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山田 武

偽善者と星の海 その12



 第七惑星


 地球(型迷宮)と似た迷宮ダンジョンだった。
 しかし圧倒的に違う点があり、人が活動することは難しくなっている。


「……ふむ、また呼吸のしづらい世界を模しておるのじゃのう」

「……俺としては、待機場所で呼吸をしておくだけで長時間活動できるお前が怖い」

「主様の世界と異なり、たとえ呼吸できずとも生命力が減るだけじゃしのう。たとえ儂のように大量の空気を溜めておけずとも、生命力さえあれば活動できる者も多いじゃろう」


 まあ、竜系の種族じゃなくても呼吸が長続きする種族はいっぱいいるようだし。

 海の中で活動できる種族の中には、えらではなく大きな肺を用い、一回の呼吸で長時間の活動をしているモノもいるらしいからな。


「しかしまあ、さっきとは違う意味で暑い」

「蒸されるようじゃのう。主様、これはいったいどういった事柄が原因なんじゃ?」

「さっきの雲と似たような感じだ。ガスがこの星を包んでいて、冷えずに熱が籠もっているんだ。あと、今回空の方は酸性だから皮膚が軽く融けるぞ──ここ、金星ってのはそういう場所らしい」

「酸程度であれば、どうとでもなるが……近づかなければ問題なかろう」


 竜って、酸効かないんだな。
 まあ、魔法的な酸ならもしかしたら通用するかもしれないか。

 そういうことは……いずれ調べておくとして、今は迷宮の踏破を続けよう。


「ここは……普通に隠れているのかもな。クジラも泳いでいるし、サクッと踏破すればいいか。よろしく、ソウ」

「……なんだか手馴れはじめたのう。もう少しこう、労わってほしいのじゃが」

「初めはここに行くことを決めたのはソウだから、全部やらせようと思ったが……さすがに働かせ続けているし、うーん…………全部終わったらご褒美でも考えておくよ」


 そう言うと、眼を輝かせ始めるドM銀龍。
 やる気に呼応してほんの少し、湧きだす魔力……まあそれも、ソウや俺にとってだが。

 空を飛ぶクジラたちが、火星のときのようにいっせいに飛んできた。
 今回の場合、無視できないだけの膨大な魔力が溢れたからだな。


「ふっ、主様よ。全部倒してしまっても構わぬのじゃろう?」

「……フラグのはずなのに、全然そうは思えないな。まあいいや、普通に攻略しようとも考えたが、ちょっとやってみたいことがあるから好きにしてくれ──ただ、上には注意しておいてくれよ」

「むぅ……儂の活躍を残しておいておくれ」


 ソウはこれまでよりも意識して、力を高めてクジラたちを屠りに行った。
 俺はそれを見届けながら、クジラたちの居る座標をすべて把握していく。


「さーて、たまには俺もやってみますか……魔導解放──“降り注ぐ混沌の流星”!」


 バッと手を空に透かせば、どこからともなく大量の隕石が金星に墜ちてくる。
 ソウが居るのにも構わず放たれた隕石は、的確に彼女を当てずにクジラへ命中する。 

 魔導の使用は縛り的にどうかと思うが……ソウばっかりを働かせている現状を考えてしまうと、眷属優先という絶対的ルールを働かせてしまった。


「属性付与──『氷河』」


 後から属性を隕石に付与することができるので、ここいらで無駄に頑張ってみる。
 具体的には熱いところで氷を発生させ、それを維持し続けるといったところだ。


『────ッ!』

「時間が掛かるな……先に付与していたわけでもないし、仕方ないんだけどさ。ソウ! 完全に凍った順に、どんどん砕いてくれ!」

《うむ、心得た》


 念話で返事が返ってくると──次々と氷が砕かれ粒子となり、瞬時に融かされて雨の雫となっていく。

 それだけ暑いわけなんだが……なんだろうか、不思議とかき氷を食べたいとか的外れな思考をしている自分がいる。


「魔導解放──“時をも凍る氷牢棺”」


 また現れ始めたクジラに向け、異なる魔導で対応する。
 事象を凍てつかせ、封印する魔導だが……副次的に氷が生成されるわけで。


《ソウ、かき氷が食べたくないか?》

《……このクジラで、ということかのう?》

《食べながら迷宮を探そうぜ。デートっぽくないか、そういうのって?》

《むぅ……では、儂は抹茶で頼む》


 要求されたので、井島で購入しておいた最高級の茶葉から生成した抹茶を用意する。
 この氷は魔導で時間ごと凍っているので、ただの温度程度では融けることはない。

 だが、時属性を帯びたアイテムなどがあれば、それに干渉可能となる。
 食品衛生を今さら気にし、アイスピックのような物でかき氷にしてみました。


「じゃあ俺はミックスっと……ほい、ソウの分の抹茶宇治金時」

「おおっ、このようなサービスまで……よもやこれが、ご褒美ではあるまいな?」

「ああ、もちろん別々。隕石を降らすついでに目的地も見つけておいたから、かき氷を食べながらそこに行こう」


 ちなみに今回迷宮は、深く切り立った斜面の谷が入り組んだ複雑な地形の中にポツンと存在していた。

 さながら天然の迷路のように思えたが、迷宮の中で迷路ってのも……なんだか普通だからこそ新鮮に思える。


「けど、ただ入り組んでいるだけだからさ。地形を把握できるスキルがあれば、目を瞑っていても攻略できるんだ」

「なるほどのう、それで主様は頭を抱えながらでも問題なく歩けておるのか」

「……痛ぇ。大量の敵と戦うよりもかき氷にダメージを負うって、俺大丈夫かな?」


 迷路を潜り抜け、金星も踏破完了。
 残る星の数はあと一つ……それが終わりさえすれば、今回の旅は終わるのかもな。



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