AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とレイドラリー中篇 その02
「紅蓮の炎をその身に宿し、死と再生を司りし不死鳥よ。汝の唄を甘く奏で、我が死の運命を覆せ──“不死鳥魂魄”」
礼装は業火に包まれ、真紅の輝きを以って秘めた力が解き放たれる。
フェニの魂魄を一部借り受けたその力は、彼女の潜在能力を引き継ぐ。
「下調べだ──“心身燃焦”」
どうせ遠距離から魔法を放っても、首に嵌めたチョーカーが反射するだろう。
なので自身の身体能力を強化し、直接戦闘することを選ぶ。
「──“形状変化”」
「──“武芸之才”」
ギーの現身『模宝玉』の形状を剣へ変え、燃え盛る肉体で地面を蹴りだし勢いよく偽者へ接近する。
一方の偽者も運営神が用意した統合武術スキルを起動し、同じく握り締めていた宝玉の形状を剣に変えてそれを迎え撃つ。
「シッ!」
「…………」
武技はまだ使わず、剣技のみで闘う。
しかし体内では気と魔力を練り上げ、効率よく循環させて少しずつ強化していく。
偽者も:完全掌握:や:肉体操作:といったスキルを持っているため、同等の強化をその身に施して剣を合わせてくる。
「──“放水”!」
「現象反射──起動」
今の俺にはあまり適性の無い、激弱な水系統の生活魔法を顔に放つ。
偽者はチョーカーの能力を起動し、体に薄い膜を展開する。
放った水がその膜に触れると、まったく同じ軌道を描いて反対の方向へ飛んでいく。
すぐにそこから移動していた俺なので、バシャッという音を別の場所で耳にする。
「こっちの『俺』はあくまで真っ直ぐにしか反射できないのか? 威力はそのまま、軌道変更もできない……早計に決めつけるのはダメだな。あとは起動、つまり常時展開じゃないみたいだ。今度は反射条件の検証を……」
偽者は:武芸之才:によって最上級の剣術スキルを扱うことができるが、剣の頂にもっとも近いティル師匠に教わっている俺なので、武技が絡まなければ対等に戦えていた。
しかし相手は強くなるAIのようなもの。
ティル曰く膨大な手札を扱う俺のそれを暴き、少しずつ攻撃の精度を高めていく。
「だからさっさとやらないとな……“放水”(──“吐土”)」
先ほど同様に水を生みだし、加えて死角から思考詠唱を使って土を飛ばす。
ついでに、魔力を通した剣を一瞬だけ加速した動きで振るい、首元を狙ってみる。
「現象反射──起動」
俺のチョーカーの場合、まだ成長が足りないためか両方を同時に反射することはできない……しかし偽者は運営神が完全再現を目指していないからか、同時に反射を行う。
水と剣は膜に防がれ、剣の衝撃が俺を襲うが……それは体の中で上手く受け流して地面に注いでおく──反射は起動したわけだ。
だがそれでも、死角から放った土がポスッと偽者に命中する。
感知や探知に引っかからないよう、念入りに準備をしていたのだから当然の結果だ。
「つまり、『俺』が知覚しているものに限り反射可能だと。両方を同時にやる代わりに、デメリットを背負ったってことか……」
リソースの管理をリオンが担っているためか、当時は出し抜くためにそれを溜め込む必要があった。
故に俺のチート武具たちを摸倣するため、一部はケチって支払っていたのだろう。
……うん、まあ眷属スゲーって純粋に感動しておくだけにしておくか。
「ただまあ、死角って言っても同じ手は二度も通用しないだろうし……消費させ続けた方が楽な気がする」
それも:擬似永久回路:によって無駄だろうから、あまり得策ではないのだが。
偽者には:即撃対応:と:神託之天啓:といういかにもなスキルがあるので、それなり強い技を放てば気づいて反射してしまう。
先ほどの“吐土”が当たったのは、あくまでダメージ皆無だったからだ。
「永久の眠りは悠久の忘却。救いを拒みし茨の姫よ、汝の希望はここにあり。汝が望みし夢幻の果てを、今ここに現界しよう。鋭き棘にて拒絶せよ──“茨眠礼装”」
──なので礼装を切り替える。
炎は茨と化し礼装に編み込まれ、その部分部分に色鮮やかな薔薇が咲き誇っていく。
「──“自然改変”」
森羅魔法、自然すべてに精通する魔法に記載された唯一の術式を起動する。
下位と上位の魔法のように宝珠が生成されるのではなく、自然現象を書き換えていく。
指定したのは礼装に生えた薔薇。
薔薇の一輪一輪に異なる自然現象の書き換え能力を与え、自動でそれを発動してくれるように設定しておく。
「──“火矢”」
火の矢を放つと、これまでと同様に偽者は首元のチョーカーに魔力を籠めてそれをこちらに跳ね返そうとする……が。
「現象反射──起動……ッ!?」
「どうやらお前の反射、発動後に識別を追加するのはできないみたいだな。なら、俺の意識外で発動する魔法ならいけそうだな」
ただまあ、問題が一つ──礼装で無双しているように見えるが、必死に<久遠回路>を起動して魔力を回復しているのが現状だ。
わざわざ宝珠を生成する魔法を使わなかったのは、縛りによって回復量が制限されているからである。
「……こんなときだからこそ、縛り続けて勝利することに価値があるわけだ」
「…………」
「悪いが『俺』、俺はお前を倒してより高みに行かせてもらうぞ」
剣を構え、それを突きつけた。
挑発でも無いただの宣誓だが……まだ大量のスキルを持つ『俺』なうえ、就職している分なんだかこっちの方が一人前だ。
──俺、未だに無職だし。
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