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山田 武

偽善者とPK妨害 その04



 時間帯は夜、雲に覆われたその日はいっそう妖しさを演出する。

 フレイたちはすべてを終わらせ、フィールドへ再び戻ってきた。
 暗くなった辺りに嫌な予感を覚えつつ、光魔法で周囲を照らす。

『──ッ!』

 そして、その光景を見つけた。

「よぉ、やっと帰ってきやがったか。こっちはずいぶんと待たされたんだぜ」

「そ、それは……」

「あまりに暇なんでよぉ、創作意欲に駆られて作っちまった。それでどうだ、オレ様専用の玉座はよぉ?」

 人々の死体が折り重なってできた山。
 雑多に積み上げられているのではなく、ありえない方向に関節が曲げられ、死体のすべてを使い玉座を表現していた。

 吐き気を覚える祈念者もいたが、込み上げてくるソレを出すことはできない。
 だが、ノイズを纏う男が持つスキルの影響で視覚的な解除だけは受けてしまっている。

 ──生殺し、そう表現せざるを得ない。

「ひ、ひどい……どうしてそんなことを!」

「おいおい、オレはお前らを助けに来たヒーローじゃねぇんだよ。あくまでオレのため、いわば経験値稼ぎだよ」

「けい、けんち……?」

「やっぱり同族を殺すのが一番儲かるんだよなぁ。ドロップアイテムも豊富だし、こうして──有効的に使える」

 指を鳴らす音が響くと、玉座がゆっくりと動きだした。
 歪な挙動で、素体となった者たちが爛々と輝く瞳を祈念者たちに向ける。

「どうだ、祈念者のアンデッドだよ。あいにく魂は逃げちまうから、霊体のアンデッドは一体も居ねぇがな」

「どうして、どうしてそんなひどいことができるんだ!」

「ハハッ、哂わせてくれるぜコイツは! 襲われそうになったテメェが、コイツらを庇おうとするなんて、なあ!」

「止めろ!」

 死体蹴り。
 ネットゲームにおいて、動けない者を必要に攻撃する行為などに使われる単語だが、その場にいる者たちはその本当の意味をその目で味わうことになった。

 容赦なく落とされる足を受けても、祈念者たちの死体はただ黙って立ち尽くす。
 肉体に魂が宿っていない器──怒りを覚える感情などあるはずもなかった。

「あひゃひゃひゃひゃひゃ! なんだよなんだよ、わざわざこれを見せたいがために呼んでやったのに、そうカリカリすんなって」

「……なんだって?」

「テメェを殺そうとした、だからオレに殺された……何がおかしい? 獲物を狙っている最中に殺されるなんてこと、弱肉強食のこの世界じゃよくあることじゃねぇか!」

 狂ったように笑う男と、歯軋りをして内に湧き上がる怒りを押さえるフレイの対比が、この場の者たちに不思議な感覚を思わせる。

 彼らは知る由もないが、それは互いに異なる道へと導く者たちだからだ。

「君を」

「──『君を許さない』ってか? そんな王道の台詞セリフは鳥肌が立っちまうからやめてくれよ? そんなことよりも、せっかくなんだだから殺しやりあおうぜ? 俺の方は──準備万端なんだ」

「フレイ……」
「フレイ君……」

「うんうん、そっちのお前さんのハーレムは分かっているみてぇだな。そう、あっさり返すわけねぇだろ──“闇檻ダークケージ”」

 壁ではなく檻。
 より強固となって祈念者たちを閉じ込める闇色の監獄は、決して彼らを逃すまいと意気込む男の執念と妄念から生みだされる。

 転移不可能・状態異常耐性低下・永続的身力値吸収など……いくつか条件を満たす必要がある難易度の高い魔法だが、それらはフレイたちが帰還するまでの間に満たしていたため、すぐに構築・展開が行われた。

「終了条件はオレを殺すこと! なあおい、これでテメェはオレを殺したくなったんだろう? ほーらほーら、やってみろよー!」

「ね、ねぇフレイ……あの人って、絶対にプレイヤーだよね? なら、倒しちゃった方がみんなを解放できると思うんだけどー」

「け、けど……」

「フレイ君。あまり言いたくはないけど、君の優しさに付け込んでくる相手もいるのよ。分かっていたことじゃない、優しさだけじゃ救えない人もいる」

 ノイズ越しでも分かる、ニヤついた笑みを浮かべる男の嘲りっぷり。

 課せられた呪いいふけんえんの力もあって、フレイとフレイのパーティーメンバー以外の祈念者全員が、とてつもない怒りと嫌悪を感じていた。

「──フレイが行かずとも、そろそろ俺たちが限界だ。お前の手は貸さなくて良い、だからそこで見ていろ」

「で、ですが!」

「いいんだよ。そうやってお前に降りかかる悪意全部に、真剣に応える必要なんて最初から無いんだ。──おい、フレイと戦いたいならまず俺たちから倒してけよ」

 我慢の限界だった祈念者たち。
 閉じ込められ、完全にスルーされていた怒りが呪いによって増幅されているため、普段は冷静沈着な性格な者さえ、呪い殺せるほどの怒りを覚えていた。

「……なあ、テメェら如きをオレがわざわざ相手にしてやると思ってんのか?」

『──ッ!』

「くっははははっ! こりゃあ傑作だ、本気で思ってたのかよ! まあいいさ、ソイツに本気で戦ってもらうためにも、痛めつければる気になるよな?」

 そういって、男は右手を真横に伸ばす。
 何もないはずの空間に、突如罅が入り──そこからナニカが飛びだしてくる。

「『妖刀[飛鮫]』! テメェらを喰らってコイツの糧にしてやるよぉ!」

 そして、戦いの幕が開けた。


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