AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と吸血潜伏 その07



 改めて、少女たちをわざとらしくゲスな目で眺めてみる。
 ……不思議とそういう目は簡単にできる自分に、一時期は落ち込んだモノだ。

 地下に閉じ込められた見た目麗しい少女たちの大半は、普人族以外の種族だった。
 その例外は交渉を行おうとしている気丈な少女のみ、それ以外は本当に全員が何かしらの他種族の血を継ぎ特徴を持っている。

 耳が少し尖がっていたり、ケモ耳が有ったりエラが有ったり……凄い者だと目が多眼であったり複眼だったりだ。


 辺りのモノを調べる限り、少女たちは奴隷として売られようとしている。
 商人は普人族絶対主義みたいな感じだったためか、吸血鬼の本能は少女たちが新品ばかりだと教えてくれた。


「──血を寄越すか配下になる? ふざけないでください……」

「ほぉう、何がふざけているのだ? 一定量と言っても、それは種族によって抜くことができる血に限界があるからそういっただけ。配下になるのも、別に逃げても構わないと伝えたはずだが?」

吸血鬼ヴァンパイアが血を奪うということは、自分と同じ吸血鬼にするということでしょう? それではどちらも同じことじゃありませんか!」

「……教養が足りないようだな。それは高貴なる吸血鬼ではなく、下賤なる『吸血飢バンパイア』のことであろう? 見境なく血を吸い尽くし、同種へ貶める害悪である」


 吸血鬼は魔族の一種だが、吸血飢は不死族の一種である。

 血を吸った相手を感染させ、時間経過で病気を発症させる──そして発症中に死んだ者は、その大半が吸血飢となるのだ。


「いいか、普人フーマンの娘よ。君たちはなぜここに居る? さまざまな理由があるだろうが、そのもっともな理由は一つ──弱いから」

『!』

「私のようになどとは言わぬが、巷では万能の力を持つ祈念者プレイヤーという存在が居る。彼らであれば君たちのような危機的な状況であろうと脱せられただろうな──それは、力を持っているからだ」

「……だから、配下になれと?」


 死に戻れば逃げられるだろうし。
 ネロが死んだ後も刻まれる呪いを生みだしていたが、そういった特殊例を除けば状態異常としてステータスに表示される大半のモノはさっぱり無くなるだろうよ。


「そもそも、私は吸血鬼となって配下になれとは言っていないぞ? 力を与えるが、その方法は君たち次第だ。まあ、一つ目を選ぶのもまたよいだろう。そうすれば元の平和な生活とやらに戻れるぞ」

『…………』


 その言葉を信じられる者が、いったいこの場に何人いるだろうか?
 その夢のような現実が牙を剥いた結果、少女たちはこの場に居る。

 ──世界はそんなに、甘くないと知った。

 もう一つ、少女たちには悪いが俺の中ですでに働いている導きの力が作用している感覚が感じられる。

 どれに取り込まれるかは知らないが、作用した時点で引き摺り込まれるだろう。


「私は君たちに居場所を与えよう。君たちが生きようとし続ける限り、それを肯定し努力が報われる世界を。その果てに歪であろうと幸福が待っている未来を……血の盟約を以って解を知ろう──君たちの答えはなんだ?」


 一人、また一人とふらふら立ち上がる。
 そういえば食事がまだだったっけ? ……血を美味しくしたいし、まずは体調をできる限り整えさせてからだな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ──血って、美味しいんですね。

 なんだかフィレルが狂うほど血を欲する一端を知りつつ、それ以上にショックなことを把握しながら地下から脱した。


「俺が素人だから……なのか」


 生娘の血が旨いとされるように、清らかな乙女しか一角獣は乗せないように……初めての身であることに意味がある。

 それは男も同様で、意味は在った……魔力云々よりもそっちが理由だったのだ。


「少女たちをそのうち出さないとな……早くしないと、体調がどうなるか分からないし」


 転移で送還するわけではなく、気絶させて影の中に仕舞ってある。
 前回拾った奴隷を送り飛ばした結果、少々揉めたので一時保存ということになった。

 さて、そろそろだろうか。
 冴え渡る五感で見つけだしたソレに向け、声を掛ける。


「……それで、君たちは誰だ?」

「あの奴隷たちを返してもらおう」

「非合法な奴隷、だろう? 人族の法には疎いが、少なくとも彼女たちが奴隷であり続ける必要はないと判断した──故に、私の血袋として生き続けてもらうことにしたのだ」

「……させぬよ。私の血袋となった時点で、彼女たちはこの私の所有物だ。たとえ同種が欲そうと、抗うことだろうさ」


 やはり、ちゃんと生餌を放置していたのがよかったのだろう。
 魅了の魔眼でとある命令を刻んだ結果、その役割をしっかり果たしてくれた。

 ──仲間を呼べ。

 シンプルすぎる命令内容だが、それ故に幅広い効果をもたらす。
 たとえば販売先の下まで連絡を行い、使いまで送ってもらう……とかな。


「吸血鬼か……あいにく吸血鬼狩りはこの国にはいない。それがなぜか分かるか?」

「必要無いから、だな」

「その通りだ。わざわざそのような者がおらずとも、帝国に住まう戦士が動けばそれだけで吸血鬼など屠ることができる」


 連絡を受けていたのか、銀で出来た武具を所持している使いたち。

 まあ、たしかに魅了の魔眼が使える高位吸血鬼でも、銀製品の武具で攻撃すればそれなりにダメージが与えられるけどさ。


「何を言っている? 私が言ったのはそのような意味合いではない」

「……何を言っている」

「──わざわざこんな偏屈な場所に来ようとする愚か者など、そもそもいないのだろう。そのような価値が、この街にはない」

「この、皇帝様を愚弄したな!」


 同種の男が連れてきた普人が、俺の台詞セリフに過剰に反応しているが……俺も同種も完全にスルーしている。

 運営神と繋がっているような王族に、どうして丁寧に振る舞わなければならない。
 時間もないし、役割《ロール》に忠実な動きをしてからサクッと倒しますか矛盾



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