AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と橙色の世界 その15



「こ、これが……肉体なんだね」

「最低限の力しか籠められないから、戦闘とかはできないぞ。まあ、観光ぐらいならできると思うが」

「ぶー、だから私はカカもやってる眷属でイイって言ったのに……」

「……俺が言うのもアレだが、そういうのってもう少し選んだ方がいいからな。力はそれなりに手に入るけど、デメリットがあるし」


 眷属にならない代わりに、出力が低いという廉価版の『機巧乙女』──『擬人形』に本神の一部を入れることで問題は解決した。

 受肉した彼女は橙色の髪を掻き乱し、この世界をキョロキョロと眺めてはほへーと間抜けな声を漏らしている。


「で、お前を解放したんだが……何にも変わらないんだな。もっとこう、世界を襲う魔粉に影響が出るとかは無いのかよ」

「そりゃあないよ。もうとっくに世界の理は書き換えられているんだから、今さら来てもどうしようもないね。あの花を生みだした相手を見つけないと、何もできないと思うよ」

「……なんだ、無駄骨だったのか」

「む、無駄骨って……た、たしかに寝ていたけどさー」


 やっぱり、最初に会ったのがカカだったからなぁ……いきなり素晴らしい神に会ってしまったがゆえに、他が劣って見えてしまうのかもしれない。

 まあ、寝ていたって意味ではリアとも話が合いそうだが……あっちの場合、自分の意思で寝たわけじゃないからな。


「け、けど、私が解放されて、いいことだって起きるんだからね!」

「ほぉ、言ってみろよ」

「な、なんでそんなに上からなのかな? ええっと、もう理の書き換わりが起きない……とか? ほら、もう奪われてないわけだし」

「解放したのも、花を斬ったのも全部俺だけどな。神様らしいことなんて、何一つしていないってことだ」


 それを言ったらカカもそうだが、あちらはカグを守るための献身的な行動を評価する。
 そもそも何かできる状態にあるなら、赤色も橙色の世界も面倒なことにはなってない。


「……とりあえず、さっき説明した浮遊花とやらの一つに行くぞ。そろそろ魔粉との戦闘も終わるみたいだし……ああ、ちゃんと身を隠しておけよ」

「はーい」


 いちおうでも神様だろうし、何かいい情報でも持っているかもと期待はしている。
 まずはユラルとリアに会わせて……それからのことを考えよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 連絡は念話で済ませることができたので、細かい説明なんかは予めやっておいた。
 ……反応が《メルス(ン)らしいね》みたいだったのは、心にクるものがあったが。

 そして合流後、彼女たちはいろいろと話し合っていた。
 俺は省かれたので、“神殺滅封”の中に入れた花の解析を再度行っている。


「……へぇ、『トービスーイ』って名前だったんだね。なら、スーインだね」

「す、スーイン?」

「ああ、気にしなくていいよ。彼女は人の名前の最後に『ン』を付けたがるんだ」

「……リアン、そんな風に思っていたの?」


 俺のように『メルスン』ならまだそれっぽいが、クエラムなんて『クエラムン』だし。
 なんでもかんでも『ン』を付けているが、呼びづらくないかって時々思うもんな。


「ふーん、そんな名前だったのか」

「……そういえばこの人、まったく私の名前聞いてこなかった」

「あはは、メルスンらしいね。けど、今はもうちゃんと覚えてくれたと思うよ……そうだよね、メルスン?」

「ああ、長いからどこで区切ろうか悩んでいる真っ最中だ」


 トビかスイかビスか……それともトイか。
 本神に決めさせた方がいいかな、ということで全部伝えてみる。


「……えっ、全部略称なの? カカの方は、ちゃんと全部呼んでもらえているのに」

「そりゃあ二文字だし。お前ら神族の名前が長いのが悪い」

「……ぼくの名前も、君はそんな風に思っていたのかい?」

「ターリア=ペローって、長くないか? というかリア、俺っていうか眷属に今さらそんな仰々しい呼び方されたい?」


 少々言い方が悪かったが、そういう部分を理解してくれるリア。
 クスリと笑みを浮かべ、首を軽く横に振って答える。


「そんなことないさ。それに……ユラルにペローンと言わせるわけにもいかないからね」

「ははっ、そりゃあそうだな」

「メルスンもリアンも……もう」

「あ、あれ? これって、分かり合えるような話だったかな?」


 えっと……橙神(仮)が首を傾げているのだが、俺たちは誰も取り合わない。
 なぜなら俺たち、特に深い話なんてしていないから。

 それを理解しているからこそ、みんなで笑みを浮かべて誤魔化しておく。


「そういえばリア、功績とかはどんな風に評価されたんだ? 他の華都とかに干渉できるだけのアピールはできたか?」

「もちろんだよ。ユラルが協力してくれたからね、たとえ君が居なくとも、闘うことができると証明できたかな」

「……ああ、さすがは俺の眷属だな。頼もしいものだな、誰かにこういう前に出ることを頼めるって」

「こういうことの場合、メルスンは面倒だから押し付けているだけじゃないの?」


 リアに情報が開示されれば、他の選ばれし者たちを見つけやすくなる。
 だが、俺が彼らに注目されると、呪縛による<畏怖嫌厭>が発動するので避けたい。

 ……となれば、頼れるのは眷属だ。


「期待している……これじゃあダメか?」

「そりゃあ……私はメルスンの契約聖霊でもあるからね。任せてよ」
「ぼくも君に救ってもらったんだ、これぐらいのことで返せるなら喜んで」

「ありがとうな、感謝する」

「──って、そろそろ話を聞いてよ!」


 まったく、いい場面だったのに……。
 キレる橙神(仮)を見ながら、なんとなくそう感じる俺たちであった。



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