自称偽善者は電脳異世界に揺蕩う(旧:AFO ~(自称)偽善者のVRMMO(?)記~)

山田 武

偽善者と東への道のり 中篇

連続更新中です(01/12)
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 ムキュリ


 東の国へ向かうための船は、この港町から出ている。
 当然、米の情報を持っていた商人もここから仕入れを行っていたため……祈念者プレイヤーたちの数はそれなりに多い。


「うわぁ、いっぱい居ますねぇ……」

「みんな、ますたーたちと同じ目的だよね」

「いえ、違いますよ。わたしたちはここで手に入るお米で妥協するのではなく、直接お米の苗を手に入れるのです!」

「うーん、たしかに植物の栽培もできるように仕込んではいるけど……あっちが品種改良とかまでやっているかは分からないよ」


 現在の日本で食べられている米は、数百数千にも及ぶ交配実験によって誕生したエリート米とも呼べる。
 それにこの世界の米が匹敵するとは……あまり思えない。

 俺の所で作っている米の場合、レンに予め改良してもらったため最初から美味かった。
 何かしらやっておかなければ、どれだけ時間を掛けようと食べ物は応えてくれない。


「それで、ますたーたちはこれからどうする予定なんだっけ?」

「えっと……掲示板によりますと、この町で船を使うには許可証が必要になるとのことです。誰かの船に乗るだけの場合でも、一定以上の距離まで向かう場合は何かしらの条件が必要となります」

「なんでそんな面倒なことを?」

「ここが帝国の近くだからよ。逃げられることを警戒して、厳重な警備が……ほらね」


 シガンが視線を向ける先では、衛兵らしき者たちが歩き回っている光景が観れる。

 人々は決して目を合わせず、それでいて気にされないように最大限空気を薄めて彼らから離れようとしていた。


「なるほど。なら、プレイヤーたちも同じように調べられるの?」

「いえ、死に戻りで逃げられる私たちを本気で追いかけるようなことはしないわ。だから何かしらの依頼を受けさせられて、それを達成できれば出れるわ」

「ほへぇ……それでも依頼があるんだ」

「メルちゃん、頑張りましょう!」


 やる気で瞳が燃えるように輝いている。
 それはクラーレだけでなく、他の少女たちもまた同じような状態だ。

 まあ、クリアしている祈念者が居るみたいなので、不可能ではないんだろう。


「条件ってどんな感じなのかな?」

「町で用意された依頼を一定以上こなす、一定額の素材の提出、あとは高い地位であることを証明する……ですね」

「ますたーたちはどれを?」

「一つ目か二つ目ですよ。高い地位とは、貴族であることを証明したり、どこかのギルドで高いランクになっていることをカードを提出して証明するのです。ですが……まだまだわたしたちのランクでは足りません」


 俺の場合は……Sランクではあるが、身分が証明できないので使えないな。
 運営神に『メルス』は嫌われてるし、変身している『メル』には身分が存在しない。

 一国の王であることを証明できれば行けるだろうが、別世界の話なのでここで言ってもしょうがなかろう。

 ただの妄言として扱われ、最悪身分詐称で捕縛されてしまうよ。


「なら、私がやるから二つ目にしようよ」

「素材の提供ですか? ですが、本当にいいのでしょうか?」

「うん、それぐらいなら構わないよ。なんだかますたーたちも本気だし、船を私が用意しなかった分はこれで帳消しにしてね」


 まあ、そういう風に話が纏まったので、出航許可証を得るために申請所へ向かう。

 人数は最低限にしたかったので、今回はシガンに付いてきてもらうことにして、他の少女たちには買い物に行ってもらうことに。


「クラーレはよかったの?」

「ますたーはあまり交渉に向いていないし、『月の乙女』のリーダーはシガンお姉ちゃんだからね。腹芸ができないと、何か怪しまれるかもしれないし」

「たしかにそうよね……あの娘、嘘を吐くとすぐにバレるのよ」


 なんてクラーレの話をしていると、待ち時間も過ぎて俺たちの番になる。

 さすがに幼……妖女が『はじめてのおつかい』をここで済ませるわけにはいかず、ここはシガンが受付で言葉を交わす。


「──素材の提供ですね。どれほどの大きさの品を提供していただけるのでしょうか?」

「そうねぇ……大量になるわ。質じゃなくて量で補っているから」

「分かりました。では、こちらへどうぞ」


 案内されたのは少し広い空間。
 解体系のスキルでも持っているのか、巨大な包丁を握り締める者が待機しており、これから出す素材の価値を測ろうとしている。


「それじゃあメル、お願いね」

「うん、分かったよシガンお姉ちゃん……▲●◆──“空間収納ボックス”」

「空間魔法ですか……って、これは!」


 俺が提出したのは、<複製魔法>でコピーしまくった高ランクの魔物の素材である。
 ただ、『月の乙女』が倒した魔物だと怪しまれると思ったため、あくまでシガンの知らない場所で倒した魔物ばかりだ。

 受付係と解体係はそれらをジッと見つめ、本物であることに驚きながらこちらを見る。
 まあ、一部は本当に貴重すぎて国宝として素材の状態でも扱われるような魔物だしな。


「じょ、条件は達成です! ただ、これだけの素材となると、こちらで最高級の船を提供することもできますが……」

「いいえ、それは遠慮しておくわ。私たち七人の出航を、快く送りだしていただければそれで充分よ」

「そ、そうですか……分かりました」


 VIP待遇をしたかったんだろうが、自前の船がある俺たちには必要ない。
 ……さて、これで出ることができるな。



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