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山田 武

偽善者とかぐや姫 その06



「……ここ、かな?」

 少女は送られた場所を確認する。
 そこは深い霧の掛かった森の中。
 視界など頼りにならない樹海、少女はただ独り立っていた。

「どこなんだろう……“微風ブリーズ”」

 生活魔法、そして己の力を行使する。
 本来名が示す通り微量の風を吹かすだけの魔法、しかしその名からは想像もつかないほどの強風が吹き荒れた。

 すると彼女の脳裏には、辺りの地形すべてが浮かび上がる。
 鍛え上げた思考能力を以ってそれらを処理し、自身の目的地となる場所を探していく。

「うん、こっち」

 風は樹海のすべてに行き渡った。
 それは、魔法が届いた領域一帯を知覚したのと同義であり──強制的に迷宮の入り口を割り出す手段でもある。

 だが、風を起こしたことで辺りの魔物たちすべてに彼女の存在は発覚した。
 その発現元を探るようにして、魔物たちがいっせいに襲いかかってくる。

「──“輝光シャイン”」

 そこで行使するのは、光で辺りを照らすだけの単純な魔法。
 しかし、これにもまた少女の力が作用を起こし──化ける。

 ただの光のはずだった。
 しかしそれを浴びた魔物たちは──驚愕、絶叫、発狂して命を失う。

 まるで日を浴びた吸血鬼のように、聖なる光を受けた亡者のように。
 集められた魔物たちは、等しく光の前に浄化されていった。

「“地図マッピング”……こっちか」

 彼女はなお、前へ進み続ける。
 その先に迷宮へと繋がる入口が──扉があると確信して。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「山……“地図”、“微風”」

 少女──ミシェルは先ほどと同じ方法を用いて、扉の中に広がる世界を調べ上げる。
 樹海に広がっていた霧とは違い、幻想的な色合いをする霧が薄っすらと漂う山が一つ。

「ここは……蓬莱山? つまり、ここにある宝具は……『蓬莱の玉の枝』?」

「──その通りじゃよ、娘さん」

「……誰?」

 ミシェルの問いに答えたのは、道士のような恰好をした老人だった。
 老人は手に持っていた杖を一突きすると、ゴホンと咳払いをしてから話しだす。

「儂は娘さんの求める品、『蓬莱の玉の枝』が生みだせし守護者……といったところじゃろうか。本物ではない、『蓬莱仙人』という虚像の仙人である」

「そうなんだ。お爺さん、私は宝具を探しに来た。どうすればいいの?」

「ほっほっほ。それを儂に訊ねてきた者は娘さんが初めてじゃよ。皆が皆、宝を寄越せと言っておった。さて、答えじゃが方法は二つある──そやつらのように力尽くで奪うか、儂の些細な願いを聞くことじゃ」

「うん、分かった。何をすればいいの?」

 即座に後者を選び、内容を問うミシェル。
 彼女にとって戦闘とは生き残るための術、必要ないのであれば極力控えた方がよいという判断をするものだ。

 だが、それは仙人には分からないこと。
 彼女の戦闘力を理解できるがゆえ、そのことに疑問を抱く。

「……ほぉ、それはなぜじゃ? 正直に言えば、娘さんが本気を出せば儂を一捻りにすることもできるじゃろうに」

「あなたが闘わない選択肢をくれるなら、私も闘おうとはしない。それが私の決意」

「ふむ、理由があるのであれば強要はしないぞ。分かった、では課題を申し付けよう」

「お願いします」

 頷き、二回杖を地面に付ける仙人。
 すると霧が彼の周りを漂い始め、何かを模り始める。

「この山は、娘さんが求める宝具と同じ木が生えておる。儂のようにそれを守護する獣が居て、待ち受けている。娘さんにはそのすべてを傷つけず、偽りの『蓬莱の玉の枝』を回収してきてもらいたい」

「分かった……けど、どうして?」

「簡単なことじゃ。本物が失われれば、ここは意味を失い崩壊する。儂はここに住まう仙人として、それを防ぎたい。じゃが、儂だけではどうにもならない……ゆえにこうして、娘さんに頼んでいるのだ」

「任せて。あなたは本当に、ここが好きそうに視える・・・から」

 ミシェルはそう答え、山へ向かう。
 すでに内部を把握しているため、その歩みに迷いはない。

 中では仙人の語ったように、魔物ではない獣たちが彼女を襲いかかってきた。
 だが、それらをすべて躱し、いなし、受け流すことで対処していく。

「ふぅ……習っておいてよかった」

 殺さずに戦う方法を、ミシェルは今の居場所を得てから学んだ。
 戦いたくないならそうしなければいい、だがそうするための力が必要だった。

「矛盾している……けど、そんなもの自分の中で正当化させればいい。メルスみたいに、そもそもみんなやっていること」

 二重規範ダブル・スタンダードという言葉がある。
 対象とするものによって、価値判断の基準が変わることだ。

「アイツらみたいにはならない。考えを重ねるぐらいなら、最初から一つにしておけばいい。正当防衛、それで充分」

 そうして進むミシェルの先には、山の頂があった。
 そこには根が銀、茎が金、実が真珠でできた木が存在する。

「あとはできるだけ傷つけないように、取らないと──“聖迅剣”」

 迷宮に入る前に使っていた光とは違う、正真正銘の聖光を纏った剣を引き抜き──瞬時に枝を切り落とす。

 根元に潜んでいた守護獣も、その手際から反応することができなかった。
 彼の存在は、その樹──『優曇華』が傷ついたと感じなければ対処できないからだ。

「ごめんなさい。けど、痛くは無かったと思うから……ありがとう──“浮遊フロート”」

 枝を確保した後、ミシェルは下山を行う。
 自身の課題を最大限尊重した仙人は、彼女にある言葉を告げるのだった。


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