AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とかぐや姫 その04



「ふむ……あれが迷宮ダンジョンであるか」


 女性は飛ばされた先の状況を確認する。
 強化された視力から覗く光景には、迷宮へと繋がる扉が設置されていた。

 だが、その前には大量の魔物たちが蔓延っており、先へ向かおうとする者たちを餌とするために襲いかかってくる。

 迷宮へ挑もうとする者たちは、魔物を乗り越えなければならない。
 しかし、この一帯に生息する魔物は冒険者たちが力を合せねば倒すことが難しく……。


「民たちは争っているようであるな。察するに、迷宮の取り合いということであろう」


 女性はそう判断し、しばらく考える。
 協力して奥へ進むもよし、そうせず異なる道から安全に進むもよし。

 そして、己が力を振るい圧倒的力を以って道を切り開くもよし。


「……覇導を万進する頃の朕であれば、そうしたであろうな」


 そうしなくなった原因を思いだし、ふっと小さく笑みを浮かべる女性。
 そうして彼女は、戦闘を行うことなく迷宮へ辿り着く──背中から広げた翼によって。





「水……いや、この香りは海か」


 扉の先に広がっていたのは、暗雲立ち込める荒れ狂う海であった。
 女性──シュリュは竜の翼を今一度背に開き、大空へはばたく。

「ここではいったい、何を集めればよいのだか……燕では無かろうし、こんな場所に火鼠も蓬莱も仏の鉢無かろう。となると、残るは龍の……いや、『辰の頸の珠』となるか」

 この世界において、『龍』は四足歩行の種族であり、『辰』は蛇のような体に手足が付いた種族である。

 東洋である井島を舞台ならば、現れるのは『龍』ではなく『辰』となるだろう。
 そんなことを考えつつ、飛行を続けるシュリュであったが……あるものを見つけた。

「九段の滝。あれがおそらく巣であるな……ちょうどいい反応も見つけた」

 探ろうとしたのだが、それよりも早く巣と疑っていた場所から魔力反応を感じ取る。
 それは竜族が放つ独特の物であり、そこが目的地であると理解させるモノであった。

「姿を現したか……名を名乗れるか?」

『……ほぉ、まさか同じ竜種を見ることになるとは。自我を得てから幾数年、初めての経験だな』

 海の底から現れたのは、黒色の辰だ。
 だが額から生えた角、それだけは月の光を移したかと思えるような冷ややかな光を辺りへ放っている。

 そしてその首には赤、青、黄、白、黒の珠が繋げられた紐をぶら提げていた。

 シュリュはそんな辰の口頭には答えず、自己の主張を告げる。
 それこそ、辺りに迷惑行為を行う者たちを見るような蔑む目で。

「名を名乗れ、そう言ったはずだが?」

『愚かな……蛙とは井の中で、ここまで堕ちるものなのか。同種であろうと我がこの力、大海以上のモノと知れ!』

「……力は抑制してあったが、竜の瞳をここまで燻らせるとは。どこまで朕をバカにすれば、このような振る舞いができるのか」

 竜の瞳を真実を見抜く。
 竜眼と呼ばれる能力を開眼した竜たちは、魔力の流れや存在力──ステータスなどを瞳越しに知ることができる。

 しかし、それも竜自身が鍛えなければただのレベルが高い視覚系スキルだ。
 それ以上に隠す技術の高い者が相手であれば、見抜くことは難しい。

「はあ……わざわざ真価を見せる必要も無しか。其方、名も言わずともよい。愚かな辰として、大海とやらがどこまで小さかったかを知るがよい」

『ほざくな、竜種の力を残滓しか持たぬ弱き者よ! その姿、やはり竜化もできぬ人の血が交わりし者か! 純なる辰にして、月の加護を受けし我に叶うはずがなかろう!』

「……くっくっく、ここまで挑発をされるのは、いったいいつぶりであろうか。うむ、構わぬ──このままで相手をしてやろう」

 シュリュは二枚、自身の体に張り付く鱗を剥す──するとそれらが発光し、いつの間にか彼女は武器を手にしていた。

 斧の刃を二つ、両の手で握り締める。
 彼女の掌よりも大きなそれは、容易く辰の首を切り落とすことができるほどの代物だ。

「銘は無いが、それこそ名も知らぬ辰の頸から珠を取るためにはちょうどよい。とっとと掛かってこい」

『貴様ァアアッ!』

 辰──『月光辰ルナティックドラロン』は猛り狂い、怒りに咆えるとシュリュへ吶喊する。
 その際、額の角が輝きその身を漆黒から白銀へと塗り替えていく。

『どうだ! これこそが我の偉大なる力である! 竜人ごときが、平伏すがよい!』 

「それだけか」

『……ガア゛ッ!?』

 片手の刃を一振り。
 己の角で貫こうとしていたはずのシュリュはそれを躱し、逆に自身に苦痛を与えていたことを感じる。

 そして、その苦痛がどこから伝わってくるモノなのか……それを探ってしまう。
 それは辰の種族としての象徴、角が砕けたことによる痛みであった。

『グ、グワァアアアアアア!』

「戦いにおいて、痛みに臆する者は真っ先に死ぬ。其方は弱いが井の中で育ったゆえに、気づくことが無かったのだろう」

『た、たかが竜人風情に我が……』

「不敬であるぞ、辰ごときが。朕を誰と心得ている──大陸を統べし竜の帝王、異端なる劉帝である! せめてもの手向けだ、そのことを覚え輪廻へ還るがよい!!」

 慈悲は与えず、鈍くも固い刃を振るって辰の首を叩き潰す。
 そして墜ちる五色の宝石、シュリュはそれらを集めていく。

「これは……鍵であったか。本物はこの奥、ということであろうか?」

 深淵のように昏い穴の底を覗き、さらなる回収作業を行わなければならない。
 そのことに息を吐いてから、翼をはためかせ海溝へ降りていった。


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