AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と星の海 その20



 夢現空間 無重力室


 本日、夢現空間に新たな部屋が創られる。
 無重力室とプレートが貼られた部屋の中、俺とソウは中がどうなっているのかを試すため実際に体験をしていた。


「……まあ、ノリで作ってみたけど。やっぱり気持ち悪くなりそうだな。ソウ、あっちに居た時の感覚ってこんなんだったか?」

「そうじゃのう……空気があることに違和感はあるが、こんな感じじゃったぞ」

「俺の世界だと、無重力のときは水が球状になるって喜べたんだが……魔法を使えば、それぐらい一瞬でできちゃうんだよな」


 体積云々、内部の分子に働く引力だの、表面積がもっとも小さいなどなど……物理法則ならば面倒なあれやれこれを、魔法なら意識するか術式を読み込むだけで使える。

 そりゃあ、この世界の人々は夢の技術として愛用するわけだ。
 科学なんてまどろっこしいことをしなくとも、望んだだけで事象を変えられるんだし。

 無重力空間の中でそんなことを考えている俺は、重力魔法を操り正常な活動ができるか試しながらソウと会話を行う。


「魔法って便利すぎる、少なくとも魔法の無い世界から来たヤツはそう思う」

「儂らからすれば、主様たちの世界にある機械も不思議なんじゃが。なぜ魔力も使わず、あのような大量破壊を行えるのやら」

「あー、それは俺も思った。俺は知らない世代だし、知りたいとも思わないが……その気になれば作れちゃう、それも怖いんだよな」


 科学っ娘とも呼べる、祈念者の眷属であるノロジーの固有魔法【科学魔法】。

 構造や仕組みさえ把握していれば、科学現象を魔法が在るこの世界でも、正常に発揮できるという壊れ仕様なチートスキルである。

 俺もその魔法を使って、『もしも』のためにいろんなアイテムを作ったものだ。
 ……あまりにヤバいので、眷属からも封印指定された物が多いのだが。


「なあ、ソウ。お前、羽もスキルも使わずに空を飛べって言われてできるか?」

「身体強化をしてもよいのであれば」

「……前提から成り立たねぇな。魔力も無いから気しか使えない、そしてその気も庶民と同じレベル。なのに俺たち地球人って、平然と空を飛ぶ乗り物とか使っているんだぜ? こっちの世界の奴からしたらもう恐怖だろ」

「……儂からすれば、そんな自称弱者を語る者であった主様が、儂を捻じ伏せるまでに強くなれるのかが疑問じゃのう」


 それは間違いなくアバター……祈念者たち《プレイヤー》が受肉している体のお蔭だろう。
 スキルは好きなだけ取れるし、職業も自在に取れる、レベルはどこまでも伸びるし、種族だって自在に変えられる。

 何より死んでもまた蘇り、時の流れから少し逸脱した存在……それが祈念者だ。

 なお、本来はレベルなどの制限なんてないのだが、部分的に解除していくことで何かの変化を期待しているらしい(byリオン)。

 そうして、すべての制限を外された祈念者に何が起きるのか……それは、その仕組みを設計した運営神にしか分からない(リオンは省かれたらしく知らなかった)。


「俺は凡人で、天才たちには遠く及ばない。けどなぜか与えられたチートスキルで、人より成長速度が速い。だからどうにか、天才の一歩先を進めている……それだけだろ」

「儂も経験から学んだのじゃが、力は振るうだけでなくモノにせねばならぬ。主様のような強大なものであればあるほど、その制御は難しくなっていく。じゃが主様は、それを完全に制御できておるぞ」

「あー、こんな話、前にカナタにもされた気がする。チートを持つ云々だの、それを使いこなすだの……まあいいや、ありがとう。ソウなりに気を遣ってくれたことは、とりあえず分かったからさ」

「うぅ、なんたる不覚。せっかく主様を慰めたうえ、慰みものにできる機会が……」


 ねぇよ、そんなの。
 その想いを魔法に変え、水を生みだしてソウの頭にカポッと被せた。


「~~~~~~~~~~ッ!」

「おい、その水は絶対に飲むなよ。それじゃあ罰にもご褒美にもならないからな」

「~~~~~~~~~~ッ!!」

「ああ、そうそう。俺はちょっと用事を思いだしたから、ここを出る。いいか、戻ってくるか飯の時間になるまではずっとそのままでいろよ──いいな?」


 物凄く嬉しそうに頷くものだから、やっぱなしとも言えず……部屋を出る。
 ソウは同じく被虐嗜好のフェニとは違い、真正のヤツなのでどうしようもないのだ。


「というか、殺した云々はシュリュも同じはずなんだが……やっぱり経験の差か? シュリュは死んで蘇る経験もしてたし」


 無重力を使ったプレイがお気に召したソウはさておき、ふとつい先日のことを思い返してみる。

 試練、『超越種スペリオルシリーズ』であるミラ・ケートスはたしかにあの一連の流れをそう言った。
 そして同じ言葉を、俺は別の者からも訊いていたのだ。


「……試練、かぁ。さて、どうするべきか」


 手持無沙汰を潰すため、無重力室の前でスタンバイする俺は一冊の本を開く。
 それは一柱の『超越種』が知り得る情報が記された、叡智の本。

 そこには星空の世界に関する情報だけでなく、課せられた試練の情報も載っていた。


「あの試練の条件は、宇宙への到達。そして神の恩恵を賜われなくなった人々が、どのように振る舞うのかのテスト。なら、アイの試練にも同様の引き金があるはず……さて、それはいったい何なんだか?」


 それが分かるまで、試練が行われることはないだろう……さて、いったい何なんだか?



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品