AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とレイドラリー前篇 その18


 強制排出後、再び逃走。
 幸いにしてアルカの設置した罠も無く、どうにか神殿から出ることができた。


「まあ、追ってこなかったからアレで満足してたんだろうか……うぅ、思いだすだけで若干の鳥肌が立つ気がする」


 いっそのこと、“魔奪掌”などを使えばどうにかなったかもしれないが……そういうときだからこそ、縛りに忠実であれ。

 たとえ危機的状況でも、理《しばり》を守るからこそ意味があるのだ適当


「さて、とりあえずラッシュは終わりっと」


 何って、面倒な奴らのことである。
 まだあと少しだけ約束をしてはいるが、さすがに今日相手をしたメンバーよりも面倒なヤツは残っていない。

 疲れを後のために回復しておこうと思う。
 そこで、少しずつ祈念者たちの活躍によって改善していく、イベントエリアの空いている場所で休息を取ることに。


「ふぅ……ようやく休めるな。我ながらこういう場所に泊まるのはとても新鮮だ」


 しかしまあ、その気になれば居住できる場所の設営など容易い俺も、近隣の方々へその旨を伝えることはできない。

 近所問題が起きてしまえば、勝てなくなってしまう偽善者──なので、前の日もそうなのだが正規の宿泊施設などは利用しないで休みを取っていた。


「睡眠不要だから、正直どこでもいいんだけど……そこまで本気で徹していると、人として失ってはいけないものまで失いそうな気がするんだよな」


 人間……いや、生物が持つ欲求の一つ──睡眠欲。

 そのくびきから解き放たれてしまえば、もう俺は人ではなくなる……ことはないが、なんとなく一段階進んだ狂人になってしまう。


「“忌避結界”……あとは酸素を不要にしてここで寝るだけだ」


 酸素は不要でも構わないだろう。
 代わりに魔力を取り入れることで、変わらない睡眠を取ることができる。

 そう、先日の睡眠方法も簡単──結界の中で冥想しながら寝るだけだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 パチリと目を開けると、周囲には誰も居らず静寂だけが存在した。

 別に自動的に排除したわけでもなく……単にこの結界へ対して忌避感を感じた祈念者が自ずと立ち去ってくれたのだろう。

 精神魔法と重ねて行使した結界魔法。
 そこまでの防御力が無い代わりに、特殊な効果が付与されていた。


「時間帯が時間帯だしな……そりゃあ居なくても当然な気がするけど」


 この世界は電脳世界でもある・・・・
 現実とは異なる時間法則を持っており、そのため地球以上の時差が生まれてしまう。

 なのでずっとログインをしている祈念者たちは、誰かと合流する際、通常の何倍も待ち続けなければならなくなる。


「たしか、今は三倍で流れているんだったっけ? だから八時間で一日、学生たちは午後からだから……だいたい二日目の夜か三日目以降になるんだよな」


 時間の感覚はすでに狂っているが、指に嵌めた『挑戦者の指輪』から[時計]機能を起動すれば、どうにかその時差を把握できる。

 まあ、進む速度が違うだけなので待てばそのうちにやってくる……それまでに必要な魔力を回復しておかないと、不味いだけで。


「というわけで──“召喚サモン眷属ファミリア”」


 今回は指定バージョン。
 白の魔本からとあるページを見つけ出し、相手の都合を確認してから召喚を行う。

 了承してくれたため、魔法陣が輝きそこに現れたのは──白い熊耳の少女。
 自分自身でもある『堕落の寝具』を身に纏う【怠惰】の武具っ娘スーだった。


「……どうしたの?」

「ゆっくり癒されたくてな。あと、ついでに身力値の補給」

「任せて」


 少々眠そうではあるが、それが常だ。
 危ういながらもふらふらと歩を進め、俺の下へやってくると……ポテッと胡坐をかいている膝の上に座る。


「……撫でて」

「はいはい。いつもありがとうございます、スー様。お蔭でいつも快適な環境で寝ることができてしました」

「ん」

「その意を籠めまして、丁寧に撫でさせていただきますので。どうか私の意のほんの一部でも受け入れてくだされば感激の極みです」


 スーは武具っ娘なため、自分自身でもある魔武具とスキルを共有している。
 それは身力値の超回復、一秒で数千を回復することすらできるチート武具……それが魔武具『堕落の寝具』の真価。

 だが、それとは別にスーという存在そのものに癒されている俺も居る。
 そうなるようにイメージをしたということもあるが、何よりスーが可愛いからだ。

 普通の獣人よりも丸みを帯びて、やや小さめの耳や尻尾。
 透明に見えるような真っ白な毛並み、見つめ返してくれる水色の瞳……実にイイ!


「疲れてる?」

「大丈夫だとは思うが……ダメか?」

「ん、しっかり休むべき……んっ!」

「……マジですか?」


 一度俺から離れると、正座をしてポンポンと自分の膝を叩き始める。
 まるで、誰かを招き入れるように。


「絵面がひどいんだが……大丈夫か?」

「癒すのが私の使命。それに、メルスは私の膝枕は嫌?」

「うぐっ……分かったよ、寝るよ」

「んっ! 結界は任せて」



 張る予定だった結界の何十倍も堅固な物をスーが用意してくれたので、安心して俺は彼女の膝の上に頭を載せる。

 半端ない罪悪感と倫理観があったが……その瞬間心地好さに包まれ、そんなちっぽけな理性はどこかへ吹き飛んだ。


「あー、ああぁぁあぁぁぁぁああー」

「……ゆっくりと休んでて。私が居るから」

「あーーー」


 もう『あ』しか言えないほど、ゆっくりと瞼が落ちていく。
 そこに睡眠不要なんてスキルは関係なく、全身が最低限の活動以外をすべて止めてその癒しに包まれようとする。

 ──嗚呼、さすがは『堕落の寝具』。

 アルカですら超えられない高い適応能力すら超え、こうもあっさり俺を眠りに着かせるとは……いつものことながら、恐るべし。



 そしてこの三秒後、俺はあっさりと意識を手放すのだった。



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