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山田 武

偽善者と橙色の世界 その10



 改めて、リアの装華について説明しよう。
 彼女の装華は[睡蓮]、槍に似た円錐状の武器と大半の装華に付いている鎧がセットの装華である。

 なので、注目すべくは武器だ。
 彼女だけが持つソレは、まさしくリアという人生の一部を切り取って生みだしたモノ。

 そこに秘められた能力も、彼女が歩んできた人生を反映して作りだされた。


「──実はぼく、あんまり槍の扱いは上手くはないんだよ」

「そーなの?」


 突然語りだすリアに、橙色の『勇者』ライカは首を傾げる。
 そりゃあそうだ、現在は模擬戦の真っ最中だ……眷属間うちだと定番だけどな。

 上手くないという槍を振り回し、使い慣れた武装で戦うライカとやり合えている。
 それでもまだ力を隠しているように思えるのだ、訝しんで当然だ。


「うん、そうさ。けど、装華は人の根幹に関わった物が具現化されちゃうだろう? だから、この形になったわけ」

「あのー、ゆっくり話すならーこれ止めてほしーなー……なーんて」


 この世界において、あらゆる事象は花が優先されている……いや、花を優先させるようになった、と言うべきだろうか?

 だからこそ、樹は存在してもそこまで注目されていない。
 樹から生えるような物は花からも生えてくるし、そっちの方が品質も高いからだ。

 ゆえにこの華都のお偉い方は、初めリアがユラルに頼んで用意してもらった樹を見たときガッカリした……そして、その性能の高さに唖然としたわけだな。


「むー。これ、全然斬れないよー!」

「ただの樹じゃなくて、聖霊が作ってくれた樹だからね」

「くっ、このー!」


 先ほどライカは武技を叫び、起動させた。
 しかし今度は完全に無詠唱で何かの武技を起動させ、近づいてくる樹の枝を切り刻んで対処を行う。

 これはリアも確認済みなのだが、本来詠唱の少ない魔法や武技の発動をサポートする機能が搭載されているんだよな。

 彼らが戦うのは魔粉……粉なので、戦闘中にあまり粉を吸わないようにという配慮なのか、補助機能が搭載されているらしい。

 しかしライカの装華レベルの補助機能は、普通は登載されてないんだとか。
 リアの能力を調べていた華都の兵士が、前にそんなことを言っていた。


「武技を言って使わなくていいのかな? 威力が落ちるらしいじゃないか……枝は切れても、それじゃあ樹そのものを伐るのは難しいと思うよ」

『リアン、メルスン。もうそろそろ捕縛した方がいいよね?』

『ぼくの方はそれで構わないよ。メルスの方は……どうだい?』

『あいよ、一気にやるからよろしく頼む』


 途端、ライカに伸ばされる枝の量が増大。
 さらに樹そのものも数本生え、彼女を捕まえようと体を伸ばす。

 武技の威力を下げないよう、口頭で告げて捌こうとするが……ユラルがそれなりに力を籠めた樹は、そう簡単に伐れはしない。


「捕まえたよ」

「ッ!?」

『さて、俺も作業を始めますか……そいっ』


 改めて『天魔創糸』に『模宝玉』の形状を変え、今度はその糸を伸ばす先を二本──武器と鎧を同時にコピー対象にする。

 当然、一本繋がれただけで不快感を示していた彼女なのでさらに顔をしかめた。

 だが、今はユラルの樹の魔力波長に同調させた解析なので、樹そのものがそういった性質を持っているように疑うだろう。


「ちょっと気分が悪くなるかもしれないけど我慢してね。魔術や装華はライカちゃんのイメージ力が落ちれば性能も落ちる。なら、今の気分で居てもらう方が助かるからね」

「……早く終わんないかなー?」

「うん、そうだね。ぼくも君みたいな可愛い子に不快な思いをさせるのは、あまり望んではいないからね。本当、早く終わってくれないかな?」


 ……二人とも、まるで俺に言っているような気がするのは気のせいだろうか?
 いや、リアの方は間違いなく分かったうえで俺に言っているな。

 すでにリアの装華のコピーを行っているので、別に未知の物というわけでもない。
 だが、それでも『勇者』の装華……幾重にも掛けられたプロテクトが解析を拒む。


『思いのほか時間が掛かりそうだな……これは本当なら、ギーに内側からやってもらいたい作業だったな。リア、すまないが会話でもして時間を稼いでいてくれないか? 今、頼れるのがリアしかいないし』

『もう……まったく、君はしょうがないな』

『あれれー、リアン。嬉しそうだね』

『……そうかもね。やっぱり、どんなことであれ、頼られるのは嬉しいからかな?』


 れれ、冷静になるんだ……俺!

 リアは素面の状態なのに、俺だけ赤面するわけにはいかないのだ!
 モブレベルの羞恥心だからか、{感情}様は俺の心を平常に戻してくれない!

 呼吸不要スキルがあるので、深呼吸をしてもしなくても変わらないが……そこは現実に居たときから変わらない仕草として、それを行うことで荒ぶる鼓動を沈める。

 そして、解析を再び行うことに……。


≪──両者、止め!≫


 始まりと同じく、どこからともなくここのお偉いさんから模擬戦終了の指示が入った。
 ユラルは樹を解除し、ライカを束縛していた枝などを地面に押し込み魔力に還元する。

 もともとユラルの魔力が生みだした物なので、そういったこともできるわけだな。
 リアも装華を解除するし──ライカも当然装華を元の蕾の状態に戻した。

 ──まあつまり、解析を行う機会はしばらく失われたわけだ。



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