AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤帝の墳墓 その10



 紅蓮都市


 俺用の屋敷などないので、都市中枢に建てられたお城の一室を拝借する。
 そこで俺は、とある不老不死の少女と対話していた。


「おめでとー、『赤王』誕生だねー」

「ちなみにだが、プランBだったぞ」

「仕方ないよー。『赤帝』はー、わがままだからねー」

「そういうものか……とにもかくにも因子自体はこれで全部揃ったわけだ」


 病気の『聖女』、病弱な『守護者』、孤児の『魔王』、ブラコンの『賢者』、妖精姫な『勇者』……そして元姫兼奴隷の『赤王』。
 なんだか色んな意味で弱そうな面子ではあるが、これで門を開くことができる。

 病気は治し、病弱は救い、孤児は直し、ブラコンは交渉し、妖精姫は煽り、元姫兼奴隷は成り上がらせた。

 時折舐めプでクリアしていたが……一番苦労したのが番外の幼女じゃしんなので仕方が無い。


「──カカ、起きてるか?」

「……まさか、本当にここまでするとはな。君の行動力には驚かされるよ」


 そんな部屋にもう一人……いや、一柱。
 真っ赤な巫女服のような衣装を身に纏う、幼女がこの場には居る。


「カグはなんて言ってる?」

「……『さすがおにいちゃん』、だそうだ」

「……ッ!(無言でガッツポーズ)」

「未だにー、信じられないよー。この世界の神様がー、ここに居るなんてー」


 邪神の転生体にして憑代の少女──カグの体を借り受けて降臨しているのは、カカと名付けられた炎の神。

 邪神であるのも、ある意味嵌められた事情があるらしいが……そこら辺は曖昧である。


「それでだ。候補者であろうと、扉を開けること自体は可能なんだよな? あと、部外者の介入も」

「ああ、できる。ただし、その部外者に君は含まれない。扉を開く試練は、この世界の者だけで行われるのさ」

「そこの『賢者』は異世界人だが?」

「神によって、手続きが済んでいる。彼女は異なる世界の住人であったと同時に、この世界の住人でもあるということだ」


 外国に行く審査みたいなものだな。
 そこで親切な受付さんが、プレゼントをくれた……チートもそんな感じの受け取り方をしておけばいいし。

 だが、俺と眷属の場合は異なる。
 ある日突然開いた次元の穴、それを強制的に繋いで侵入しているからだ。

 現実であればこの言葉が似合う──不法入国という行為である。


「君とその眷属……いや、家族は正規の方法でこの世界に来訪してはいないからね。扉はこの世界に住まう民の声に応え、試練を与える。君たちでは、残念ながらそれに関わることはできないんだよ」

「……つまり、そこさえクリアすれば可能ということか。たとえば──────とか」

「…………よくもまあ、そんなことを思いつく。実際にそれを試した前例が無いから確証は持てないが、おそらくは可能だろうね」

「わたしもー、そー思いまーす。」


 邪炎神であるカカと、『賢者』であるアカネからその答えを貰えれば充分だ。
 俺の考えたとある乱入方法はさておき、話は試練そのものについてに戻る。


「さて、『賢者』殿……ここの邪神が全然情報を吐いてくれないから、『万色の世界』とやらの情報が俺にはさっぱりない。改めて、試練へ向かう前にそれを教えてはいただけないだろうか? 報酬はこれ──」

「まっかせてー!」


 渡さなくとも教えてくれただろうが、やり取りを円滑に進めるためにも報酬は必要だろう……というわけで、毎度お馴染み生産神のお力でパパッと作ったお菓子を提供した。


「まずー、『万色の世界』のことだけどー。ここはその一つでー、七つの世界に分かれているんだよー」

「ふむふむ」

「もともとは一つの世界だったんだけどー、神様云々でーそこが七つに──」

「そろそろ面倒だから、普通の口調にしてくれないか? リュシルから聞いている、いちおう伸ばさなくとも話せるだろう?」


 そこからの説明は、普通に話してもらう。
 万色の世界と呼ばれたとある世界、そこが七分割された一つが赤色の世界らしい。
 それぞれの世界は特別な方法で繋がっており、分かれた今でも相互間で移動ができる。

 ここは俺の想像でしかないのだが、本来開いたのはその『万色の世界』へ向かうための扉だったのかもしれない。

 しかしそこはすでに分かたれ、その一つであるここに飛ばされた……なんてな。


 閑話休題じじつはふめい


「──とまあ、そんな感じなわけ。これで理解できた?」

「ああ、だいたい頭に入った。もう口調を戻してくれていいぞ」

「……頭に入ったー? 変な言い方ー」

「それと今の会話を眷属が耳にしてくれているだろう。安心してくれ、アイツらにはしっかり伝わったから」


 少なくとも一人はバッチリ把握しているだろうし、そうでなくとも記憶を図書室に寄贈すれば誰かが知ることができる。

 そのための{夢現記憶}であり、常時行っている感覚共有なわけだし。


「……とりあえずだ。その試練をやるのは少し空けてからだな。あの作戦がほぼ上手くいく以上、開くこと自体はほぼ確実だ。だが、どうせならこの世界の人たちだけで世界を解放してほしい……」

「ふむ、つまり?」

「『勇者』は強引に覚醒させたし、『魔王』も似たような状態だ。『賢者』は自分でやったみたいだから……その他をどうにかする期間を設けておく。あと、一定期間内に覚醒できなかったヤツは──俺が叩き起こす」

「うわー、鬼畜ー……」


 なんと言われようが、これが最終的に誰のためでもある……少なくとも、俺はそう信じているさ。



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