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山田 武

偽善者とレイドラリー中篇 その07



 妖精サイズのメルで居ると、思いのほか省エネできることに気づいた。

 魔力で体を押し留めているはずだが、変身後の姿がその維持費よりも効率のよい肉体をしているからだな。

 魔力を取り込む量などは変わっておらず、消費量だけが減った妖精ボディ。
 そうか、たぶん種族的に魔力の扱いに長けているのもそれが理由の一つかな?


「それなら、森人族エルフのフラットな体の理由もなんとなく……ハッ、殺気が!」


 おかしいな、祈念者なら自由に大きさを調整できるはずなのに……俺だけを呪う必要はないはずだ。

 ただまあ、現実と肉体の設定を変えれば変えるほど違和感に襲われるらしい。
 故に祈念者は自分の体に合った種族を普通は選ぶ……魔物を選ぶのはかなりレアだ。

 一歩間違えれば、ミシェルのように街から追放されるわけだし……話によれば、いちおうの対策はあるらしいけれど。


「と、とりあえず殺気から離れないと……どうか気をお鎮めください、妖精である私も同じくフラットですから」


 心なしか、殺気が弱まった気がする。
 真摯に祈るとその殺気も薄れ……十秒も経てば完全に消え失せた。

 嗚呼、居るか目覚めているかどうかも分からない胸の貴賤を司る神よ!
 どうかすべての女性たちに祝福を、願わくば望むだけの豊穣を与えんことを……!


「こ、これぐらい祈っておけばみんな救われるよね? の、呪い殺されないよね?」


 運営神に呪われている俺ではあるが……数柱程度の神よりも、膨大な数の女性たちによる呪いの方が怖い気がする。

 いちおう現人神なので、信仰……というか想いを受け取ってしまうのだ。
 そこに大量の恨み辛み呪いが籠められてしまえば……呪殺されるよ。


「そういえば、死んだ場合って死に戻りして結晶の所に行くんだっけ? どの結晶に行くのか訊くのを忘れてたよ」


 結晶が一つでは込み合うという配慮はできるのか、各地に配置されている。
 それぞれ機能は同じなので、拠点に近い場所に置かれた結晶でセーブを行っている。


「ここだと神殿が死に戻るための場所として使えないからねぇ……そういえば、運営神が一つぐらい自分たちを崇める場所を用意すると思ったけど、一つも見つかってないんだよね……何か企んでいるのかな?」


 心当たりはある──『ザ・グロウス』だ。
 わざわざ神敵扱いの『偽りの厄災』を屠る者が現れたとき、生成されるように仕組んだことには意味があるのだろう。


「ただ、具体的な神の名前が明かされているわけでもない……まあ、それはそれで信仰の糧になるのかな? 神像も曖昧なヤツだったし、そういうことにしておこうっと」


 別に、これまでと変わらない部分だ。
 それに、完全に神の名を奪っているわけではないので何かしらの制約はあると思う。

 それこそ、『星の銀貨』の世界やティルからそれぞれ、運営神以外の神の名前が挙がっていたわけだし……。


「あっ、そういえばアマルたちも知っていたね。それに……あの神剣も」


 神器の中でもアマルが持っていたのは、その神が持つ権能の一部が宿っているという超激レアな代物だ。

 それは神そのものでもあるため、アマルに向けられた信仰を自分のものとして取り込むためのシステム……というとあれだが、纏めてしまえばそういうことである。

 ちなみに二段階存在し、本気の場合は最後の辺りに『魂』や『魄』という文字が追加されるぞ。

 魂と魄の内その片方の一部を注ぐことで、神器の質と受け取る信仰量を増やせるのだ。


「だからあの神剣でアマルが活躍し続けることが、もしかしたら神の復活に繋がるかもしれないんだよね。他に同じ仕様の神器は一つも無いし……うん、他大陸で頑張ってね」


 神殿へ次々と入っていく祈念者たち。
 そのすべてを糧として、『ザ・グロウス』は成長を遂げていく。

 技術だけでなく、おそらくスキルやオリジナルの魔法なども……『模倣者』の二つ名を持つ俺を相手取るならば、大量の手札が必要になると踏んでいることだろう。


「まあ、こっちもこっちで『俺』からいろんなスキルを頂いたし……条件は同じかな? だけどあれって、ほとんど私のスキルを再現しただけだったし、そう考えると不利な気もするけど……」


 似たようなスキルだからこそ、合わせることでよりよいスキルを生みだせる。
 だが、:開封:スキルが対応していないレア度のスキルなので、復元は不可能だ。

 眷属が俺の余ったSPスキルポイントやスキルを消費して、どうにかできないかやってくれている。
 そのすべてが眷属に使ってもらえるので、やって損をするということは一つもない。

 ただ、ピーキーなのはちょっとな……。
 一般ノーマル級なのにチートっぽいスキル、固有ユニーク級なのに異常に便利なスキルなど豊富にスキルは存在する。


「とりあえず、一般級サイズに落とし込んだスキルにしてほしいな。それをスキル結晶にするか人形に組み込んで眷属全員が使えるようにすれば安全性も上がるし……帰ってこなくても、意外とやることが見つかるね」


 今頃『月の乙女』たちは、人形を相手に苦戦しているだろう。

 あとで過去眼を使って拝見させてもらうのだが、まだ完成体ではないので絶望的な戦いにはならないと考えている。


「万能なんて、手札が多くて困るだけ。対人戦を経て、どれを使うのがもっとも効率よく相手にダメージを与えるのか……まだお勉強中なんだ。みんなで力を合わせて私を殺す準備か……なんだか切なくなってきちゃった」


 困ったときの眷属召喚。
 幸い、妖精ボディのお蔭で魔力の回復速度は上がっているので、スー以外の者にも出番が回ってくる。

 さて、誰が出てくるのかな?



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