AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とPK妨害 その08



「それじゃあ、まずはテストといこうか」

 男が放つ斬撃の一つひとつが、小型のサメとなってフレイを襲った。
 彼はそれに焦ることなく、ただ剣を一振りし──そのすべてを焼き払う。

「技でもなんでもなく、ただ放った炎がオレのサメを全部消すのか……面白れぇな!」

「……もう、止めましょう」

「はぁ?」

「僕はあなたを殺さない、あなたの攻撃は僕には届かない。意味なんてない、もう戦わなくていいんだ……」

 フレイは男に語りかけていく。
 これまでの憎悪に満ちた表情から一転、慈しみを持った聖人のような表情を浮かべる。
 新たな力を得るのと同時に、彼は自身の在り方を再定義したのだ。

 だが、男は変わらずニヤニヤと口角を上げ歪んだ笑みを浮かべる。
 そして高笑いをしながら、両手をバッと広げて叫ぶ。

「おいおいおいおい、何言ってんだよ! つまんねぇったらありゃしねぇ! テメェはこの女どもを生贄にして、平和協定がしたいってか? なんてつまんねぇアイデア、なんて面白くもねぇ提案……反吐が出るぜ!」

「もちろん、二人は返してもらう」

「できねぇことを言うんじゃ──何ッ!?」

「悪いけど、いつまでもあなたの所に二人は置いておけない。返してもらったよ」

 先ほど放った炎が通常の炎と同じように赤色に揺らめいていたのに対し、居合の要領で高速で放たれた──白炎は、宙に縫い付けられた少女たちを焦がすことなく、サメだけを燃やしてそこから解放していく。

 白色の火は絆の火。
 フレイにとって誰が味方か敵かを判別し、何を燃やすのかを選別することができる。

 少女たちは味方で、サメは敵……悪しきサメは炎に燃やされ、少女たちはその優しき炎に包まれて地上へゆっくりと落ちていく。

 フレイが少女たちの下へ向かう最中、男は舌打ちをして妖刀へ力を注いでいった。

「チッ、やっぱり滓しか入れてねぇサメじゃすぐに燃やされちまうか……なら、コイツでどうだ!」

 これまで以上に巨大さを誇るサメ──その大きさおよそ50m級。
 ゆらゆらと宙を泳ぐ巨大サメは、鋭い歯を打ち鳴らしてフレイの下へ突っ込んでいく。

「──無駄です」

 再び抜かれる剣と焔。
 そこから放たれるのは──先ほどとはまったく逆となる漆黒の炎。

 巨大サメに命中したそれは、一瞬にして巨大サメに悲鳴を上げさせ、塵も残さず完膚なきまでに燃やし尽くす。

 黒色の火は怒りの火。
 こちらはフレイの意思とは関係なく、その火に触れた相手を完全に燃焼させる。
 籠められた怒りを体現するように、楽には死なさず苦しみを持たせて殺していく。

 降り注ぐ火の粉すら、触れたものすべてを呪うように焼却する。
 例外はそれを振るうフレイと、白い火に包まれている少女たちのみ。

 男もまた、その火の粉を浴びているが──

「いいねぇいいねぇ、そういうのが見たかったんだよオレは!」

「…………」

「そうそう、その目だよその目! 純粋に覚醒したテメェは、そんじゃそこらの侵蝕体とは違ってしっかりと意思を持っている! だからこそ、オレも盛り上がるんだよ!」

「シンショク体?」

 訊いたことのない、だが違和感と危険を感じた言葉の響きにフレイは呟き尋ねる?
 男は反応を示したことを嬉しく思ったのだろうか、律儀にその説明を行う。

「テメェのそれは固有スキルだな?」

「……そうだよ」

「固有スキルには大きく分けて二つ存在し、テメェのは自力で目覚めたタイプだ」

「なら、もう一つは……」

 己の才覚や精神性を以って目覚めた力は、その持ち主に違和感なく本領を発揮する。
 故に異常を起こすことなく、所持者と共に在り続けるが……。

「テメェはまだ知らねぇか? 誰かに与えられるんだよ、そういう力をな。だけど、タダより安いモノなんてねぇ……その代償は貰った奴が責任を以って支払うんだよ」

「…………」

「パワーを貰えば、その力を振るいたくて周りに危害を加える。守る力を貰えば、守ろうとする思いが強すぎて独占欲が高まる……要するに、身に合わねぇ力がソイツ自身を侵して蝕んでいくんだよ」

 かつて時を操る力を手に入れた少女は、その反動から時間に狂う侵蝕現象を起こした。
 在り方は歪み、抱く信念すら真逆と言っていいほどに変わっていく。

「それがテメェの周りを蝕なきゃいいな。さてさて、時間稼ぎはもういいか? ずいぶんとまあ、濃密になったな……その炎」

「……バレましたか?」

「そりゃそうだ、見えないようにしていても見えるモノがある。テメェのそれは縁の火だからな、繋がりさえ視ればすぐに分かる」

 白い炎、その純度を高めた透明な炎。
 少女たちから繋がる回路を通じて、その灯火はより深い輝きを得ていく。

 ゆっくり、じっくりと高めていったその炎がフレイの全身を包んでいった。

「ちなみにオレは、テメェより強い。だが殺す気はねぇ、もっと楽しみてぇのにこんな所で挫折されるわけにはいかねぇからな」

「僕は……あなたの玩具オモチャじゃない」

「なら足掻け、もがけ、勝ち得ろ! この先誰がなんと言おうと、テメェはどっかの紛い物なんかじゃねぇ──『勇者』、オレを止めてそう証明してくれよ!!」

「勇者じゃないけど……できることをしていくだけです!」

 そして、彼らは正面から激突し──戦いの幕が閉じる。

「…………」

 その結末を知るのは──三人だけだ。


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