AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とレイドラリー中篇 その06


「──と、いうわけなんだよ。やるなら全力だけは絶対に出さないでね」

『…………』

「ねぇ、聞いてるの? ちょ、ちょっとますたーなにするのさ!」


 必死に抵抗しようとするのだが、今の非力な俺ではどうすることもできない。
 成すがまま、成されるがままに巨人の腕が通りすぎるまでジッと待つだけ。

 ──まあ、巨人というか普通サイズの人族だけれど。


「か……かわいいですよ、メル!」


 保険とは、クラーレたち『月の乙女』と合流することだ。
 祈念者眷属たちは苛烈な勢いで攻略を進めているので、ペースの遅い彼女たちに付いていくことにした。

 まあ、遅いと言っても眷属に比べるとという意味で、実際の速度は並みの祈念者よりは速いけれども。

 そんな『月の乙女』たちだが、俺ことメルの見た目に心を奪われている。
 普段は幼稚園児ぐらいのサイズはあるメルが、妖精サイズに縮んだのだから仕方ない。

 自分で言うのもアレだが、眷属と居ると審美眼が上がってしまうんだよな。
 今回はミントをイメージして変身を行うことで、サイズ調整を済ませた。

 その結果が……これだ──


「ねぇメル、いっそのことこれからはずっとこのままでも……ああでも、それだと頭を撫でるのに支障が出てしまいます……けどこの愛らしさを表現するのであれば小さいままであり続けることに意味が……」

「あのさぁシガン、ますたーって……」

「ええ、可愛いモノは大好きよ。良かったわね、認定されて」

「分かってて言っているよね。私、このままだと鳥籠にでも容れられそうなんだけど」


 ユウもたしか、可愛いモノが好きだった気がするな……同族同士、引かれ合うモノが何かあったのかもしれない。

 思いのほか付き合いが良かったのも、おそらくそれが原因だろう。


「……それはともかく『ザ・グロウス』のことよね? 戦うな、とは言わないのね」

「咎めるのは悪いからね。ただ、固有スキルは使わないでほしいな。無限に成長する相手に、そんな能力を使われると厄介極まりないし……特にますたーのなんて、バレたら即アウトだよ」

「一度は挑んでみたかったけど、本当にいいのね? 正直、宝珠だけなら時間さえあれば集めるのも簡単だし」

「いいよいいよ、神敵扱いだった私自身の強化個体なだけだし。曲がりなりにも最強っぽいし、勝利はできないと思うからね」


 ピクッと反応なさる皆さま方。
 せっかくなので、参加してもらうのが吉と見た……知っている動きがあればあるほど、相手に隙が生まれそうだし。


「神敵ってメルだったんですか?」

「ほら、ずーっと前にアナウンスがあったでしょ? 世界級の神敵ってヤツ、あれが私の正体……みたいな感じ。さらに前のイベントで現れた『偽りの厄災』が、その一号機」

「一号機って……まだ他にもいるのね」

「二号機は闘技大会に出てた『模倣者』の方だね。今はどこかを放浪しているよ」


 そう考えると、世界級の神敵扱いされているヤツの模造体が、世界を徘徊していることになるのか……破滅待ったなしだな。


「そんなこんなで、『ザ・グロウス』の目的は無限学習。成長に限りが無いから、プレイヤーの技術やスキルを全部学んで最強になろうとしているんだよ」

「だから勝てなくても仕方ないと……それはずいぶんと舐められたものよね」

「一号機と二号機のデータがまずあるだろうし、私は『ユニーク』を止めていない……これだけでだいたい分かるはずだよ」

「それでもよ。だいたい、絶対に勝てない相手なんていないわ。どこかの誰かだって、賭けに負けたぐらいだしね」


 そういえばそうだった。
 だからこそ、俺はまだここに居るんだ。

 少し冷静になっていたクラーレの顔が赤くなっている気がするが……まあ、想像のしすぎだろう。


「ますたーたち、結局『ザ・グロウス』に挑むことになったね。そのときは神殿で待機しているから、あとで内部の情報を教えてくれると助かるよ」

「ええ、分かったわ」


 そんなこんなで、『ザ・グロウス』の糧となりにいく『月の乙女』たち……さすがにこればかりは無理ゲーだからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 その神殿は、これまでのモノとは違い豪華絢爛という言葉が当て嵌まる場所だった。
 別に、装飾品やら宝石やらが散りばめられているわけじゃない。

 ただただそう思わせるだけの迫力と、美しさを持ち合わせているだけだ。


「こりゃあまあ、リオンがぶち切れるよ」


 いったいどれだけのリソースを注ぎ込めばこんな神殿を創れるのだろか。

 白亜の宮殿のような周りと一線を駕したそのデザイン、内部から感じられる特濃な神気の存在……うん、アウトだろう。


「リオンがこれまでは誤魔化してくれていたし、偽者相手もなんとかしてくれた……けどこれはさすがに、無理みたいだね」


 なんせ、あそこは敵のお膝元だ。
 何かあったらすぐに駆けつけ、そのまま対処することも容易いだろう。

 運営神ガチャをするなら、リオンの友である一柱を除いてすべてハズレ……絶対に行きたくない地獄ではないか。


「ますたー。絶対、ぜーーーったいに使ったらダメだからね!」

「は、はい……分かりました」


 可愛い可愛い言っていたクラーレも、さすがに俺の真面目な発言に了承してくれる。

 中の様子は見れないし、とりあえずリオンへ報告して外側から調査を行おう……だいぶ混んでるし、相当時間があるからな。



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