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山田 武

偽善者と赤色の解放戦 その03

連続更新中です(08/12)
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「……これかな?」

 ソレを見つけたのは、『守護者』を冠する少女──ルミンである。

 特殊統合職である【初心者】に就き、さまざまなスキルを所持していたことで、不審な事柄に敏感なことも作用した。

 それは真紅に輝く宙に浮かんだ正方体。
 向きや角度を変えながら回転し、どうして気づかなかったのかと思えるほどの存在感を放っていた。

 ルミンはすぐに他の者たちへ連絡し、全員が集まる。

「これはー……うーん、たぶーんこれだと思うよー」

「本当か?」

「そーう。ここにみんなでー触ればー、試練が始まるよー」

「つまり、先ほどと違いこの場に全員が集っていなければいけないわけか。うむ、では覚悟を決めた者からここに触れてくれ」

 まずは『赤王』たるウィーがそこに手を。
 次にすでに調べるため触れていた『賢者』のアカネ、そしてそれを見つけた『守護者』のルミンが触れていく。

「俺たちも、触れるか?」

「……うん、そうだね」

「まあ、みんながそう言うなら……」

 続いて『魔王』のシヤンが、『勇者』のサランが触れていき──最後に渋々と言った表情で『聖女』のナーラが手を伸ばす。

『──ッ!』

 途端、六段階の濃淡で輝く正方体。
 内側から爆発するように光が溢れだし、辺りの景色が塗り替わっていく。

「すごーい、仕掛けー」

「こんなの、あるんだな……」

「人族の世界にも、いろいろと面白いモノがあるんだねー」

 それぞれがさまざまな感想を述べている間にも、変化は着々と進行してる。
 ただ赤かった空間は情熱的な炎を迸らせ、はるか先に扉を生みだす。

 半透明なそれは鎖で縛られ、ただ開けようとするだけでは開かないことをすぐに理解できるような見た目をしていた。

 ウィーはその変化を確認すると、再び胸の中に仕舞っていた石を取りだして外部との連絡を取る。

「メルス、見つかったぞ。半透明で鎖で雁字搦めの扉が出てきた」

『ふーん……となると、試練を突破してももう一捻りする必要がありそうだな。ウィー、お前たちはたぶん魔物と戦うだろうからソイツらを倒してくれ。それでとりあえず、触れると思うから』

「了解だ、終わったら連絡する」

 それだけ伝え、石を再び仕舞った。
 一部の者がとある部位を凝視し、自身の装甲と見合わせていたが……今は関係ないため詳細は省く。

「──そちらに何か変化はあったか?」

「……ありません」

「少なくとも、まだ無いな。私たち幻獣種の感覚を超える隠蔽能力があるのであれば、分からないが」

「リュナ、シュカ。二人にも期待している、これから何が起こるか分からない、警戒は怠らないでくれ」

 索敵担当である二人の獣人──獅子と兎の幻獣人たちに、そう伝えるウィー。
 彼女たちもまた、仮の従者としてこの試練に参加していた。



 だが、今回ソレに気づいたのは五感の精度が高い獣人たちではない。

「…………」

「おい、どうかしたか?」

「ライア……うん、何か来る気がして」

「お前の言うことだ、本当に何か来るのかもしれないな。武器を用意し──ッ!」

 気づいたのはオウシュであった。
 彼の職業は【神殺剣士】、そのためとある力に敏感であった。

 世界に存在する力の中で、もっともエネルギーを秘めた概念──神気に。

「──『紅焔』!」

 まず動いたのは、柄をすでに握り締めていたライア。
 膨大な熱量を持った紅の剣を振るい、現れたソレを斬り裂く。

 ソレは炎が人を模ったもの。
 その手に武器状の炎を握り締め、どこからともなく現れていく。

「おい、全員分かっているだろう! ──敵は炎の奥から出てくるぞ!」

 オウシュは燃え盛る炎を見ながら、そこに不安感を持っていた。
 ライアも同様にそちらを睨んでいたため、もっとも早くそれに気づけたのだ。

「総員、まずは距離を取るぞ! 時間を稼ぐ間に……頼むぞ、アカネ」

「はーい」

 ウィーたちも合流し、炎の壁から離れ中心部へ向かう。
 そして辺りを見渡し……すでに至る所から人型の炎が現れていることに気づく。

「臭いも無い、音も周りの炎と同化していた分からなかった……すまない」
「……すみません」

「いや、それはいい。シュカ、リュナ。今は彼らの相手をすることだけに集中してくれ」

「ああ!」「……うん!」

 一撃でライアが斬り裂けたように、単体の耐久度はそう高いモノではない。
 混戦に陥るかと思われたが、彼女たちは順調に人型の炎を倒し続ける。

「くそっ、だんだん固くなってるぞ!」

「しっかりと連携を心掛けるんだ。アカネ、何か分かったか?」

「試練だからねー。少しずつー固くなるーんだと思うよー」

「ふむ……サラン、焼き切れるか?」

 アカネの考察を受け、ウィーが声を掛けたのは『勇者』のサラン。
 妖精という小さな身でありながら、彼女は次々と人型の炎を屠っていた。

「焼くの? うーん……まあ、やってはみるけど──“合精霊創造クリエイトエレメンタル火焔蜥蜴フレイムサラマンダー”」

 応じて生みだしたのは、火の上位精霊。
 そして自身の武器である人造聖剣へ、その火焔蜥蜴を憑依させる。

「──“精霊憑依ポセッションエレメンタル”!」

 人造の聖剣は、赤と白の混ざり合う輝きを放ち始める。
 それを大きく振りかぶると、横薙ぐように腕を回す。

「──“精霊解放”!」

 武器の効果によって増幅された上位精霊の力は、ただの横薙ぎを業火を伴なう熱波の斬撃へ変貌させる。

 人型の炎を生みだす壁ごと──斬撃は飛んだ先にあるものすべてを燃やし尽くした。


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