AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と共にあるために


連続更新中です(01/12)
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 夢現空間 図書室


 改めて、海について学習することに。
 本日は常連も忙しいということで、単独でのお勉強となる……と思っていたのだが──


「なんでいるんだ?」

「暇ですので……それに、前回は特段活躍もなく、早々に帰還してしまいましたので」

「たしかにそうか……あんまり話してはいられないが、それでもいいか?」

「構いませんよ。答えてくれないのならば、思考を読んでこちらが勝手に呟きます──メルス様、こちらでございます」


 前日同様、アンがスタッと現れて俺が必要としていた本を差し出してくる。
 すぐにペラペラと目を通して記憶領域に叩き込むと、<千思万考>スキルでその情報の整合性を確かめていく。

 アンは俺の思考を読むことができるので、以心伝心とかツーカーという感じで俺の求めることが理解できる。
 今回の場合──まだ読んでいない海の本を求めていたので、それを持ってきてくれた。

 彼女と同様に特殊な瞳を持つティンスは、視た相手の思考を読み取る。
 それは特殊なプロテクトを施した相手を除き、自分より格下ならば誰でも視てしまうような能力だ。

 一方、アンのソレは俺にしか発動しない。
 彼女はもともと俺の種族[不明]そのものに宿った補助人格を、なんやかんやの果てに擬人化させた存在だ。

 故に、繋がっているのも俺だけである。


「もちろん、他の何者かが[不明]へ転生しようとわたしはメルス様専用ですよ」

「……もう戻ったのか。いやまあ、どっちのアンも同じアンだけどさ」

「変わっていませんよ。それに、わたしを今のわたしに染め上げたのはメルス様です……責任、取っていただけますか?」

「あー、分かってる分かってる。俺とお前は一心同体……ってわけでもないけど、あのスキルみたいな関係性にはなりたいからな」


 死であろうと、俺たちを別つことが無くなる固有スキル──【一蓮托生】。

 運命をも共にする、死を拒み生を勝ち取るためのスキルではなく、結果はどうあれいっしょに居たい……ただの俺の願望だけれど。


「あのスキル、未だに一度として使われたことがありませんね。二度ほど、メルス様がお拒みになったとき以外は……」

「ジト目にはなってないぞ、普通にハイライトが消えているぞ……って、そっちの方が怖いか。アレだって、シュリュとソウとのイイ思い出になってるだろう」

「そうですね。メルス様の闘いに一喜一憂していた者たちを除けば、たしかにそうかもしれません……数十人を超えていますけど」

「そういえばその頃は、まだ感情が共有されていたんだっけ? ああ、終焉の島組もそれで心配してくれたのか」


 ミントとかのリーン待機組だったメンツがきっと、そういう状況になった俺を心配してくれていたのだろう。

 その心配は眷属印を通じて伝染し、無意識の中で心配してしまったと……。


「…………ハァ、鈍感系ですね」

「俺が? いやいや、ないない。俺だって今ならちゃんと分かるから、眷属の四割ぐらいは俺に好意を持ってくれているって」

「もう少し多いですよ」


 武具っ娘とアンは例外として、リーン待機組の(見た目は)大人なメンバーは好きでいてくれている。
 あとは終焉の島組、こちらはもともとが魔物だった奴らが該当しているだろう。

 人とは感性が異なっている存在なので、生存本能云々も異なっているのだ。


「ヒントを提供しましょう。これを知ればすぐに自覚できます」

「……お願いします」


 本を読む作業を止め、アンの顔をジッと見つめる。

 男の甲斐性とか、そういうものはまったくないので……眷属の本音というか実情を知るべく、アンにヒントを授かることに。


「メルス様のハーレムやろー」

「……『野郎』? それとも『やろうTry』?」


 いきなり『やろー』とか言われたので、すぐさま<千思万考>を用いて解を導き出す。
 そして、二つほど浮かんだ解答の正誤を尋ねてみる。


「あくまでヒントですので、これ以上はご自身でお考え下さい」

「順当に考えればどっちもだよな。……答えが出てくる、つまり俺が意識してハーレムをやりたいと迫ればいいってことか?」


 それ、よくある屑系の敵役がやってそうなことな気がするんですけど。
 ソイツを追い払い、仲間との絆をいろんな意味で深める……までがワンセットだ。


「メルス様、【色欲】の能力を全然使っていませんよね? ハーレムを作りたいと口にしていても、まだまだ覚悟が足りていない……そう言っているのです。あっ、ちなみに九割方正解ですよ」

「……残り一割に掛けるべきか、それとも覚悟して【色欲】に染まるかだな。俺としては前者一択なんですけど」


 制御しきれずにいた当初、それが背中を押したことによって俺のハーレム計画が始まった……だが俺としては、ゆっくりじっくり時間をかけてやりたかったことだった。

 今は違うが、昔はそういった考えは封じるモノだって考えてたからな……【色欲】頼りだと、やっぱり俺の本意じゃない、とかそういうことも思っていたし。


「時間の問題ですよ。メルス様がメルス様のまま、眷属たちと在り続ければ……いずれイベント発生からの正式にハーレム入りです。【色欲】はあくまでそれを早めるための手段の一つということです」

「そ、そうなのか? な、なら、もう偽善者らしく頑張ってみるよ──アン、そろそろ続きを頼む」

「はい──こちらでございます」


 海のことを調べてはいるが、それよりも大切なことを知ることになるとは……やっぱり乙女心とは複雑で、俺みたいなヤツには全然理解できないものだってことだ。


「乙女心をメルス様が理解できずにいるように、わたしたちもまたメルス様を完全に理解できているわけではありません。ゆっくりと時間をかけて、互いを知っていきましょう」

「そうだなぁ……そうだったらいいなぁ」


 そうなるためには、眷属たちに嫌気を差されないようにしないとな。
 ……とりあえず、【色欲】の『侵』化でも試してみるか?



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