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山田 武

偽善者と東の西京 その13



 さすがに次元が崩壊した、とかそういう問題ではない。
 あれは完全状態でなければ俺はできないので、今の俺がどう抗おうとまだ不可能だ。


「…………」

『…………』

「『…………』」


 問題は裂けた空間から繋がったどこか、そこに居る者と合ってしまった視線。
 タイミングを間違えたというか、今じゃない感が半端ない。


『…………』

「──ちょっと待つのである」

『は、放せ! なんかこう、違うタイミングじゃないとダメだろう!』

「いやいや、間など気にしていては時間を無駄にしてしまう。お主も某が来たことは理解していたのだろう? ならば話は早い、そこへそのまま乗り込ませてもらう」


 よいしょっと軽快な動きで狭まりつつあった空間の裂け目に侵入し、一気に当てもなく探していた目的地に到達する。

 そこに居るのはとても不服そうな顔をしている少女……背中には烏の羽、頭には獣耳があるという属性テンコ盛りな見た目だ。


「初めましてである。某の名は……太郎、とでも言っておこう」

「……アメ」

「息子と同じ名なのであるな。できれば別の名にしてほしいのであるが」

「名前に別も何もないだろう……それなら、『ノザコ』にでもしておけ」


 口調は男の子っぽく、カナタのようだ。
 ただしあのTSロリダークエルフと違い、なんだかワイルドな感じを醸し出している。

 見た目は少女なのに、そう口調……やっぱり属性がふんだんに盛られていた。


「ノザコ、であるか……ではノザコ、単刀直入で言うのであるが、お主はいったい何をしてここへ封じられたのであるか?」

「別に。ただむしゃくしゃして暴れてたら、いつの間にかここにいた……ただそれだけ」

「……お主ら親子は難儀な性格であるな。いう気が無いのでそれで構わぬ。では次、お主はここから出る気はあるのか?」

「無いな。ここは居心地がいいから、思う存分やっていける。太郎も歓迎してやるぞ」


 居たくはないし、俺が今この瞬間滞在しているのも嫌というわけか……だからこそ、先ほども邪天狗を使いに出して俺を追いだそうとしたわけだ。


「それはありがたいのであるな。おっと、まずは土産を渡すべきであったか……これなどどうであるか?」

「これは……鍵か?」

「うむ、某が暇を潰すために創った物だ。次元魔法を籠めた物、といえば分かるか?」

「いろいろとツッコみたいが、受け取っておこう。不要ではあるが、飾りにして放置しておくぐらいはしてやろう」


 口ではそういうノザコではあるが、なんだか口元は緩んでいる……同じ口なのに、ここまで異なるとは。


「……疲れぬか、その言動? 息子……アメと名乗っていたが、同様に本意と逆の言葉を選んで使っておったな。そろそろ答えを知りたいのだが……お主、『天逆毎アメノザコ』か?」

「違う」

「そもそも、名が雑すぎる。アメ、ノザコと続けばさすがに某でも思いだす」

「だから、違うと言っている!」


 怒っている口振りだが、まったく周囲の瘴気に変化が無いので怒ってはいないだろう。
 ちなみに、俺がその名前を知っている理由は……昔取っちゅうがくせいた杵柄のくろれきしってヤツである。


「妖怪であり邪神でもあるお主がここに居る理由も、ある程度把握できる……が、その振る舞いに疑問が生じるのだ。お主は切れやすいとのことだったが……なぜだ?」

「何も変わってはいない。あの陰陽師が褒めてきた、もっと怒れってな」

「例の『陰陽道師』か。邪神故、神の持つ例の性質からは外れたか……なるほど、納得のいく説明であった」

「……ふんっ」


 要するに、何か言われて変われたわけだ。
 本来の『天逆毎』は、ひどい荒れっぷりが伝承として書き記されるほどの凶暴性を持つ存在だった。

 それに加えてこの言動だぞ?
 どう考えても誤解されること間違いなしだし、それを本人がどうすることもできない。

 むしろ、よく『陰陽道師』がどうにかできたな……褒めたの逆なので、怒ったというか説教をしたって感じだろう。


「それで、太郎はなぜここに来た。もっと別の目的があるだろ?」

「うむ、お主を式神にして……まだ話は続くであるぞ。式神にして、ここから出そうと考えていたのだが、気が変わって鍵だけ渡したのだ。だから気を抑えてほしい」

「……もう許さない」


 どっちか判別しづらいが、たぶん次は無い的な意味だと思う。
 ゴホンと咳をして気持ちをリセット、改めて説明を行う。


「お主は束縛されるよりも、自由で居た方がなんだか面白い気がしたのでな。闇雲に暴れるわけでもなかろう?」

「……理由は?」

「勘、と言いたいところではあるがここはお主の子のお蔭と答えよう。ここに至るまでそれなりに話しているからな。故に理解した、お主は邪神であるが堕ちてはいないと」

「チッ、わけ分からないな。まっ、もしそんなことをしようとしていたら、こっちも全力で抗ってたさ。ここは都合よく、何をしても平気な場所なんだからな」


 天逆毎──面倒なのでノザコに戻す──の支配領域であるここで戦っても、圧倒的不利な状況に立たされるだけだ。

 邪気で満たされた空間において、邪神はほぼ無敵になるわけだし。


「ああ、もう一つだけ訊きたいことがあるのだ……『輪魂穢廻リンコンアイネ』について、何か知っていることはあるか?」

「無いぞ」

「そうか、やはり無いのか……あるのか!?」

「どっちだよ」


 俺が言いたい台詞を取られてしまった。
 とにかく、問題はさらに進展しそうだ。



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