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山田 武

偽善者と従魔特訓 後篇



「なに、あれ……」

「この前あった育成イベント、その裏ボスみたいなもんだな」

「それを従えているって……あんたが一番のラスボスじゃないの」


 舟は宙から墜ちることなく、そのまま上で漂い続ける。
 どうして、などと問われてもそこはそういう存在だからとしか答えられないけどな。


「というか、あれってノアの方舟じゃ……」

「分かるのか? まあ、あれだけ巨大な舟だしなんとなく分かるか。この世界だと、あれは魔王でもあるんだが……知ってたか?」

「知ってるわけ……ないでしょうが!」

「ゲブッ!」


 激しいツッコミが体に撃ち込まれる。
 呼吸困難になるほど綺麗に決まったが、そもそも呼吸不要スキルを起動しているので、息が漏れるわけでもないんだけどさ。


「魔王を従えるって、あんたねぇ……」

「魔王が珍しいか? リョクもフェニも、あと全部の魔武具っ娘が魔王だぞ」

「あの娘たちが……もう、常識ってなんなのかしら?」

「いいだろう、別に。そもそも『魔王』は悪役にはなっているが、魔王そのものにはただ強さしかないからな。……まあ、魔武具っ娘は例外だけど」


 聞こえないように、ボソリと。
 転職できなくなって、確認はできていないのだが……かつて絶対に就かないと思っていた職業に、彼女たちが就いていた気がする。


「それじゃあ──そろそろ始めてくれ」

「えっ、空から……女の子が!」

「あれ、そっちかよ?」


 てっきり魔物が降ってくるのかと思っていたのだが……眷属の誰かに余計な情報でも叩きこまれたのか?

 降ってきたオンナノコとやらは、不思議な鉱石や少年を必要とせず地面に降り立つ。


「──久しぶりだね、魔王君」

「よく来てくれたな、『ノア』」


 名前はそのまま例の人のモノを継いでもらい、放置していた。
 やりたいことがあるというので……召喚陣も例の空間から呼びだすモノではなく、放浪中に来れるか尋ねるといった仕様である。

 ただ、あのときに女性の声になっていたことは分かっていたが、強制的に人形の中へ叩きこむようなことはしていなかった。

 そもそも、自分で肉体を用意できるようなヤツだからな。


「その姿って、知り合いのものなのか?」

「さぁ、どうなんだろう? 私がアレ以降人族を模そうとすると、意識して変えない限り勝手にこの姿になるんだよ」

「……まあ、何か理由があるんだろうな」


 少なくとも俺好みの美少女っぽくなっているので、主(暫定)の影響は僅かながらに受けているのかもしれない。

 容姿を説明するなら──女子としては少し高い背と、そのうえで腰まで生えた白髪が特徴かもしれない。

 元が無機物なので、抑揚はともかく精巧な人形みたいな顔をしているし。
 服は相変わらず白いトーガ……こちらは何がとは言わないが平たいので問題ないな。


「で、話があるなら先にやってもらいたいことがあるんだが……」

「そのことで話があるんだけど、魔力を分けてもらえないかな? いろいろあって、枯渇しかけているんだよ」

「それぐらいなら構わないぞ。ほら、手を出してくれ」


 なお、どの部位に触れるかによって効能に変化が生じるスキルが大半である。
 譲渡の最上位でもある【謙譲】であれば、どこでもいっさいの減衰なく移譲できるぞ。


「限界になったら言ってくれ。注げるだけ、注いでいくぞ──ほいっと」

「ちょ、ちょっと多すぎるんじゃ……」

「やばくなったちゃんと言ってくれよ。ペースを上げていくからな……」

「あっ、待っ──」


 眷属との特訓過程で、魔力の濃度や循環効率などを向上させていた。
 相手から魔力を奪う方法も、与える方法もその間に学んでいる。

 ただ、それをやっている間は集中しないといけないんだよな……それこそ、周りが見えなくなるぐらいに。





 ノアは箱舟に帰り、作業を始めた。
 少々赤い顔をしていたのは、同じく顔を赤くして怒鳴ってきたイアと同じ理由だろう。

 そういえば、それを試した眷属にも危険だと言われていたっけ?
 ……何が、とは言われなかったけど。


「さて、どうなることやら」


 箱舟から生みだされる膨大な数の魔物。
 あのときはイベント補正でもあったのか、さすがに王系種族キングは生みだされていない。

 それでも将軍ジェネラルとか教皇ポープなど、擬似職業の中でも上位の職業名を持つ魔物が出ていた。


「ファンタジー世界は一騎当千できるって言うが、同じシステムに則った雑魚が徒党を組めばそれなりに勝つ可能性は生まれる。実際は、どっちが答えなんだろう?」


 少なくともイアたちは、召喚獣という精鋭と共に魔物たちを殲滅している。
 ただ、これは複数対複数の戦いなので、知りたいことの答えが分かるわけではない。


「封印されていた眷属たちは、大勢によってたかって封印されたり特別な個人に封印されたりしていた……違いが分からないな。カグは過去の選ばれし者たちと連合軍に、クエラムはティルに。場合によるってことか?」


 状況は少しずつ、だが唐突に変化する。
 無尽蔵に溢れる魔物の優位な点は、召喚される魔物が新たな個体しんぴんという点だ。

 だが、イアの召喚獣たちはゆっくりとエネルギーを擦り減らしていく。


「召喚系の従魔職業の特徴は、調教系と違い自身の魔力を使って従魔を召喚する。故に常時回路が繋がれており、そこからエネルギーのやり取りができる……従魔の中に一体でも回復手段を持っているのがいれば──」


 ただ、それらをすぐに極めるのは難しい。
 だからこそ、従魔だけでなくその主にもそれを身に着けてもらいたい──解析して、俺も召喚系の能力を取り戻したいからな。



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