AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と東の西京 その15

末日です
連続更新中です(01/12)
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『……滅』

「新個体か……まあ、躱すけど」

『……滅!』

「そう怒るなって。こちとらお仲間さんも含めて全員と遊んでやっているんだ、一人ひとりに構っている暇がないってだけだよ」


 状況は口頭で説明した通りだ。
 大量の屍鬼が襲い掛かってくる中で、目的地を見つけるまでただひたすら逃げるだけの簡単なお仕事。

 足を回し、腕を曲げ、体中を酷使しながら駆け巡っていく。
 スキルなどは使わず、自分なりに楽しいと思える避け方を中心としてだ。


「わざわざ(酸素不要)で活動可能にしたうえで、ここまで口を動かしてやっているんだから、もう少しキレのいい動きを見させてもらえないものかね? これだから、バカの一つ覚えみたいに同じことしか言えない個体は」

『……滅、滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅ッ!!』

「今さら狂化状態になられてもな……そういやっとさっと」


 二本の刀を鞘ごと地面に押し付け、その反動でまず体を浮かせる。
 この際、軽く身体強化を行って筋力を高めておかないと死ぬ。

 低い姿勢で突っ込んできた屍鬼が通過したところで背中を踏み付け、刀を引き抜いて再び走り抜けていく。

 背後からは先ほどまでいっしょに居た他の屍鬼たち、少しずつ霊刀[払魔]を振るって動けなくしてはいるが……それでも数は増えていく一方だ。


「ずいぶんと大所帯になってきたな。数を集めて一人を寄って集ってイジメかよ。やれやれ、いつの世もどの世でも変わらない選択肢しか取れないのか……弱者はいつだって、強者を団結して倒そうとする」

『……怒!』

「だから、お前らも、そうして、狙っているわけだ……甘いっての」

『……虚!』


 不意打ちを狙って気配を辺りに融かしていた『虚』の屍鬼の一撃を躱し、バッサリ斬って次へ進む。

 一対一の状況まで追い込めば、処理できるのだが……実はこのパターンはだいぶ久しぶりで、俺の油断を誘っていたのだろう。

 基本的には二、三体で同時に攻撃し、危険になれば援護射撃を受けながら後方へ下がっていく。

 今回はそれができない状況だったので斬れたが、そう簡単にはいかなくなっている。
 時間経過で学習でもしているのか、少しずつ作戦っぽい動きをしてきているからだ。


「ならお一つご開眼──“波浄眼”」


 赤色の『魔王』であるシヤンの瞳だが、能力は波と浄化を操る魔眼だ。
 上位互換である神眼のスキルにストックされており、いつでも発動できる。


「今回は浄化だけで充分か……ほいっと」

『……哀!』『……憂!』『……悲!』

「三体だけか……まあいいや。これでしばらくはこの眼を警戒してくれる」


 視界に収めた三体の屍鬼が突然脱力したことで、周りの屍鬼たちは不可視の攻撃を警戒しだす。

 たとえ眼の色が元に戻ろうと、その現象を暴いていない現状では強行突破みたいな手段など取れるはずもない。


「けど、こんな猫騙しみたいな手段がいつまでも持つわけでもないし……早く、目的地を見つけださな──よしっ」


 逃げるのはそろそろ終わりだ。
 違和感のある場所を発見したので、目的地へ向けて駆けることを決める。

 ただし、その進路は──


「なんでこれまで気づけなかったんだよ……先に分かっていれば、お前らとやり合うこともなく行けただろうに」

『……壊』『……崩』『……嗟』『……嘆』
『……偽』『……悪』『……業』『……亡』

「どんどんどんどん……いったいどんだけ居るんだよ。まあ、天逆毎が封印される前から知られていた奴みたいだし、相応のストックがあるんだろうけれど」


 定期的にそういった現象として発生するらしい『輪魂穢廻』は、当時の『陰陽道師』に封印されたんだとか。

 ずいぶんとまあ、ご活躍している彼によって一時は平和になった……が、ちょうど祈念者が来るこの年になって復活したらしい。

 それはずいぶんとご都合主義で、いずれは主人公候補がぶつかる問題だったのかもしれないが……それで被害を受ける者がいるのならば、偽善者は動かざるを得ないわけだ。


「目的の場所は界廊のちょうど真ん中、そして俺の場所はそろそろ世界側の出口!」

『……絶!』

「だから、そう簡単には逝かねぇって言ってるだろうが!」


 正面から突っ込んでくる『絶』の屍鬼。
 それは壁に手足が生えたようなヤツだ。
 俺は刀を手放し、宙で調整し──柄を蹴って屍鬼に叩き込む。

 鈍い音を立ててぶつかったソレは、そのまま中心を貫き反対側へ飛んでいった。
 俺もその空いた穴を抜刀術で広くして通過すると、墜ちてきた刀を掴んでまた走る。


「お仲間が倒れるんだ、みんなで力を合わせて助けてやってくれ」


 ぐらりと倒れ込むその屍鬼を避けようとするが、ここは多少広いが一本道だ。
 大半の屍鬼はこの場で倒れ込みに巻き込まれてダウン、残った個体は十体もいない。


「ふぅ……これであと少しってところだな。ちょうどいいところで『ぬりかべ』っぽい屍鬼が出てくれて助かったな。これも日頃の行いがいいからだな」

『……業!』

「このタイミングで言うか!? ……いや、関係ないよな」


 この世界だと、業値ゼロだしな。
 たとえ屍鬼がそう告げようと……俺は無実だと主張し続けよう。



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