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山田 武

偽善者と星の海 その02



 アンと下へ向かったように、ソウと上へ向かっていく今回のお出かけ。
 ……いや、俺はただ乗っているだけなので前回よりも暇なんだけどな。

 速度を上げれば一瞬でできる宇宙への道のりを、観光気分でまったりと移動中。
 現在は成層圏の辺り、もう間もなくオゾン層の壁を突破するぐらいだろうか?


主様ぬしさま、本日の縛りはなんなのだ?」

「形状変化の禁止だな。武具ならギー系のヤツはダメだし、魔法はオプションを付けるのがアウトだ。オリジナルの魔法は……細かいオプションを付けるのがダメだな、眷属謹製の魔法はギリセーフってことで」

「今回はあまり、戦闘そのものに影響が及ばぬ縛りじゃな」

「……上に何があるか分からないからな。件の『超越種』だけじゃなく、俺の世界だと宇宙にはヤバいものがいっぱいあるって言われているし」


 ──宇宙的恐怖コズミックホラー

 名状しがたい……いや、この場合はしてはいけないアレやコレ。

 這いよってくる混沌的な存在たち、もしかしたらそういう系の彼らは神様云々で揉める世界とは別にまだ存在し、こちらにSAN値チェックを要求してくるかもしれない。


「……とりあえず、精神の防御だけは念入りにやっておかないと」

「主様であれば、{感情}によってすべてを無効化できるのではないか?」

「俺が怖いと思うレベルには、感じちゃうからな。発狂して死ぬことはないだろうけど、それでも怖いモノは怖いと思うのは仕方がないって判定なんだ」

「たしかに。主様がすべてを無にしているのであれば、今なお誰もが悶々としておった」


 たとえはともかく、前にも言ったことだ。
 完全な平常というわけではなく、俺が一定の感情値を超えた場合に元に戻すというだけのこと……もし遭遇したなら、リセットと恐怖度マックスが超高速で繰り返されるだけ。

 それはそれで人としてぶっ壊れそうな気もするが、遭わなければいい話……凶運ではあるが、さすがに出遭わないと思う。


「オゾン層もそろそろだな……もしかして、あれか? なんか可視化できるんだが」


 薄い虹色みたいな結界が、空一面に広がっているのだ。
 地球では絶対に見ないであろう光景に、ふとツッコンでしまう。


「主様は見たことがないのかのう? あれは境界線じゃよ」

「境界線……えっと、なんのだ?」

「この世界と広がる大世界との、じゃよ。この世界と宇宙とでは、非なる理が働いている場合がある。そしてその逆、この世界ゆえに働く理もまた存在する」


 つまりまあ、あれだ。
 規格のようなモノがあり、オゾン層はそのシステムが働く領域を示しているのだろう。

 地球とAFO世界、そして赤色と橙色の世界しか知らない俺にはよく分からないが……まあ、最初の一つと他の三つを比べればどういうことかよく分かるだろう。


「ソウはなんでそんなこと知ってるんだ?」

「年の功、というものじゃよ。すっかり忘れておったが、こういった知識をかつての故郷にて習った気がしてのう」

「ふーん……ぜひ行きたくなったな。まあ、今は上を目指すか。この世界特有の仕組み、というのはチンプンカンプンだが、問題があれば戻ればいいしな」

「うむ、では突破するぞ。衝撃が主様に届かぬようにするつもりではあるが、主様自身も対策をしていてほしい」


 あいよっと答え、何重にも防御を施して何が起きてもいいようにしておく。

 やがてソウが結界に触れる……その直前であることに気づいた俺は、魔力で生みだした手綱を引っ張ってソウを急停止させる。


「ちょちょ、ちょっと待ってくれ!」

「むぅ。通るにはかなりの力を必要とするのだが……いったいどうしたのだ? 嗚呼、しかし主様に手綱を取られるというのも、なかなかに──」

「この層の直前、ここら一帯に次元属性の反応があるな……なあソウ、そういう話を聞いた覚えはあるか?」

「……ううむ、次元の壁。おそらく主様もこの言葉にならば、心当たりがあるのでは──『天上世界』」


 それは書物に記された伝説の世界。
 そこに住まう種族はありとあらゆるモノが上位種であり、その最深部には神々の住む世界が存在するとされる場所だ。


「迷宮から行くのが正攻法のはずだったんだが……そうか、ここで次元魔法を使っても行くことができるのか。魔力消費は尋常じゃないが……まあ、できないわけじゃない」

「主様、どうするのかのう?」

「…………上に行こう。今回はソウと宇宙に行くのが目的だ。それに、天上世界ともなれば運営神の目も厳しいだろうし。とりあえず放置しておく」

「うむ、主様がそう言うのであれば」


 心なしか、ソウから喜びの感情が感じ取れる……うん、正しい選択を選べたか。
 改めて、オゾン層を突破するために準備をしだすソウ。

 具体的には少し後方へ下がり、勢いよく推進力を得て突っ込むといった感じだ。


「では行くぞ、主様」

「どんどん行っちゃってくれ……あっ、そうだ。騎竜の効果でサポートできるみたいだから、魔力を流し込んでいくぞ」

「……っ! ぬ、主様、それでは別のところに逝ってしまう!」

「? だから、天上世界には行かないって今話したばっかりだろう? ほら、力を貸すから宇宙に行こうぜ」


 ふっ、俺の日々成長する魔力制御の技術があれば、ソウを絶妙にサポートすることも容易く可能である。

 お蔭でソウは速度を増し、白銀色の光を纏いながらオゾン層を突き破った。

 ──そして、それはAFO世界を飛びだしたことを証明する。



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