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山田 武

偽善者と赤色の脱出 その03



「ジトー」

「どうされたのですか?」

「物凄く痛かったなー! 誰かさんがー、説明も無しにこんなことやらせるからー!」

「それはそれは、申し訳ございません。ただ一つ弁明するならば──その痛みが対価として相応しいだけのレベルを、今のあなたは得ているのではないですか?」


 妖精は種族単位で宿している魔眼で、自他のステータスを高いレベルで看破できる。

 なので、鏡みたいに自分が映るようなものさえ用意できれば──自分のステータスを視ることが可能だ。


「えっ、レベルがマックス!?」

「おめでとうございます、サランさん。この調子でレベルを上げていけば、すぐに次の限界値に達することも簡単でしょう」


 すぐに250にしたかったが、『超越者』の称号を持たないうえ『勇者』に完全覚醒していないサランでは段階を踏む必要がある。

 ちなみに彼女は、すでに二段階分の進化を済ませた種族なようだ。


「けど、進化なんてここじゃ……」

「──それならば、これを」

「なんでここに……って、気にする場合じゃないよね」

「これがあれば、あなたの望むままに進化が行えるでしょう。よければ職業の方もついでに変更なされては?」


 いつものように『転進の翠晶』を取りだすと、それを設置して使用を促す。

 これが有るだけで──職業システムの恩恵にあやかれるし、進化する種族にも幅を持たせることができるからな。


「じゃ、じゃあ使ってみるね」

「使い方は分かりますか? 分からずとも、触れれば理解できると思いますので」

「そ、そうなんだ」


 進化後に何があるか分からないので、とりあえず俺は少し離れた場所で周囲の警戒を行うことにする。

 その間にサランは進化を行い、肉体を馴染ませるという寸法だ。


「しかし、ユラルも無職だったし……やっぱり異界には水晶が無いのか」


 史実などを読み漁ると、職業は弱者である人族のために与えられたモノとされる。
 邪なる存在の脅威に対抗するため、人が持つ『可能性』を読み取って最適化することで才能を開花させるんだとか。

 その結果、人族はその存在を見事撃退して今の世界を構築している。
 水晶は世界を構成する要素の一つとなっており、当時とは異なる非戦闘に関する才能などを発現させているのだ。

 ──逆に、異界には必要無かった。

 人族とは異なりそれぞれ種族単位で何かしらの才能を持つ者たちが生息するため、たとえ侵入者が現れても対応できたのだろう。

 だから神も水晶を与えず、彼ら自身の才核のみに委ねた。


「というか、種族単位で進化できないのって普人族フーマンだけだからな。ある意味他の人族っておまけなのか」


 他の種族は進化先にも多様性があるが、普人が本来進むべき先は一つしかない。

 しかもそれすらも、欲望を隠そうとしない今の彼らにとっては満たすことのできない条件によってなることができないのが現状だ。


「だからこそ、水晶を求めて争いもあったらしいし……職業システムを魔物に転用して、水晶を使わせようとしたんだろうな」


 魔物が職業っぽい種族名を得るのは、そういった理由である。
 かつてはただ暴れるだけでよかった魔物たちも、人族が職業システムによって工夫を凝らしてきたことから変化していった。

 彼らを真似、同じように魔物の集合意識が生みだしたもう一つの職業システム……その結果が種族名の後ろに付く職業名なのだ。

 派生はすれど、転職のように変更することはできない……彼らはそれを知らないから。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 数時間待った。
 暇だったので生産活動を行っていると、ふらふらと俺の下にやってくる。

 その見た目に変化は……まあ、羽が少し輝いているぐらいか。


「くんくん、イイにお~い!」

「おや、お待ちしておりましたよ。よければいっしょに──食べますか?」

「う、うん!」


 サラン用の容器も作ってある。
 そこに作った紅茶とお菓子を並べ、ブルーシートを敷いてピクニック感覚だ。


「あまり細かいことは詮索しませんが、これだけは訊ねておきます──次の種族レベルの限界値はいくつですか?」

「んぐっ……99だよ。もう最終進化種族みたいだから、進化はできないんだって」

「なるほど。それでは──先ほどよりもレベルが上がりますね」

「んぐっ!?」


 無詠唱で発動した“傀児作製クリエイト・ゴーレム”によって出現した、先ほどと同じく『神鉄傀児オリハルコンゴーレム』の姿を見て喉を詰まらせるサラン。

 すぐに紅茶を飲み干し、咳き込みながら俺に文句を言ってくる。


「ま、またやるの!? も、もう嫌だ! あんな痛みを味わうのは!」

「と、申されましても……さすがに私も種族レベルがリセットされてあなたを、安心安全に守るのは難しいですよ」

「うぐっ! そ、それはあんたがアレを使えと言ったからでしょ!」

「断るという選択肢もありましたが……そもそも強くなること自体に嫌悪感はありませんよね? 大丈夫ですよ──すでに一度経験したことです。二度も三度も変わりません」


 そして再び施される支援魔法。
 サランは泣きながら、先ほどよりも強化された自分が放つ魔法の威力に──発狂するように喜ぶのだった。



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