AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と東への道のり 前篇



 アキュリス広原


 ギルド『月の乙女』の少女たちは、だだっ広い野原を歩いていく。
 戦場跡地である『アニワス戦場跡』と違って、そこはそれなりに草木が整っている。

 しかし、ここは帝国の東に位置するフィールドであり、本来であれば惨劇の行われた跡地でもある……そうじゃないのは、徹底的なまでに整備が行われた結果、戦場を行った証拠を抹消できたからだな。

 だがそれでも、人族が争って消費した魔力やら魂魄の残滓が、魔物たちの中へ取り込まれることで強化されていった。

 ……まあ、初期地点から離れるほど魔物が強くなるのは、そういうことが理由である。


「ところで、ますたーたちはどうして東に向かうことにしたの?」

「米です」

「……えっ?」

「だから米です。商人のようなことをしているプレイヤーが、東の大陸に米があることを見つけだしたんですよ!」


 大興奮で教えてくれるクラーレ。
 他の少女たちも同様に頷いており、一致団結して東へ向かおうとしている事実を明確に伝えてくれる。

 しかし、東の大陸ね……。
 ナックルたちは先に開いたサルワス辺りから送りだしたため、東に向かうことはなかったが……情報だけなら、こっちの大陸の者でも掴めたのか。

 東には日本風の島国があり、それっぽい文明が栄えていることは本で知っていたが、眷属の中にそういった文化の中で生きてきた者が居なかったので無視していた。

 というか、作れる物は【生産神】があればどんな物でも再現できるし、錬金調理を行えば日本食を何でも生みだせる……要するに行く必要が無かったのだ。


「……あー、ますたーたちにお米を使った料理を出したことがなかったんだっけ?」

「! メ、メル。そ、それではまるで、自分が米を持っていると言っているように……」

「私は迷宮ダンジョンを管理しているからね。そこでその栽培をできないと思うの?」

『──ッ!』


 怖い、物凄く目がギラギラしているよ。
 わざわざ東の島国まで行かずとも、コイツから奪えばいいじゃん♪ なんて鼻歌混じりに実行してきそうな雰囲気だ。


「ああ、こればかりはますたーたちにもあげられないからね。迷宮を頑張って攻略してくれた人ならともかく、奪い取るのはさすがにどうかと思うし……何より、奪われないように置いてある場所は攻略できないから」

「こ、攻略難易度は?」

迷宮ダンジョンとしての難易度はレベル1、ただし種族レベルが10以上の者は侵入不可能な特殊制限迷宮だよ」

「ず、ズルいです!」


 子供たちのお小遣い稼ぎになるかな? と考え、そんな迷宮を造ってもらいました。

 俺はステータスを偽装すれば入れるし、そもそもレンが入場許可をくれるので制限を気にせず入ることができるからな。


「まあまあ、ちゃんと東の大陸に行けたら私が料理してあげるから。ますたーたちは自分でお米を手に入れる喜びを知ってから、そのフルコースを堪能してよ」

「そ、そういうことならば、し、仕方ありませんね……(ジュルリ)」

「まったく……ちゃんと拭きなさいよね」


 少々乙女とはかけ離れた雫を、リーダー兼学友らしいシガンが拭き取る。
 出会った頃にあった清廉さは、今なお変わらないのだが……当時はシガンがアレだったので、緊張感でいっぱいだったんだな。

 だからこそ、問題が解決した今では少しだけ頭までほんわりとしているのかも。

 覚悟を決めた時はバリバリのシリアスモードになるし、ちょっと抜けている部分も和むので別に好いんだけど。


「ところで、どうやって東の大陸まで行くつもりなの? ギルドハウスを使えば飛べるけど、そもそも歩いているし……船を使うなら当てはあるの?」

『…………』

「あれ? せめて、行き当たりばったりとか行ってほしかったんだけど……私は何もしないからね。ますたーたちのお手伝いのしすぎもどうかって、最近意味もなく思い始めているからね」

「船は生産班の皆さんで造ってくれたのがあります。ただ、ちょっと凝ってまして……その運行をお願いしたいんです」


 そうだったな、船だけなら用意できる。
 ただ、その設計図を提供したのは俺だ。
 宇宙戦艦はもちろんのこと、練習用の小舟から帆船まで揃えていたつもりである。


「それぐらいならいいけど……どんな船を操縦させたいの?」

「たしか、全装帆船シップ? といった名前だった気がします」

「それで合ってるわよ。私の[アイテムボックス]の中に格納してあるから、いま名称を確認したわ」

「シップか……気分に任せて設計していたのが悪かったのかな? シガンはもう見ていると思うけど、あれって帆が三つもあるから操縦が面倒臭いんだよね」


 幸い、魔法がある世界なのである程度ならばカバーすることもできるが……それでも見せることのできる能力の限度や、制限している能力などがあるので、俺独りで完全に操り切るのは難しいだろう。


「まあ、船場に着くまでまだまだ時間はかかりそうだし……そういうことは、また後で考えることにするよ」

「……なんだか悪いわね」

「ううん、気にしないで。私だって本当に嫌ならさっさと帰るし、どうしてもすぐに生きたいなら転移で行けるから。今は、みんなで行った方が楽しいと思っている……だから、みんなで行くことに決めたの」

「メル……」


 というか、俺も実は日本風の島があるなら行きたいと思っていた。
 その理由は……まだ内緒だ。



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