AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とPK妨害 その05



 祈念者たちプレイヤーと男との闘いを、始めはそれなりの安心感を持って見ていたフレイたち。
 しかし少しずつ、そしてはっきりと感じ始める違和感に……気づいてしまう。

「ねぇ、フレイ……あの人、なんでまだ一回も攻撃を受けていないの?」

「回避特化というわけでもないようです。時折刀で防御していますし、何より……あれは強いですよ」

「…………」

 近接職の攻撃を避けると、飛んでくる魔法と矢を刀で弾く。
 時には体術を駆使して強引に距離を取り、禍々しい斬撃を至る所へ放つ。

「どうしたどうした! まだまだオレの本気は、こんなもんじゃねぇんだぞ? ならさっさと殺して、次に行くか──[飛鮫]!」

 妖刀は妖しく輝き、刀身を光らせる。
 再度距離を取った男は、刀身を鞘に一度収めると──超高速で刀を引き抜いた。

「──“居合イアイ・侵”!」

 どす黒い光を帯びた軌跡を描く斬撃が、これまで以上に長い距離を飛んでいく。
 すぐに防御態勢を整える祈念者たちだが、その抵抗は紙切れのように引き裂かれる。

「あひゃひゃひゃひゃひゃ! 弱っ、テメェら本当に弱ぇな! その程度でオレの……邪魔をしたのか──“禍通風マガツカゼ・侵”!」

 彼らの下に風が吹き荒れる。
 その一つひとつが鋭い斬撃とあり、妖刀の力を受けて生みだされた悪意の塊。

 触れた祈念者たちを切り裂くと同時に、傷ついた皮膚から状態異常を与えていく。

「レベルドレイン……早く死なねぇと、どんどんレベルが下がっていくぜぇ!」

 妖刀[飛鮫]の特殊能力──ダメージを一定量与えたモノから経験値を吸い上げる。
 その力を行使することで、祈念者たちから少しずつ経験値を奪っていく。

 本来であれば持ち主の経験値を喰らわなければ発動できない他の能力を、周りを犠牲にしてノーコストで発動するための能力だ。

 経験値を奪われたモノは、当然レベルが低下する……下がったレベルは、同じ分の経験値を溜めなければ戻らない。

「もう、もう止めてくれ!」

 その卑劣な行為に心を痛め、フレイは男へ呼びかける。

 ふと動くことを止め、フレイの様子を窺う男……しかしその手は手首よりも先を動かすだけで、祈念者たちを屠っていく。

「「フレイ(君)!」」

「なんでこんなことをするんだ……みんな、みんな必死に戦っているんだ! なのに、どうしてそれに応えようとしない!」

「はっ、笑わせてくれるぜ! 世の中は弱肉強食だって言ってんだろう? オレは強くてコイツらは弱い、ならオレがコイツらをどう蹂躙しようが勝手だろうが!」

 フレイが叫ぼうと男は手を止めない。
 次々に傷ついていく仲間のステータスは、少しずつレベルの数値が減少していく。

「……クリム、リリメラ。力を貸して、僕だけじゃ絶対に止められない」

「うん、当然だよ!」
「微力ながら……お手伝いしますよ」

「へっ、ようやくやる気になったか……いいぜぇ、ならこのゴミは──処分するか」

「させない!」

 再び刀を妖しく光らせ、その刀身を祈念者たちに振るう──だがそれを、フレイがその手に握り締めた剣で受け止める。

「ははっ、面白い……面白ぇじゃねぇかよおいっ! いざ、尋常にってか!」

「うぐっ」

 腹を蹴り飛ばされるフレイ。
 そこを襲おうとする男だが、クリムとリリメラによる援護攻撃によって仕方なく後ろへ下がっていく。

「その程度か? なら、もう少しエッセンスでも加えてやるよ──“闇幕渡行モバイルカーテン”!」

 祈念者の中で男だけが扱う転移魔法。
 一時的に生みだす闇色のカーテンを媒介にして、目的の場所に移動する。

 ──そしてそこには、フレイが庇おうとした祈念者たちが。

「喰らい尽くせ──[飛鮫]!」

 妖刀を地面に突き刺すと同時に、巨大な鮫の口がトラバサミのように地面から生える。

 倒れる祈念者たちを一呑みにできるほど大きなそれは──鋭い歯を噛み合わせ、彼らをその中へ収めていく。

「そ、そんな……」

「キタキタキタァァアアァァ! この妖刀はなぁ、一定量の経験値を喰らえば進化するって代物なんだよぉ! さぁ、お目覚めだ──起きろ[飛鮫]!」

 その言葉に呼応し、禍々しく輝く妖刀。
 光に包まれたソレは、使い手と妖刀に僅かに生まれ始めた自我が望む形へ添って、その在り方を歪めていく。

「あれは……鮫?」

「キメラみたいですね……」

 知っている者が見れば、それはかつて自由民たちが力を合わせて討伐した『古代鮫テラロドン』の強化個体に似ていると思っただろう。

 しかし、所々に鋭い刃のような装飾が施されており、合成獣キメラのようにも見える。

 そもそもとして、[飛鮫]を打ち上げた鍛冶師は素材として『古代鮫テラロドン』を使用した。
 そして小さな思い付きから、さまざまなモノを合成して妖刀として完成させたのだ。

 使われたモノに宿る想念により、[飛鮫]はその在り方を変えていった。
 ただ他者を喰らうだけの鮫は、魂すらも喰らい尽くす妖刀へ。

 そして、より高みへ至るために──

「テメェらを直接喰らうために、こうして進化してくれたよ! その想いに報いるためにもなぁ……死んでくれよ!」

 ヘラヘラと笑い、そう告げる男。
 フレイたちは強く武器を握り締め、抵抗の意思を向けた。

「へっ、まあ抗ってくれねぇと実験できねぇからいいんだけどさ──[飛鮫]、アイツらのすべてを喰らい尽くせ!」

「クリム、リリメラ──行くよ!」

「うん!」
「はい!」

 そして、闘いは第二幕へと移行する。


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