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山田 武

偽善者と赤色の脱出 その06



 赤帝の墳墓 三十九層


 行きでは体験していなかった、悪意を感じる迷宮設計を味わう。

 未だに発動できない時空魔法は諦め、発動可能な魔法を有効的に使ってみようと発想を切り替えた。


「とは言っても、こちらもほとんど使用できませんね……」

「ねぇ、いったいどういうやり方をすればそこまで怒られるの?」

「先ほども説明した通り、時空魔法でスタート地点からゴール地点までを一瞬で移動していただけですよ。ただ、地形を完璧に把握するまでは、時魔法と空間魔法で攻撃を無効化していましたが……」

「たぶんそれだよね。というか、やっぱり便利なの……そういう魔法って?」


 生活魔法といういかにも便利な魔法を極めているサランからすれば、迷宮が利便性を懼れた魔法に興味を持っているようだ。

 まあ、消費魔力が多い以外に問題らしい問題が存在しないからな。


「そうですね……たとえば移動に使っていた“時飛ばしリープ”という魔法ですが、消費魔力は最低でも生活魔法の百倍はかかります」

「ひゃっ……!? メルスって、本当に普人族なの? ここって、五十階層あるのよね? それをずっと使い続けるって、もうお母様でも不可能だと思うんだけど……」

「ああ、いえいえ少し説明が足りませんでしたね。申し訳ありません」


 なんだか誤解させてしまったようだ。
 俺も説明下手だな……眷属を見習って、できるだけ上手に説明できるようになりたいとは思っているんだけど。


「そ、そうだよね~。い、いくらメルスでもさすがに冗だ──」

「最低でも、ですので発動時間はそう長くありません。一階層を突破する分の魔力量であれば、その十倍は必要となります」

「へ、へへ、へぇ~」

「また、現在のように迷宮が階層を進めるごとに抵抗してきましたので、その抵抗を押し通すために魔力を過剰で使いましたね。その分も含めると……ど、どうかしましたか?」


 一度暴けたからだろうか……なんだか全力全開で、こちらに魔力の籠もった視線を向けてくるサラン。

 だけど一度視られたことを反省し、さらなる防御を整えているので──何も視れない。


「うん、分からないことが分かった。やっぱりメルスは異常だった」

「偉大なるカカ様の恩恵ですよ。何の才能もないこの身は、カカ様の祝福を受けることで使徒として相応しい力を得ました」

「……物凄く胡散臭いよ。それが本当なら、人類界ってもう宗教戦争真っ只中だよね?」


 抵抗できない=魔力量が多いという単純な計算であれば、分からないからこそ分かるという矛盾した回答を出すことができる。

 最大量はバレていないだろうが、最低量の下限がだいぶ変化しているだろう。


「──さて、罠はすべて解除できたみたいですね。そろそろ行きましょうか」

「本当に“目印マーク”を付けておくと、勝手に記されていくんだ……」

「生活魔法にも可能性は存在する。そう考えている方々から教わったのですよ」

「その人たちにはぜひ逢ってみたいよ」


 ここまでの会話は時間潰し。
 本命は俺が用意した擬似精霊(火)を用いてのマッピングと罠解除だった。

 妖精らしく精霊魔法を使ったサランがその精霊に印を刻んで、迷宮を歩かせている。
 印を登録して“地図マッピング”を使ってもらい、精霊の視界を共有することで罠の発見や出口への最短ルートを探しているのだ。

 罠を視るため視界を共有したが、“地図”自体は魔力を宿した精霊が動き回っている時点で登録はできているんだよ。
 もちろん、“目印”の登録や“地図”への利用に抵抗されれば意味は無いんだけどな。

 罠の場所さえ分かれば、解除する方法はいくらでも存在する。

 時魔法で経年劣化を意図的に引き起こしたり、空間魔法で圧力を掛けて再配置できないように抑えつけたり……とかな。


「解除はできましたが、やはり専門の職業やスキルが無いと難しいですね。なんでも魔法で解決してしまいます」

「……そんなんだから、迷宮も怒って封印をしてくるんだよ。必要な魔法さえ使えれば攻略できるなんて謳われたら、迷宮だって必要なエネルギーを徴収できなくなるでしょ」

「なるほど、それでまた消費魔力が少しずつ増えているのですか。時空魔法は完全に封じられていますが、それ以上は抵抗力を上げるだけで精いっぱいのようですね」

「──って、言ってる傍から!!」


 完全禁止フィールドを全層に構築するためには、それなりのポイントが必要だ。

 すでに転移先としてすべての階層を試してみたが、本当にキレているのか全部を禁止にしたみたいなんだよ。


「もう、迷宮に迷惑を掛けちゃダメだよ!」

「……愛着でも湧きましたか?」

「そういうことじゃなーい! 迷宮が悪いんじゃなくて、もうメルスが悪いんでしょ!」

「分かりました。では、また異なる方法で上の階層へ向かうことを考えましょう」


 嫌われて、やっぱり協力しないという判断に至られるとこっちが困ってしまう。

 長寿系のキャラがまた次に期待する、なんて言うような選択肢は無いのだ……一度きりのチャンスは大切にしたい。


「ですが、私からその二つを奪ってしまえば攻略の時間が余計にかかりますよ?」

「…………い、いいよ! ちゃんと脱出することも、必要なことだよ!」

「分かりました。サランさんの意のままに、それこそが神の思し召しでしょう」


 否定はしない方がいい。
 彼女の良い点として、前向きに受け入れておいた方が良さそうだしな。



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