AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と東の島国 その16
「あれ、何かしていましたか?」
「何かって……何?」
「なんというか……一騒動起こした、みたいな顔をしていますよ」
「それってどんな顔なのかな?」
帰ってきた俺を迎えてくれたクラーレは、唐突にそう訊ねてきた。
眷属もそうだが、どうしてある程度俺と接したことのある人は、俺がやらかしたことを察しているのだろうか?
「ますたー、これからどうするの?」
「一度、あちらの大陸に戻ろうかと思っているみたいです。転移の札が有りますし、次の帰還に転移門を開けてもらうことに注力する予定ですね」
「あー、それってもう完成していたんだ」
「シガンたちはそれを受け取りに向かっているんですよ? メルの分も有りますから、安心してくださいね」
おっ、それはありがたいな。
おそらく、その札とは符術が用いられた札で空間属性系のナニカがされている。
符術は便利なので生活魔法感覚で売られていたが……あんまり数が無かったし。
特に空間属性系の札を、庶民が買う余裕などあるはずもないので、そもそも店に入荷していなかった。
クラーレたちも、だからこそ完成するのを待っていたんだよな。
「それと、ログアウトしている間に少し調べておきました」
「おおっ、さすがますたー!」
「……メルスは帰りたいと思ったりしないのですか?」
「私には頼る相手が居るからね。それに、帰る理由はあんまりないし……」
まあ、異世界最高! とか言っている輩と似たようなものである。
帰るべき場所が在り、守るべき者がいるというのであれば──それらはすべてこの世界の眷属たちだ。
「ますたーは気にしてなくていいよ。それよりもますたーたちは、自分たちのことを気にしていた方がいい」
「……大丈夫、ですか?」
「私は大丈夫だよ。本当に困った時は、ますたーたちに頼るかもしれないね。そのときはよろしくね」
「は、はい!」
優先度的に、大半の問題は眷属に回って解決されるだろうが……言っておくのと言っておかないでいるのとでは全然違う。
なんだか嬉しそうなのは、普段そういうことを言わないでいたせいだろうな。
シガンたちがクラーレの居る拠点まで帰ってきた。
その手に持った二枚の札、その一枚を受け取りさっそく解析を始める。
「独り用みたいね。メル、これからあなたはどうするの?」
「ますたーたちに同行するよ。そもそも空間魔法で帰れる距離じゃないからね。死に戻りする気は無いんでしょ?」
「そりゃあまあ、デスペナルティは避けたいし……メルが手伝ってくれるなら、最短で帰れるからそうしたいわね」
行きもそれなりに高速で来たからな。
密偵縛りで未だに解放したままの影魔法しか使えないが、いちおう影魔法にも転移系統の魔法はある。
ただ、影魔法が無くとも向かえるのだからそちらに任せておきべきだろう。
「最短がイイなら、ギルドハウスを使ってみる? 少なくとも、船を使って行くよりは快適な旅を確約する──」
『ぜひ!』
「……そんなに酔うかな? まあ、結局この国の人たちに見せる分もあるから、最初は船で行くしかないけどさ」
『…………』
沈黙が虚しさを表している。
せっかく解放されたと思いきや、悲しき現実を突きつけられたのだからな。
悪気はないが、やはりこればかりはやっておかないと不味い。
今回の符、どう足掻いても来訪用にしか使えないみたいだし。
「今回はそんなに長い旅路でもないし、ますたーに状態異常回復の魔法をずっと掛けてもらえばいいんじゃないかな?」
『そ、それだぁ!』
「えっ、わたしがやるんですか?」
「今の私には回復魔法は使えないし……ますたーに頼めないかな?」
さっそくの頼み事だった。
こういう小さなことなら、まだ気にせず頼むことができる。
……何より、それを言ったらクラーレの瞳がキラキラしているので撤回できない。
「お任せください! 何人だろうとわたしの回復魔法で癒してみせましょう!」
「……どうしてここまでチョロい娘に育ってしまったのかしら。メル、いえメルス。この責任はちゃんと取りなさいよ」
「反省する、けど後悔はしない!」
「……どっちもダメな子だったわ」
ダメな子って言われてもな……。
さんざん眷属に言われ慣れてるし、そもそもダメじゃないならこれまでの騒動もいっさい問題なく解決できただろう。
そういう意味では、ダメでよかったな。
すべてを完璧に成功させる人間に隙なんて存在しないし、そういうヤツはあまり好かれないだろうし……俺はどうせなら、可能な限りモテたいと思うモブである。
◆ □ ◆ □ ◆
天の箱庭
船で海へ出て、ある程度離れた所で呼びだしていたギルドハウス(浮島)に転移した俺と『月の乙女』たち。
中で酔いに弱いグループは地面に転がり、そのありがたさを深く感じていた。
『地面が、地面が……』
「ますたー、あれってどう思う?」
「う、嬉しそうですね」
「私、そろそろ本格的に酔い止めの薬を作ってみることにするよ」
さすがに罪悪感がな。
俺は{夢現反転}で酔いが起きても気分が向上するチート状態なのに、彼女たちは普通に苦しんでいるのだ……心が痛い。
「とりあえず、本物の地面に着かせてあげるのが真の優しさじゃないですか?」
「……うん、速度を上げることにするよ」
そんな俺たちの優しさもあり、彼女たちは数十分もしない内に二つ目の地面に感謝するのであった。
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