AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とPK妨害 その01



 グースン高山


 そう呼ばれる山は、迷いの森を抜けた平野の北にあるフィールドだ。
 始まりの町の東から向かう場所ということで、まあそれなりのレベル……だいたい40ぐらいあればパーティーで探索できる。

 今回彼が報告してきたのは、俺が少し前から目を付けていた祈念者プレイヤーたちのピンチだ。

 どうやら、求めている候補者が率いるパーティを死に戻りさせたいらしい。


「──レイドイベントか……こういう感じで行われているんだな」


 特殊な条件を満たした祈念者を連れて必要な行動を取ることで、レイドボスが現れる特殊フィールドで戦闘が行われるんだとか。

 クラーレといっしょに居ても、一度も起きなかったイベントかぁ……さすが候補者だ。


「えっと……ここだったか?」


 フィールドの中でもかなり端に近い場所に空から舞い降りると、準備を整える。
 縛りもあるが、何より候補者たちに俺という存在がはっきり分かるのも困ってしまう。

 故にまずは安全地帯で変装し、それから少しずつ作業を始める。

 まあ、本気になって予めPKたちを殲滅すれば手っ取り早いんだが……それは偽善者として問題ありの選択だ。


「まあ、こんな感じかな? あとはそのときだけ口調を変えればいいか」


 かつてティンスたちと会ったときに行っていた、ノイズ交じりの偽装。

 アイリスに頼んで協力してもらっていた光学迷彩技術も入れた、特殊な視覚妨害発生ジャミング装置を起動する──そして、体を包み込むようにノイズが発生した。


「あー、ああー。うん、声もしっかり変わっているな。あの頃は光魔法とか変身魔法で誤魔化すことしかできなかったからなー」


 なんて、感慨深いものを思う。
 不思議と似たようなことをしているから、思いだすよな。
 あの頃作ろうとしたギルドも、今じゃさっぱり意欲が薄れているし。

 ティンスとオブリ、そしていちおう眷属になっているヤツらが仮で加入しているけど、どこにギルドハウスがあるかすら、俺はまったく知らないわけだし。


「そろそろかな──来たか」

「……はっ……」

「正式な許可は得たか?」

「……こちらに……」


 始まりの町なら、ボスに頼めばすぐに闇ギルドへ伝手を回すことも簡単だが……別の町となるとすぐにはできない。

 なのでコイツを使い、そのやり取りを済ませている──そして、許可は得た。


「まあ、完全な私怨だからな。環境に影響が及ぶようなことを、『誠意』も見せたのに見逃すわけがないよな」


 お土産を渡していたので、あっさりとオッケーしてくれたようだ。
 ボスから何かあったら使うようにと言われていたが……どこまで権威があるんだろう?


「……さすがです……」

「まあ、お菓子を貢ぐだけだ。ただ、最低でもA+品質にしないと機嫌を損ねるだけだからな。無理に手出しをしない方がいいぞ」

「……分かっています……」


 顔合わせはしていないが、始まりの町を活動拠点としている者は全員把握されているだろうから、あっちは知っているに違いない。

 時々見回りとかもしているし、そもそも知覚できる能力があるし。


「それじゃあ、改めて確認をしよう。念のため、もう一度情報を言ってくれ」

「……これより三十分後、PKギルド連合によってプレイヤーたちのPK行為が行われます。その際、保護対象としていた者がレイドイベントへ挑むためにレイドパーティーと共にここへ現れます……」

「レイドイベントそのものに関する情報はあるのか?」

「……いえ、彼らが初の挑戦者となるイベントのようでして。唯一分かっていることが、特殊フィールドへ転送されてしまえば、後続は参戦できないということです……」


 まあ、これは次元魔法で強引に突っ込めば可能だろうな。
 俺によって腐らされているが、それでも神代から伝えられる最強の魔法の一つだ。

 実はその気になれば隕石や天災だって用意できる、最強の一つに挙げられるほどの魔法なんだぞ?

 ただ偽善者的に、そう出番がないだけで優秀な魔法なんだ。


「それで、その作戦はどの辺りで実行される予定なんだ?」

「……特殊フィールドへの転送は、フィールドの中央に在る石碑から行われます。その周辺では戦闘行為が禁止されているので、その前で襲撃を行うつもりです……」

「それって、突破されたら終わりってオチにならないか?」

「……空間魔法を使い、障壁を展開するとのことです。一回目のレイドイベントで、その便利さを知ったと自慢していました……」


 俺のせいってことか……。
 けどまあ、掲示板とかで空間魔法の話はそれなりにされていると思うし、一概にそうとも言い切れないのもまた事実。


「自分たちを倒さないと、レイドボスには挑めないってか? そうできたら御の字で、そうでなくてもレイドボスに使う消費アイテムとかクールタイムの長いスキルの妨害ができる……みたいなセコいヤツだな」

「……間もなく時間となります。先に向かい合流し、逃げないように誘導を行っておきます。御武運を……」


 そういって、影に潜ってどこかへ消える。
 残るのは俺だけ、辺りは静寂となった。

 ──さて、俺も行かないとな。



「AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く