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山田 武

偽善者と橙色の世界 その02

連続更新中です(10/12)
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 魔物が出てこない。
 初めは実に楽だと思っていたが……事はそう単純ではないんだとか。

 魔物は澱み、さまざまなエネルギーのそれから自然に発生することが多いらしい。
 ならそれが無いだけだろ、と答えを出せればよかったんだが……違ったようだ。


「うん、花が原因だね。たぶんだけど、魔物が生まれる素地まで食べちゃっているよ」

「やっぱりか……具体的には、どういう変化があるんだ? そこまでしておいて、ただ成長していますってわけでもないんだろう?」

「……そうだね。その成長分は、全部あの花粉に行っているみたい。あとは見ての通り、自己防衛能力かな?」

「──二人とも、そろそろ助けてくれないかな? ぼくもあんまり長続きはしないよ」


 聖霊と偽聖霊は、仮の契約者を助けもせずにトークしていた……が、そろそろその主様も限界に至りそうだった。

 リアは夢での経験を現実へフィードバックすることができるので、元は姫であるのにそれなりに戦うことができる。

 現在、彼女は生成された茨の鞭を振るって辺りの植物を散らしていた。
 植物たちも抗うように、種子を飛ばしたり根っこを振るったりして攻撃している。

 制限された能力値や装備とはいえ、それなりにリアは戦えるはずだった。
 相手が百以上で、倒しても倒しても湧いてくる……なんてことでなければ。


「ユラル、これって燃やしてもいいかな?」

「あー、やっちゃダメだと思うよ。とりあえず私の方で生えてくるのを抑えてみるから、普通に切断してみてくれるかな?」

「ほーい……“圧縮断刃ストームブレード”」


 風の刃が荒れ狂い、辺りの植物たちを根元から一気に切り落としていく。
 それでもこれまで通り、すぐさま生えようとする……が、生えてきたのは樹木だった。


「成長する養分があるから、また花が咲くんだよ。なら、私がそれを吸い取っちゃえば問題は解決ってね。リアンもそうすればよかったんじゃないかな?」

「ぼくの茨は呪いによるもので、普通とは成長の仕方が違うからね。そうでもなきゃ、いつまでもずっと咲くこともできなかったと思うよ。けど……どうせなら、もっと早く助けてもらいたかったね」


 ジト目を向けられるが、まったく否定できないので乾いた笑いで誤魔化しておく。
 お蔭である程度問題点が見えたので、それで勘弁してもらいたいものだ。


「ユラル、辺りにその樹をばら撒いておけば花粉は飛ばないってことか?」

「……その場しのぎにしか、ならないんじゃないかな? 花だって成長と進化をする。時機に強引に魔力を奪う樹にも、耐性が付くと思うよ」

「除草剤も難しそうだな。この世界の素材から、強力な除草剤が作れれば……どうにかってところか」

「あんまりオススメはしないよ。さすがにこの状態は異常だと思うけど、それでもこの世界だとその状態が成立している。だから、その仕組みを知ってからの方がいいと思うよ」


 赤色の世界は『赤の理』──相剋以上に火系統の技が効果を発揮する。
 ならば橙色の世界にもまた、異なる理が存在しているのだろう。

 たくさん試すか、この世界の者に直接尋ねるか……いずれにせよ、理は俺たち異世界人にもしっかりと作用する。

 知らないよりは知っている方がいい。
 どんな法則が働いているかは分からないのだが、使えるモノは使っていこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 とりあえず、地上はもうダメだった。
 すべてが花々に覆いつくされている……すでに征服済みということだ。

 ならば人族たちがどこを目指すのか……その答えは──空に在った。


「──“飛行”」


 再びリアに魔法を施し、移動を始める。
 俺とユラルは聖霊なので、契約者が居ればどこへで向かうことが可能だ。


「しかし、あの花が本当に島なのかい? たしかに大きいとは思っていたけれど」

「まあ、そうなんじゃないか? 少なくとも俺の世界の物語だと、こういう人類に逃げ場が無くなったときは、下か上に逃げるんだ。そして、今回は物凄く目立った場所に巨大な花がある……となれば行く場所は一つだ」

「花の花粉で困っているのに、花の中で暮らすとはどういうことだい?」

「さーてな。行ってみれば全部分かること、それを知らないからこその冒険だろう?」


 なんて会話をしながら移動をしていると、強化した視覚であれば花の詳細を視ることができる辺りまで辿り着く。

 すぐに目に魔力を籠めると、花に関する情報を集め始める。


「うーん、やっぱりあそこみたい。ほら、上の所に建築物があるよ。けど、どうして浮いているのかはさっぱりだね。上位精霊と契約でもしているのかな?」

「そうじゃないだろう。花が自律的に浮いているか、あるいは動力源みたいな物があるんだろう。まっ、これも仮定でしかないけど。リアはどう思う?」

「ぼくかい? ぼくならそうだねぇ……花の力を人族が利用している、なんてものが面白いかもしれないね。そういうのは、機械に通ずるものがあるかもしれないし」

「さて、誰の答えが正解かな? そろそろ探知されるかもしれないから。顔とかはしっかり隠しておいてくれよ」


 そう言ってから、俺たちはさらに花へと近付いていく。

 すると──遠くで警鐘が鳴り響いた。



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