AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とレイドラリー中篇 その14
もちろん、グラには言葉を発さないように伝えてある。
本人(犬)とも話し合い、俺以外の存在が近くに居る場合は言葉が出ないような呪いも施してあるのでおそらくバレはしない。
少なくとも……モフモフに心を奪われている『月の乙女』の皆さま方には、バレることは無いだろう。
「ますたー、そろそろいいかな?」
「………………」
「ハァ……“衝撃球”」
並列で起動させた六つの球をふわふわと飛ばし、彼女たちでぶつける。
風船が弾けるような衝撃が彼女たちに伝わり、ハッと目を覚ましていく。
「サーベレ、お疲れ様」
《またいつでも呼んでね!》
「うん、また後でね」
『……あっ』
普通の従魔持ちも、言語を持たない従魔の感情や言葉がなんとなく分かるので、受け答えをしても疑問には思われない。
帰還だけならグラが単独で行えるが、いちおうの演出も兼ねて魔法陣を描き、発光させてから帰ってもらった。
「──さて、ますたーたち。いちおう訊くけど『ザ・グロウス』には勝てたの?」
『…………』
「あー、うん。なんとなく分かったから、言わなくていいよ。相手はもう何百人も学習しているんだから、難易度も高かったね」
明確な数字は分からないが、同時に何十万もの人々が祈念者としてこの世界を訪れているのだ。
中でも『月の乙女』を超える実力者は、多くはないが少なくもない……そして、彼らの実力はすべて『ザ・グロウス』の糧となる。
「一つずつ、ゆっくり聞かせてほしいな」
『…………』
「もちろん、頑張ったみんなにはご褒美が必要だよね。ちょうどいい時間だし、ティータイムでもやりながら──」
「何をしているんですかメル。すでにみんな向かっていますよ! さぁ、ほら早く行きましょう!」
女の子って、パワフルだなぁ……そんな突拍子もないことを思いながら、身体強化を駆使してダッシュするクラーレに引き摺られていくのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
「なるほど、いろいろと分かったよ。見返りのバイキングセットはここに並べるから、自由に食べていいよ……あっでも、一部はとってもカロリーが高いから気を付けてね」
「え゛っ、いったいどれが──」
「それじゃあ、私は少し情報を纏めておきたいから……どうぞごゆっくり」
「メ、メル、せめてどれがハイカロリーなのか……説明して言ってくださいよ!」
クラーレの慟哭を右から左へ聞き流し、甘い香りのする部屋から出ていく。
そのまま建物から退出すると、姿を隠した状態で勢いよくジャンプする。
「さて、ここで考えようかな?」
浮遊スキルと重力魔法を組み合わせ、空に居る状態を維持し続ける。
結界で足場を用意しても良かったが、ふわふわとする感覚が欲しかったのだ。
「アン、聴いている?」
《はい、いつでもどこでも二十四時間バッチリです》
「……んー、まあいいや。『ザ・グロウス』は面倒臭そうだね」
《模造とはいえ創造方法そのものは神が行った正真正銘の『超越種』です。その能力を成長に特化させているのであれば、相応の学習結果となったのでしょう》
ちなみに、容姿なども確認済みだ。
庇護欲的な観点から、中性的な子供なんだとか……運営神よ、お前らはそれで本当にいいのか。
《これまでの者と違い、メルス様の容姿を真似る必要が無くなったのです。つい張り切ってしまったのかもしれません》
「……なに? 私の顔が残念だから、創った側にストレスが行ってたとでも? 止めて、わりと納得しそうな自分が居るから」
《そんなことはありませんよ。ええ、ございませんのでご安心を》
「いちおう確認するけど、もしここに居たらちゃんと目を合わせてくれるんだよね? あれ、返事が聞こえなく……ねぇ!?」
だがしばらく、アンの返信が入ってくることは無かった。
待つこと数分、なんだか慈しむような声が伝わってくる。
《大切なのはそこに籠められた想い……そうでしたよね?》
「…………いいよ、もう。話をそろそろ戻そうか。『ザ・グロウス』はプレイヤーからそれぞれの得意なことを学んでいるみたい。それが初めてだったり一定水準を超えてると、ご褒美として宝珠が貰えると……」
《なるほど。つまり『月の乙女』の皆さま方も……》
予め言っておいたので、固有スキルだけはいっさい使わずに戦いを終わらせたようだ。
しかし、逆に言えば一般スキルはだいぶ使用したようで……。
「まあ、一般スキルも組み合わせれば脅威になるってことだよね。私としても、そこはぜひ知りたいものだよ」
《あまりネタスキルは持っていませんしね。もっともネタな個有スキルを習得したメルス様が言うだけはあります》
「あはは……でも、そのお蔭で眷属と居られるんだからいいじゃん。こればかりは絶対に真似できないし、真似させないよ」
実際、神代魔法は個有スキルとして取得できている……内包数は少ないが、リュシルも習得しているので、個有スキルは絶対にオンリーワンというわけではない。
──模倣ではなく成長。
俺の種族たる[不明]同様、そっくりそのまま真似るのではなく、自分なりにアレンジしてモノにする可能性だってある。
時間を経れば経るほど、厄介になる面倒臭い『超越種』……どうにかできないかな?
コメント