AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と海中散歩 前篇



 アグラム大海原


 AFO版日本とも呼べる井島、そこへ向かうために通った海……俺はそこへ来ていた。

 理由は特に無いのだが……まあ、眷属と海の話をしていたのが大きな容易なのかもしれないな。


「──“召喚サモン眷属ファミリア”」


 誰が出るのか分からない、だが暇な眷属が出てきてくれるであろう召喚の魔法陣。

 ちなみにだが、応えてくれる眷属がいないと次第に魔法陣が薄れていくのだが……普通に魔法陣は光を強め、誰かが現れる。


「──呼ばれて飛び出ました……アンです」

「うん、知ってる」

「海ですか……つまり水着回ですね」

「結界を張ればいいだろ」


 予め準備して水を遮断しておけば、濡れるために着る服を纏う必要もなくなる。

 こういうときはポンコツ化する見てくれは機械チックな少女を、とてつもなく残念なモノを見る目で見つめてしまう。


「メルス様、そのような目で見られると少々恥ずかしいのですが……致し方ありません」

「おい、今脱がなくてもいいアイデアを話したばかりだろ。というか、海水に濡れても大丈夫なのか?」

「ふっ、今さらな愚問ですねメルス様。この神性機人のハイスペックさを舐めてもらっては困ります!」

「……ハァ」


 アンの言動の大半は、俺が心のどこかで求めているものだ。

 真面目なやり取りを俺が求めているのであれば、最初からそういった口調で語ってくれていただろうし。


「おや、あまりお気に召していないようですね。では、どのようにしますか?」

「……普通で。恰好が、じゃないからまた変えようとするな。口調だぞ、口調」

「それが一番難しいのですが……とりあえずは、初期の頃と同じ感じでいきましょう」

「うん、とりあえずそれで──というわけでだ。結界は俺が張るから潜るぞ」


 わざわざ海に来て、だが泳がない理由。
 それはこの海に眠っているナニカを探すため……というわけでもなく、ただ暇潰しに海の中を探索したくなったからだ。

 別に水着を着てもよいのだが、やはりここはファンタジーらしく魔力を活用した潜水方法で行きたかった。
 ……水着からそんな魔力の膜を生成する魔具なんかも、作ってはいるんだがな。

 これから潜る先がどれだけ深いか分からないので、耐水だけでなく圧力にも耐えられるような強固な結界を生成する。
 俺とアンならば酸素は不要なので、わざわざスペースを広げる必要はない。

 ──最低限の大きさで充分だ。


「よし、できた。それじゃあ行くぞ……ってどうした?」

「さすがに狭いかと……密着していますよ」

「そうか? ただ、今回の縛り的に効率を考えるとこの大きさが一番だと思った……ダメだったか?」

「……いえ、問題ありません」


 今回の縛り、かなり色物である。
 攻撃に関わるあらゆるスキルが解放されているが、それを自由に使えない……回数制限などではなく、単純に使いづらいのだ。

 魔力を抑える必要もあるので、深海対策をしている今は……アンには悪いのだがが窮屈な思いをさせてしまう。

 だがそのアンは、傾けた握り拳から親指のみをグッと伸ばして──サムズアップ!


「──むしろご褒美です」

「……あっ、そうですか」

「おっと、初期の状態でしたね……さっそく向かいましょう、メルス様」

「そうだな」


 とりあえずアンは無視して、潜水を行う。

 最初はゆっくりと、海の中へ入っていく。
 結界は透明なガラスのような設定なので、水の世界がくっきりと視界に入る。
 水族館のような光景をイメージしていたのだが……現実は儚い。


「海の中って、意外と怖いんだな……水族館というより、化け物屋敷じゃねぇか」

「重力という束縛が無い分、魔物たちの造形も自由度が高いのでしょうね」

「これまではボスとして、ある程度見た目がイイヤツとしか遭遇して無かったしな。釣りもソウとやった雲海での釣りだけだし……気づく機会が無かったや」

「そうでなくとも、海は魔力の濃度が高い場所です。それを取り込んだ魔物たちは進化を行い、生き残るために強さだけに特化した形態へ変化していくのかと」


 海に溶け込んだ膨大な脈のエネルギー。
 それを吸収した魔物たちのレベルは、地上に比べてはるかに高くなっている。

 深ければ深いほど、源泉に近い場所で取り込むことができるため、海の世界では強さと深さが比例しているらしい。


「けどまあ、綺麗な部分もある……うん、あのクラゲとかそれっぽいな」

「あのクラゲは『テンプテーションジェリーフィッシュ』と言いまして──」

「ああ、うん。もうオチが分かった……どうせ誘引して、そのままパクッと食うとかそういうのなんだろ?」

「さすがメルス様、よくぞ真実へ辿り着きました。そうです、あのような感じで捕食した魔物を糧とします」


 俺も一瞬目を奪われた幻想的な輝き。
 それはこの海中で生き抜くための手段でしかなく、生々しい食事シーンを目の当たりにすれば感動も薄れてしまう。


「レベル差を補うための手段か……たしかに綺麗だもんな。見ている分には、このままでいてほしいと思える」

「そうですね……」

「なんで、腕に絡まってくる?」

「クラゲの誘引が原因かもしれませんよ?」


 絶対違うとは思うが、この狭さは俺が原因なのに間違いは無いのでそのままでいる。

 アンも嬉しそうなので、止めさせる必要はない……双球の感触を味わいたいとか、そういう理由ではないんだぞ。



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