AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と最上位職業



 リーン 王城


 最上級職業とは要するに、固有職業として認められる域に達した一種の概念だ。
 たとえば【剣王】であればあらゆる剣術スキルを習得でき、【炎王】であればあらゆる火系統スキルを習得できる。

 世間一般に存在する概念を最大まで高め、一種の信仰すらも抱かせる──それが最上級職業なのだ。
 例外は導士に導かれて生まれた職業や、神が名に付く職業だが……今は省いておく。


「さて、状況を説明してほしい。俺が情報を持ち帰ってから、まだ一日も経っていないはずなんだが──防衛将よ」

「ハッ!」


 前に出てくる鬼人の男性に、偉そうで尊大な演技を振るって尋ねる。

 いかに迷宮が無数にある俺の複合世界とは言えども、さすがに聞いてすぐそういったところまで達せられるのはおかしいだろう。


「ご報告します! メルス様が持ち帰られた最上級職業に関する情報ですが、現在では遺失となっているものでした」

「ほぉ……続けろ」

「最上級職業にはいくつか転職に条件があるものがございますが、それらはそういった情報がいっさい残っておりません。メルス様の向かわれた『アニワス戦場跡』は、我々では調査できませんでしたので」


 そりゃそうだろう。
 瘴気が濃すぎて、さすがに国民といえど一時間もすれば体調がおかしくなる。

 そんな場所に向かわせるほど、俺は愚かではない……と思いたい。


「条件が分かっていなかった。だからその条件で転職できたと?」

「それも可能性の一つでございます。ですが私共の見解では、その情報を持ち帰られたのがメルス様だからこそ、といった解が挙げられております」

「…………」

「王であり導士であり、そして神であらせられるメルス様。その恩恵が我々に与えられたに違いありません」


 うーん、どうなんだろうか?
 導士の数はだいぶ増えてきた……カナから模倣したものもあるが、やはり略奪した運命が多いせいかその分自前の導士の数も多い。

 だが、最上級職業は導士から導かれればズレるはずなのだ。
 その導士が持つ名──要するに『◯導士』の『◯』が付く職業に変質してしまう。

 シュリュはその類いで、『覇導士』が冠する『覇』を持つ<武芸覇者>に就いている。
 さすがにそっくりそのまま、同じ名であるならば違うと思う。

 ──さてそんな中、アン曰く二、三十ほどの最上級職に至ったうちの国民たち。

 すぐに職業名をリストアップし、記憶した情報を照らし合わせようとしたのだが……三つだけ国民だけでは分からなかった職業が見つかった。


「まだ聞いていなかったな。それぞれ至った職業ジョブの名はいったいなんだ?」

「【死使王】、【殺戮王】、【蛮勇者】の三つでございます」

「王系職業と勇者職業か……たしかに記憶の中に留めた職業の名だ。そして、その職業に関する話もいくつか聞いている」


 一つ目の【死使王】は暗殺系の最上位派生職業だ、普通の暗殺者とは少し殺し方が異なるため廃れてしまったという話だ。

 二つ目の【殺戮王】は……うん、俺も転職リストに入れていた職業だな。
 ぶっ殺し続ける以外にも、何かしらちゃんとした条件があったのだろう。

 三つ目の【蛮勇者】は(戦士)と(闘士)の複合職である(戦者)から派生進化する職業だったか?
 転職方法は勇者っぽい行動を、野蛮に振る舞いながら行うだけだった気がする。


 どれも俺からすれば簡単ではあるが、それは無数のスキルを使えばという話だ。
 いくら国民と言えど、やはりそう簡単に就けるものでもないだろう。


「念のため確認しておくが、その者たちの中に侵蝕現象が起きている者はいるか?」

「いえ、現段階では確証は持てませんが……おそらく問題ないかと」

「ふむ、では理由を述べよ」

「それはもちろん──偉大なるメルス様の庇護下に在るからです」


 うん、さっきと同じだな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 夢現空間 居間


 結局のところ、確証が持てる情報は出ずに解散となった。
 詳しい調査はまた別の機会に行い、そのさいは解析班がやってくれるそうだ。

 できるものはできる者に任せる、それが上手く物事をやってくためのベストな方法だと俺は考えている。


「でも実際、なんでだったんだろうな?」

「朕は職業を選んだことがないぞ」

「そうなのか?」

「うむ。<武芸覇者>は『覇導士』として活動している内に自然と、【劉帝】は帝国樹立と共に与えられた職業モノなのでな」


 今の俺は、ただ同じ導士仲間のシュリュとお茶を飲み合うだけの暇人だ。
 俺自身が最上位職業に就けるわけでもないし、焦る必要が無いからな。


「そういえば其方は、たしか他者の職業を変質させる魔法を持っていたな」

「ああ、【怠惰】と【希望】が持つ魔法だ。それぞれ闇系統と光系統の導士っぽく、相手の職業を勝手に改変する」

「ずいぶんな魔法であるな。して、それをあの記憶以来使ったことは?」

「無いな。メリットとデメリットの天秤に掛けたら、普通に倒したりする方がいいんだ。それに、偽善者っぽい活動でもないしな」


 強制覚醒イベントみたいな感じで、少し憧れはするが……あのときはシャインがフェニに手を出そうとしていたということで、いろいろとキレていたからこそ使ったのだ。

 普段は使わないようにしている、危険すぎる魔法──それがあれらの魔法である。
 偽善として必要なのであれば、当然使用するだろう……そうならないことを、祈るが。



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