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山田 武

偽善者と赤色の脱出 その13



 大人げないと思った。
 容赦ないというか、子供っぽいというか。


「ねぇ、さすがに悪かったって。だからそろそろ支援魔法を掛けてくれないかな?」

「……もう言いませんか?」

「言わないよ。メルスに仲間はいるよね、同志とか……そういう人たちが」

「なんだかいろいろと含んでの発言な気がしますが……形だけでも謝っていただけたことですし──“妖精の燐祝フェアリーブレス”」


 きっと同じような振る舞いが好きな人が、メルスには居るだろう。
 話し方からメルスがこの世界の人族ではなく、別世界の人族なことは分かっている。

 そもそも妖精という種族は、からかうことが好きでこっそり人族の子供を入れ替えたりしている時期もあったらしい。
 今はやってないみたいだけど……まあ、それは置いておくとして。

 入れ替えるだけじゃなくて、森に迷い込んだ子供を精霊界に連れていくなんてこともできるのが妖精なのだ。
 あくまで隣接する世界にしか移動できないけど、だからこそ分かることがある。

 ──メルスは異世界の人族だ。

 最上位の妖精となったことで、不思議とそういうことが理解できるようになった。
 なんだかこう……アンデッドたちとの魔力の波長、その差異が分かるようになったみたいなのだ。

 そういった妖精的感覚と、メルスが語った異なる世界の話。

 それを知っている時点で、違和感があったし疑念を抱いた……私たちの世界でも知る者が少ないソレを、なぜ知っているのかと。


「ありがとう……けど、なんだか聖炎龍には勝てない気がしてきたよ」

「あればかりは仕方ありませんね。聖炎龍は本当の意味でこの世界の守護者、たとえ魔に堕ちようとその力は個人の武を超えます」

「……なら、メルス的に勝利するための方法とかはないの?」

「私自身にはありませんよ。ですが、サランさんにはそれがあります。もっとも、まだ戦闘経験が足りませんので、あまりお勧めはしませんけど」


 初めの頃だったら少しは反論をしていたかもしれないけど、それをする気力はもうとっくに失われている。

 ちゃんと訊ねれば戦い方に関するヒントもくれるので、完全な悪人でもないのだ。


「教えて。今のままじゃ、メルスが求める覚醒とやらもできないよ」

「……意見を変えることはできませんね。これまでは控えていましたが、実行すれば先ほどまでに味わっていた痛みなど忘れるほどの激痛が伴います。覚悟と逆境、この二つで窮地を乗り越えますが──よろしいですか?」

「なんだかメルスと会ってから、ずいぶんといろんな経験をしているからね。なんでもできることをやって、ここから出てやろうじゃないの!」

「……分かりました。では、さっそく始めましょう。少し準備が必要なことですので」


 そう言って、メルスは何やらむにゃむにゃと呟き始める。
 魔法の詠唱……というか、それを真似して適当に言っている気がした。


「……ねぇ、今までさんざん無詠唱で魔法を使ってたよね?」

「これは私の国に伝わる早口言葉というものです。それ自体に意味は感じられないと思いますが、まあ……準備が終わるまでの音楽代わりにしてもらいたくて行いました。さて、ちょうど準備も終わりましたよ」

「…………特に変化はないけど」

「すぐに分かりますよ。覚悟をしていてくださいね──これからサランさんを襲うのは、私への強烈な猜疑心うたがいです」


 自分に不利なことを言うメルス……その意図は分からないけど、言っておかなければいけないことがあるのかもしれない。

 それに少しだけ嫌な予感を覚えたけど、それでも私は再び戦場へ向かった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「…………」

「こうなることは分かっていました。何をしたのか……お分かりになりますか?」

「……痛みが強くなった。しかも、意識が無くなりかけても続く」

「その通りです。これまでは私の方で肩代わりしていたもの、またこちらへ戻ってくる際に消耗する活力がすべて本来のものとなりました。死地から帰る対価とは、こういったものなのですよ」


 死ぬほどの痛み、なんて言葉があった。
 だけど私が味わったのは、本当の意味でそれを長い時間味わうというものだ。

 あの感覚は……たしかにダメだった。
 最初に感じていたら──絶対に挫折していただろう。


「気怠さがあるでしょう。一時的なものですが、身体能力が低下しております。支援魔法の数で補っていくつもりですが、やはり少しずつ足りなくなっていきます」

「それを『勇者』の力でどうにかしろってこと? まだそういうことに力を発揮できるかどうかも、分からないのに」

「ふふっ、そこはカカ様に仕える使徒としての勘でしょう。仮定の話ではなく、あなたは『勇者』になれます」

「……胡散臭いよ」


 だけど少しだけ気が楽になった。
 ほとんどメルスのせいで、私がこんなことする必要もまったくない。

 訪れるのは『死』の恐怖、報酬は地上への帰還のみ。


「──すでにアンデッドを聖炎龍以外浄化したサランさんです。最後の試練を乗り越え、間違いなく『勇者』となれますよ」

「……裏を返せば、そこまで逝ってもまだ覚醒してないってことだけどね」

「だからこそ、最後の壁が険しいのです。超えてください、サランさん」


 応援を背に受け、再び戦いに挑む。
 この恐怖を乗り切って──地上に帰る!


 SIDE OUT



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