が飛びだしてくる。

 ……俺の予想した通り、それなりにエネルギーの密度が高い個体が。


「ほれ、『かぐや』よ。ノゾムもそこまで驚いておらぬじゃろう? だから、この程度であれば問題ないのじゃ」


 なんてことを抜け抜けと言っている。
 ちなみに普通の冒険者であれば、数十人居ても勝てるか分からないレベルのヤツだな。



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