AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色の脱出 その02



「脱出を試みたことがありますか?」

「あるけど……ここって、なんだか強い魔物ばっかりだからさ」

「ここは『赤帝の墳墓』と呼ばれる迷宮で、単独での攻略難易度は──レベル200」

「に、二百!?」


 だからここには来たくなかった。
 この世界でのレベル上げは、灼熱の海で行えばすぐにできるが……それでもこのレベルはさすがに異常だ。

 それを可能にしてしまったのが『赤帝』を名乗ったかつての『赤王』で、職業魔王・・・・だ。
 人々を統制することで、すべての人族の管理や支配を行う──それが『赤王』だから。


「ここにはかつての『赤王』が眠り、その臣下たちがアンデッドとなってその守護をしております。彼らのレベルもまた、150を超えておりますよ」

「む、無理じゃん! わ、私のレベルはまだ10なんだけど……」

「ですので、まずは強くなりましょう。相手が150ならば、貴女はその先である200になることを目指せばいいのです」

「そ、そんなことできるの?」


 まあ、不可能ではないんだよな。
 職業魔王もいちおうとはいえ、魔王だ。
 無自覚の『勇者』とはいえ、少しであれば補正が入ってくれるだろう。


「ええ。ですが、少々お待ちください。神に祈り、許可をもぎ取りますので」

「も、もぎ取るってなに?」

「…………どうやら大丈夫なようですね。では、始めましょう」

「ねえ、もぎ取るってなにを?」


 細かいことは気にしないでもらいたい。
 触媒には神鉄オリハルコンを大量に使って、大地魔法の一つ“傀児作製クリエイト・ゴーレム”を行使する。
 使用した触媒によって最大レベルが変化するのだが……神鉄なら250まで行ける。


「ね、ねねねねぇ! な、なんか凄いのが出てきたんですけど!?」

「落ち着いてください。アレは私が生みだしたものですよ。何もしませんので、貴女はアレを倒すだけでレベルが上がります」

「そ、そういうのって大丈夫なの? というかアレ、私の攻撃通るの? 生活魔法しかレベル上げてないよ?」

「まあ、私も魔法で支援をしますので……たぶん大丈夫でしょう」


 たぶんという言葉に怯えるサランだが、少しでも可能性があるなら……とゆっくり近づいていく。


「──“魔力激強ドラスティックマジック”」

「ち、力が漲ってくる……!」

「そしておまけです──“妖精燐祝フェアリーブレス”」

「! こ、これって……」


 ついでに許可を貰った妖聖魔法。
 それで作ったオリジナル強化魔法により、妖精でありサランはさらに強化される。

 まあ、懐かしい魔力属性だからいろいろと戸惑っているみたいだけど……無視だな。


「とりあえず、使える魔法でもっとも火力のある魔法をお願いします」

「火力? わ、分かった」


 妖精だし、それなりに使おうと思えば強力な魔法が使えると思う。
 全力で魔力を注いだので、放たれる一発はきっととんでもない威力に──


「“着火イグニス”!」

「…………」

「って、あれ? やっぱり着かないなぁ」

「……まあ、攻撃さえ入っていれば問題ありませんので」


 妖精なのに精霊を使わないで生活魔法を使うとは……さすがに想定していなかったな。

 生命力はかなり減らしていたのだが、やはり素の魔力抵抗力が高いのでほとんど通らずに残っている。

 なので、そこは代わりに俺が行う。
 経験値を吸収しないように魔力の膜で己を包んだうえで、魔力を籠めた拳で殴りつけてそのまま倒す。


「うぎゃぁあああああ!」

「ああ、言い忘れていましたが……過剰な成長には苦痛が伴いますよ」

「そ、それ、もっと早く言ってぇエエエ!」

「これを回復させると悪影響があるそうでして……頑張ってください」


 こればかりはどうしようもないな。
 これを抑えるため、他の候補者たちのレベリングはゆっくりと行っているのだが……この状況から脱出するためにも、サランにだけは急速な成長が求められる。

 なんだかブレイクダンスっていうか、もがき苦しんで破壊を表しているというか……とにかく叫び続けているサラン。

 その痛みが尋常なものじゃないのは、通常の成長よりも『勇者』が一度に成長する幅が広いからだろう。


「さて、これからどうするかな?」


 痛みに苦しむサランに、俺の呟きを聞き取るだけの余裕なんていっさい残っていない。

 急速レベリングを行うとこうなるのは、すでに分かっていたことだ……さすがに踊りだすとは、思ってもいなかったけど。


「『勇者』の自覚が無くても、別に構わないけど……覚醒した状態で連れていく必要があるなら、結局どうにかしないとならない。幸いここは、それを目覚めさせるのにはぴったりの場所だしな」


 強大な敵を前に、『勇者』という存在は覚醒に覚醒を重ねてそれを超えていく。

 存在そのものがチートであり、能力などはおまけに過ぎない……生活魔法だろうと、本来の『勇者』であればチートにできる。


「そう、メラだってメラゾーマに……って、これは魔王のたとえだっけ?」

「うぎゃぁああああああ!」

「……もう少しかかりそうだな」


 そしてその予想は当たり、小さな妖精が踊りを止めるのは──数十分後だった。



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