AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とレイドラリー前篇 その17



 ドロップした『悪魔種の宝珠』を握り締めて、俺がまず最初に取った行動は──逃走。


「あばよぉ──ぶぅっ!」


 しかし まわりこまれてしまった!

 いや、ユウとアルカにではなくアルカの設置した魔法に……である。
 再び拘束されるのだが──ただ一つも同じ術式が無かったため、解呪は行われない。


「学習ってものをしないわね」

「あはははっ……、さすがにそれはどうかと思うよ師匠」

「まあ、出口が分かっているならそこに罠を用意しておけばいい。いくつかプランはあったけど、まさか一番簡単なヤツに引っ掛かるとは……バカね」

「さ、さすがに弁論できないよ」


 いずれは回復できるので構わないが、よくもまあそんな多様な魔法を使えるものだ。

 隠していないのか、能力を共有する際のリストからその種類を把握できるのだが……その総数は、固有魔法を除いた数で二倍ほどとなっている。


「ずいぶんとたくさん魔法を持っているな。目指すは【大賢者】ってか?」

「そんな肩書きなんてどうでもいいわよ。たしかに、能力は欲しいけどね。ただまあ、それが無くてもあんたよりも私は強いけど」

「……だから、俺よりは強いさ。けど、偽善者には勝てないし勝たせない。それぐらいはもう分かっているんだろう?」

「いいえ。どんな手でも、偽善者を語るあんたを下せればそれでいい。だから私は眷属になったんじゃない」


 眷属の補助を受けていない俺であれば、いずれアルカも倒すことができるだろう。
 しかし『偽善者メルス』を相手取るのであれば、そういった補助を全力で受けることになる。

 その状態で敗北するということは、彼女たちを守るだけの力が無いということだ。
 それこそ俺だって、あらゆる手段を許容して敵を排除しなければならない。

 アルカが眷属になったのは、別に主殺しが問題にならないのにシンプルに強くなれる手段が目の前にぶら下がっていたからだろう。

 それが間違いとは言わないし、別に眷属をクビにする気もない……反抗的ではあるものの、ユウを介して頼み事をすればある程度聞いてくれるからな。


「いつまでも目標にしてくれるのは嬉しいんだが、もっと上には上が居るだろ? アルカももう俺は卒業して、そろそろ別のヤツを倒しに行くなんてのは──」

「私は! 私はまだ、あんたを倒してない。けど、もう私に勝負を挑んでくる大抵のヤツは倒している。倒せていないのはあんただけなんだから……絶対に諦めないわよ」


 俺への執着心が半端ないツンドラさん。
 デレの要素が皆無なので、ただただ俺に勝つためならどんな手段でも取りそうな狂気の魔法使いになってしまっている。

 顔を真っ赤にしてまで言うことなのか……怒っている彼女から目を逸らし、中立ぶっている僕っ娘ユウに近づく。


「なぁなぁ、ユウ。なんであんなに感情的になっているの?」

「……もう、師匠は本当に師匠だなぁ。どうしてこう、相手の気持ちを思いやってやれないのさぁ」

「人のことを鈍感主人公みたいに言いやがって……。あのな、俺だってアルカが俺に対して固執していることぐらい分かっているんだよ。ただ、その理由が分かってないだけだ」

「中途半端な理解って……なんにも分かっていないよりも厄介だよね」


 やれやれ、といったポージングが癪に障るのだが……どうやら俺が悪いみたいなので、デコピン一発で勘弁してやる。


「いったーい! い、いきなり何するの!」

「……なんとなく?」

「なんとなくで人を傷つけないでよ。まったくもう、これだから師匠は……」

「ははっ、悪いな……っとそろそろ時間か」


 イアとの逃走劇で把握していたが、三分もすれば自動的に帰還される。

 アルカが本来、なんのためにその時間を稼いだかは分からないが、これでもう……ってあっ──。


「ふんっ……!」

「「…………」」


 俺とユウのやり取りを見ていたアルカ。
 なぜか杖を構えており、膨大な魔力がそこに宿っている。


「ちょ、ちょっと待ってよアルカ。師匠はともかく、僕は狙わないよね?」

「お、おい、我が弟子。今こそ弟子として、俺を庇って死に戻るんだ」

「普段は師匠面しないのに、こういうときだけ偉そうにしないでよ! それに、死に戻りはしない方がいいって言ってたでしょ!」

「ええい、あのアルカを見てそれでも同じことが言えるのかよ! 見ろ、たとえ誰だろうと殺す気満々だろうが!」


 なぜだろう、俺とユウが揉めれば揉めるほど、より魔力の質と量が上がっている。
 強制排出で助かると分かっていても、自然とどちらが生贄となるかで揉めるほどだ。


「ばっ、師匠は分かっていないんだよ! だいたいねぇ、僕もアルカも──」

「ユウ。これ以上言ったら……あんたからにするわよ」

「…………」

「お、おい、買収されるな! それにお前、それだとまるで俺には最初から当てる気だったみたいじゃねぇか!」


 何を言おうとしたのかは謎だが、その弱みとこのアルカの怒りは同じ理由なのだろう。
 最終的にナースの虚空魔法並みに増大された魔力の塊が、臨界点に達している。


「──その身で反省しなさい」

「だから何を!?」


 その問いに答えてくれる者はいなかった。
 ああ、乙女心というヤツは、まったく理解ができないよ。



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