AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と東の島国 その03
連続更新中です(05/12)
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さて、俺にはそもそもこの島国へ行きたい理由が存在した。
文化が独特であり、いくつもの異なる名で魔力を運用するここならば、異なるアプローチである魔法を使えると思ったからだ。
──召喚魔法。
異界よりナニカを呼びだすこの魔法は、理論上あらゆる存在を召喚することができる。
たとえ天使だろうと悪魔だろうと、神だろうと人間だろうと……異世界人だろうと。
運営神云々という、もうすっかり忘れていた問題を解決しないのでどうしようもないのだが、戦力増強や帰還妨害などの可能性を踏まえ、そういったことを調べている。
式神という従魔を呼びだすために、この島国『井島』では紙を媒体にしたり血を媒体にしたりして召喚を行っているらしい。
いわゆる式札や口寄せの術、などといった方法だが……かつての俺は『中忍』だ。
「要するに、いちおうの可能性はあるわけ」
お久しぶりの登場『再生の指輪』を用いれば、過去に使用した能力が行使できる。
忍術スキルを習得していればよかったのだが……口寄せとかそういうのは、結局自前のスキルが無いと使えないんだよな。
なので今回ここを訪れたのは、何かしらのヒントが無いかを探しに来たというわけだ。
そもそも忍者に会えるかどうかとか、秘伝の術っぽいのを見せてもらえるのかとかを、度外視した無謀な作戦ではあるが。
◆ □ ◆ □ ◆
とりあえず、米を売ってもらえるだけの信用は勝ち得た『月の乙女』たち。
俺という偽善者に慈悲を与えるぐらいには心が優しい少女たちなので、いずれはそうなると分かってはいたが。
「やったぁ、やりましたよメル!」
「ふふっ、おめでとうますたー。さっそくお祝いにお米を炊いておむすびでも作る?」
「ぜひ、ぜひお願いします!」
「はーい」
やっとこさ手に入れた米を受け取り、さっそく下準備を始める。
とは言ってもここは魔法が存在する世界、方法は決して現実と同じでなくともよい。
「まずは──時空属性が付与されたこの炊飯器で、すぐに炊き上げます」
「この時点で異常ですね」
「細かいことはいいんだよ。大切なのは、すぐに米が食べられる……これじゃない?」
「──それもそうですね。メル、やっちゃってください」
依頼者からも許可が出たので、炊き上がった米をさっそく握り始める。
衛生観念などの問題もあるため、米には直接触れないようにして、魔力を手袋代わりにしてせっせと作っていく。
「そういえばますたー、中に入れても食べられないおかずとかってある?」
「わたしは特にありませんよ」
「そっかー、なら隠し味にアレを入れても問題なさそうだね」
「……物凄く心配になりますから、ちゃんとそのアレとやらは教えてくれますよね?」
その質問はただひたすらに笑って誤魔化して、いくつものおかずを詰め込んだおむすびが完成する。
もちろん、普通の具材を入れる工程も見せたので、すべてを疑っているわけではない。
「さぁ、私お手製のおむすびだよ!」
「…………」
「どれを食べても美味しいことは保障するから。そんな親を殺されたみたいな目でジッと睨まないでよ」
「美味しいことだけは、保障されますね」
まあいいですと、ため息を吐いたクラーレはそのまま適当におむすびを一つ手に取って口に含み──眼を輝かせる。
うん、別にドッキリ系の味付けは一つもしていないので、どれも旨いには旨いのだ。
「あむ……負けた気分です。わたしはおむすび一つを比べても、幼女に変身する男の人に敗北するのですか」
「うーん、覚悟が違うんじゃないかな? 前に説明した通り、私は私なりにこうしたいって具体的な想いがあるわけだからね」
「それはわたしにもあります……ですが、たしかにメルには劣っているかもしれません」
しょんぼりと落ち込みながら、それでもおむすびを口に入れる度に少しずつ元気に……なるが再びその旨さに落ち込むクラーレを見て、さすがに罪悪感が湧いてきた。
「ほ、ほら。それに私はログインしている時間が尋常じゃないからね。ますたーもしっかりと料理スキルを磨いたうえで、自分で料理の腕を上げていけば私なんてすぐに抜くよ」
「……わたし、料理はできないんです。何か失敗するわけではなく、単に美味しくない物ができあがるんですよ」
「ますたー……」
「そんなわたしでも……本当に、上手くなっていきますか?」
いろいろと本気だな……クラーレは。
友人を救おうとしたり、仲間に追いつくために強くなろうとしたり──今もまた、いつものように瞳を強く輝かせ始めた。
「ますたーは強いね」
「へっ? そ、そうですか? まだまだ強くならないと、メルはともかくユウさんやアルカさんに遠く及ばないと思いますよ」
「そうじゃなくてね、心が強いんだよ。私は一度諦めて、こっちで強くなれたからもう一回やり直せると奮起した。けど、ますたーは違う……自分の意志でここまで来た。うん、とっても凄いことなんだ」
「……メルス」
久しぶりに呼ばれたな。
実際、俺は{感情}を手に入れていなければ異なるプレイスタイルを模索し、少なくとも今とはまったく異なる生き方をしていた。
その先にあるのはただの『俺』だ。
それこそが正しい人生で、本来進むべき道だった……だけどそれでは、救えないモノが存在した。
「ますたーは私とは違う。それは違う人だから当然なんだけど……力を持っている人がそれを振るう覚悟と、力を持たない人がそれを得ようとする覚悟は全然違うんだよ」
「あ、あれ? 弱いって遠回しに言われている気がしました」
「今はまだ、ますたーは想いを現実に変える力が足りないかもしれない……だから、先輩であるこの私がサポートするよ。強くなれたなら、困っている私を助けてね」
「……まあ、考えておきます」
俺からを逃れるように、おむすびを頬張るクラーレ。
きっとその表情がそう悪くないことを、今は祈っておこう。
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さて、俺にはそもそもこの島国へ行きたい理由が存在した。
文化が独特であり、いくつもの異なる名で魔力を運用するここならば、異なるアプローチである魔法を使えると思ったからだ。
──召喚魔法。
異界よりナニカを呼びだすこの魔法は、理論上あらゆる存在を召喚することができる。
たとえ天使だろうと悪魔だろうと、神だろうと人間だろうと……異世界人だろうと。
運営神云々という、もうすっかり忘れていた問題を解決しないのでどうしようもないのだが、戦力増強や帰還妨害などの可能性を踏まえ、そういったことを調べている。
式神という従魔を呼びだすために、この島国『井島』では紙を媒体にしたり血を媒体にしたりして召喚を行っているらしい。
いわゆる式札や口寄せの術、などといった方法だが……かつての俺は『中忍』だ。
「要するに、いちおうの可能性はあるわけ」
お久しぶりの登場『再生の指輪』を用いれば、過去に使用した能力が行使できる。
忍術スキルを習得していればよかったのだが……口寄せとかそういうのは、結局自前のスキルが無いと使えないんだよな。
なので今回ここを訪れたのは、何かしらのヒントが無いかを探しに来たというわけだ。
そもそも忍者に会えるかどうかとか、秘伝の術っぽいのを見せてもらえるのかとかを、度外視した無謀な作戦ではあるが。
◆ □ ◆ □ ◆
とりあえず、米を売ってもらえるだけの信用は勝ち得た『月の乙女』たち。
俺という偽善者に慈悲を与えるぐらいには心が優しい少女たちなので、いずれはそうなると分かってはいたが。
「やったぁ、やりましたよメル!」
「ふふっ、おめでとうますたー。さっそくお祝いにお米を炊いておむすびでも作る?」
「ぜひ、ぜひお願いします!」
「はーい」
やっとこさ手に入れた米を受け取り、さっそく下準備を始める。
とは言ってもここは魔法が存在する世界、方法は決して現実と同じでなくともよい。
「まずは──時空属性が付与されたこの炊飯器で、すぐに炊き上げます」
「この時点で異常ですね」
「細かいことはいいんだよ。大切なのは、すぐに米が食べられる……これじゃない?」
「──それもそうですね。メル、やっちゃってください」
依頼者からも許可が出たので、炊き上がった米をさっそく握り始める。
衛生観念などの問題もあるため、米には直接触れないようにして、魔力を手袋代わりにしてせっせと作っていく。
「そういえばますたー、中に入れても食べられないおかずとかってある?」
「わたしは特にありませんよ」
「そっかー、なら隠し味にアレを入れても問題なさそうだね」
「……物凄く心配になりますから、ちゃんとそのアレとやらは教えてくれますよね?」
その質問はただひたすらに笑って誤魔化して、いくつものおかずを詰め込んだおむすびが完成する。
もちろん、普通の具材を入れる工程も見せたので、すべてを疑っているわけではない。
「さぁ、私お手製のおむすびだよ!」
「…………」
「どれを食べても美味しいことは保障するから。そんな親を殺されたみたいな目でジッと睨まないでよ」
「美味しいことだけは、保障されますね」
まあいいですと、ため息を吐いたクラーレはそのまま適当におむすびを一つ手に取って口に含み──眼を輝かせる。
うん、別にドッキリ系の味付けは一つもしていないので、どれも旨いには旨いのだ。
「あむ……負けた気分です。わたしはおむすび一つを比べても、幼女に変身する男の人に敗北するのですか」
「うーん、覚悟が違うんじゃないかな? 前に説明した通り、私は私なりにこうしたいって具体的な想いがあるわけだからね」
「それはわたしにもあります……ですが、たしかにメルには劣っているかもしれません」
しょんぼりと落ち込みながら、それでもおむすびを口に入れる度に少しずつ元気に……なるが再びその旨さに落ち込むクラーレを見て、さすがに罪悪感が湧いてきた。
「ほ、ほら。それに私はログインしている時間が尋常じゃないからね。ますたーもしっかりと料理スキルを磨いたうえで、自分で料理の腕を上げていけば私なんてすぐに抜くよ」
「……わたし、料理はできないんです。何か失敗するわけではなく、単に美味しくない物ができあがるんですよ」
「ますたー……」
「そんなわたしでも……本当に、上手くなっていきますか?」
いろいろと本気だな……クラーレは。
友人を救おうとしたり、仲間に追いつくために強くなろうとしたり──今もまた、いつものように瞳を強く輝かせ始めた。
「ますたーは強いね」
「へっ? そ、そうですか? まだまだ強くならないと、メルはともかくユウさんやアルカさんに遠く及ばないと思いますよ」
「そうじゃなくてね、心が強いんだよ。私は一度諦めて、こっちで強くなれたからもう一回やり直せると奮起した。けど、ますたーは違う……自分の意志でここまで来た。うん、とっても凄いことなんだ」
「……メルス」
久しぶりに呼ばれたな。
実際、俺は{感情}を手に入れていなければ異なるプレイスタイルを模索し、少なくとも今とはまったく異なる生き方をしていた。
その先にあるのはただの『俺』だ。
それこそが正しい人生で、本来進むべき道だった……だけどそれでは、救えないモノが存在した。
「ますたーは私とは違う。それは違う人だから当然なんだけど……力を持っている人がそれを振るう覚悟と、力を持たない人がそれを得ようとする覚悟は全然違うんだよ」
「あ、あれ? 弱いって遠回しに言われている気がしました」
「今はまだ、ますたーは想いを現実に変える力が足りないかもしれない……だから、先輩であるこの私がサポートするよ。強くなれたなら、困っている私を助けてね」
「……まあ、考えておきます」
俺からを逃れるように、おむすびを頬張るクラーレ。
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