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山田 武

偽善者なしの赫炎の塔 その18



 アリィは黒竜と相対していた。
 闇と海の力を司る黒竜は、まず最初に己を守護する空間を生みだした。
 そして、本人(竜)は中から影の人形を造り上げるとアリィに向けて解き放つ。

「うーん、厄介だなー」
「そうね、見たところあくまで触媒はあそこの陰だけ──あの光を出してみたら?」

「りょうかーい」

 異口同音ならぬ同口異音を発するアリィ。
 その手には人物が描かれた五枚の札──それを前に突きだして告げる。

「──“ストレートフラッシュ”!」

 正面に巨大な光が放たれる。
 光源は彼女の手の中、正確には揃ったカードたちが自身の役割を果たそうとしていた。

「これで……やったかな?」
「残念、どうやらまだみたいよ。というか、まだ光を出しただけだからね」

 光により、影の人形たちが消されたことをすぐに理解する黒竜。
 ならばと、次に生みだされた人形たちはより黒い影を纏っていた。

「というか、なんで人型?」
「ご丁寧に射光板っぽいものが付いているようね。アリィ、次は兵士たちを」

「おっけー──“形無き兵軍トランプソルジャー”!」

 彼女は手に持っていたトランプ、そしてそれを仕舞っていたトランプを握り締めるとそのまま空にバッと解き放つ。

 一枚一枚が空気に揺られていると、やがて一枚が地面に触れ──人型となる。
 少しずつ増えていくその人型、黒竜が生みだした人形の数をすぐに超え──その数は四十を超えていた。

「レッツゴー、ハートの騎士!」
「残りは待機、次の指示を待ちなさい」

 ハートが刺繍されたマントを羽織る男が、自身の配下を率いて黒竜へ突撃する。
 当然、黒竜の生みだした影たちは彼らの行く手を阻み戦いが始まっていく。

「次はどうすればいいかな?」
「そうねぇ、トランプだけで戦うのもそろそろ味気ないんじゃない?」
「ほうほう、それは面白そうだね」

 言われるがままに、彼女はトランプを入れるケースとは異なるケース──より枚数の多い札が入った箱を取りだす。

「それじゃあアリィが占ってあげる……アナタの未来がどんなものなのか」

  ◆   □   ◆   □   ◆

 もっともこの場で苦戦しているのが、唯一二人で戦っているリュナとシュカだ。
 相対するのは白竜──白虎と異なり金属を操らない代わりに、凄まじい敏捷力を手に入れ彼女たちを翻弄している。

「あぐっ」

「リュナ!」

「だい、じょうぶ……」

「くっ、ここまでとは……」

 白竜は獲物を甚振るよ獣のように、彼女たちを弄んでいた。
 それを行うだけの力の差が存在し、彼女たちに抵抗のしようは無かった。

「だが、それでも時間稼ぎはせねば……リュナ、まだ戦えいけるな?」

「うん、頑張る」

「ありがとう……頼む」

 矢を番えると、大きく呼吸して集中力を高めていく。
 リュナは彼女のサポートをするため、白竜の注意を逸らすべく闘いを始める。

「“紅焔”」

 体に宿る膨大な熱エネルギー。
 それをすべて己が両手に籠めると、手から伸びるイメージを行い鉤爪のような形状で固定する。

「“獣化”」

 彼女の肉体はその在り方を歪める。
 二足歩行は四足歩行となり、体からは炎でできた獣毛が生えてくる。

 グルルルル……と唸りを上げ、牙を鳴らし爪を地に突き立てていく。
 その姿はまさに──獅子であった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 それぞれの場所で、激しい戦いが繰り広げられている。
 北、西、南、東、そして中央。
 四獣と四竜はどちらも、自身の守護する領域において強大な力を得られる。

 そのため、本来であれば彼らを守護する領域から引き剥がすことが重要であった。
 しかしそれは、そうしなければ勝つことのできない者たちの理屈であり……圧倒的強者がやらなくてはならない作業タスクではない。

『ば、バカな……ありえない!』

「ありえない、ということはつまり不可能と言いたいのですね?」

『そうだ! 四竜すべてを生かしたまま、制圧するなど不可能だ!』

「ですが……それこそが現実です」

 彼女たちはやってのけた。
 誰にもできないのであれば、自分たちが行い前例となればよいと。
 その場に居るほとんどの者が知る、とある偽善者のように。

『ふざけるなふざけるなふざけるな! こんなことがあって堪るか! 儂が、この黄竜がこのような屈辱を……』

「ずいぶんと態度が変わりましたね。それがあなたの本性ですか? ……いえ、すでに終わったことでしたね」

『……なん、だと』

「鍵を渡すのであれば、貴方たちを殺さずに解放しましょう。まだ続けるというのであれば、あなたの体を隅々まで調べて鍵を手に入れましょう。もちろん、私としてはすぐに手に入る方を選びたいのですが」

 ニコリ、と微笑むリュシル。
 実際にそういったことをするつもりは、さらさらなかった。
 しかし何も言わなければ、徹底抗戦を叫び続けることを理解していたのだ。

「この世に絶対はありません。あなたが死でしか鍵を手に入れられず、それが嫌だというのであれば協力しましょう。それとも、まだこちらを殺して解決する気ですか?」

『ぐぬぬぬ……』

「いいでしょう。あなたを殺せば出るというのであれば、条件を満たすことさえできれば解決できるということです。──死んだと思えるほどの、体験が必要ですね」

『よ、よせ……やめ──ぎゃぁああああ!』

 黄竜の間には、しばらく悲鳴が響き渡る。
 そして、彼女たちが部屋を出る時──そこには光輝く鍵が握られていた。


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