AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの赫炎の塔 その17



 リュシルが保有する傀児ゴーレムは、決して人型だけではない。
 そこに頼らず、あくまで目的を達成するために最適な形を取らせることで遺跡を攻略していくことが多かったからだ。

「──さぁ、行きなさい!」

 リュシルが解き放ったのは、そんな保有する傀児の中でも大型のモノたち。
 それらは黄竜に近づくと、その身を決して離れまいとしがみ付いていく。

『ええい、離さんか!』

 黄竜は必死に振り解こうとするが、膂力だけではそれは叶わない。
 彼らは製作者であるリュシルの意向によって、特殊な回路を体に刻まれている。

 個体ごとに異なるのだが──力を奪うものや抜くもの、絡みつくものや同化していくものなど、そのすべてが黄竜に悪影響を及ぼすものたちだ。

『くっ、邪魔だ!』

「邪魔というのであれば、大人しく捕まっていてください。最低限の拘束をすれば、解放してさしあげましょう」

『貴様……儂を誰だと──』

「黄竜さんでしょう? ですが、それがどうかしましたか? 私は竜に信仰心を抱いておりませんので、黄竜さんを特別視する気はありませんよ。ですので、そのままジッとしていてください」

 何体もの傀児が黄竜にくっつき、行動を束縛していく。
 黄竜もこのままではいけないと、自身の能力を解放しようとするのだが──五分の一しか力が無い以上、それは叶わなかった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 黄竜を除く四色の竜たちに、確固とした自我は無い。
 そのため会話というコミュニケーションは行われず、代わりに闘争によって互いの想いは伝わっていく。

「なんだか残念だな……セイリュンとは仲良くなれたのに」

 鍵を入手後、ユラルは青竜と友と呼べる関係を結んでいた。
 他の四獣が鍵を渡すまでに時間を掛けたこともあり、すぐに終わらせた彼女が退屈を潰したうえでやりたいことがあったからだ。

「セイリュンだったらそういう使い方、しないと思うな」

『…………』

「仕方ない、私も頑張らないと」

 蒼竜は生みだした木々を鋭く尖らせ、ユラルに向けて飛ばしてくる。
 しかし彼女がサッと手を振るだけで、巨大な樹が彼女を守るように展開していく。

 何度やっても同じことの繰り返し、良くも悪くも相性が合う二人だった。

「生えて──『針妖樹』」

 ユラルがそう告げると、今度は鋭い針のような葉を生やした樹が現れる。
 何をするのかと様子を窺う蒼竜だったが、次の瞬間には驚くことになった。

 パシュン

 何かが破裂する音がなったかと思えば、自身の鱗を貫くように何かが突き刺さった気がしてくる。
 ゆっくりと胸の辺りを確認すると──そこには、巨大な針が突き刺さっていた。

『──』

「よかった、ちゃんと刺さるんだ。なら、これ以上キツイことをセイリュンにしなくてもいいみたい──“木々活性アクティブウッド”」

 彼女の木魔法に呼応し、辺りは森のような環境へ変化していく。
 樹聖霊である彼女にとって、それくらいのことは容易くもあった。

「リュシルンは生け捕りって言ってたし、私もセイリュンを殺したくはないもんね。だから今は、そこで待っていてね」

 最後の抵抗に、辺りの木々を吹き飛ばそうと水の息吹ウォーターブレスを吐きだす蒼竜。
 しかし、水分は一瞬で木々の糧となって奪い去られ──残ったのは、より鋭い針を手に入れた一本の樹であった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「これって、もしかして参加者の人数に合わせて能力や行動が変化しているのかな?」

 アイリスは相対する赤竜と闘いながら、ふとそんなこと呟く。
 自身が行ってきたこと、そして知識が告げる経験がある可能性を提示していた。

「やけに範囲攻撃が少ないし、分断している間は個別で攻撃するのかもしれないね。それに、リュシルの方を見る限り力はセーブされているみたいだし……予想は当たっているみたいだ」

 吐き出される炎はアイリス周辺にのみ、広がっていく。
 決して広すぎる範囲──他者に影響が及ぶ所までは届かずにいる。 

「もう、しょうがないな……『来て』」

 アイリスの身を包むようにボディスーツが出現し、その上から機械チックな装備が装着されていく。
 彼女の声に呼応して現れたのは、彼女のスキルを最大限に生かす兵装。

「ワタシは解析とかできないし、さっさと始めようか」

 アイリスのスキルは電脳操作に特化したものであり、機械を操ることを極めた力。
 三つの世界の技術が使われた、その特殊な機械仕掛けの装備は彼女にしか扱えない。

「──『模倣勇者イミテートブレイバー』!」

 彼女の手元に、白く輝く柄が出現する。
 仕込まれたボタンに触れると、そこから青く輝く剣身が伸びていく。
 そこから溢れ出すのは、聖なる気──聖人のみに許されたエネルギーだ。

「模倣雷魔法──『激しき雷ライテ¨イン』!」

 剣の先から雷が迸る。
 肉体ではなく、機械によって生成された魔力が彼女のイメージによって変化していく。
 万能にして無形の魔力、それは望まれるがままに現実を歪めていく力。

 赤竜は雷を浴びるものの、己の魔力による無意識的な拒絶が行われ、その大半が無効化される。

「うーん、時代はやっぱりギガだね……」

 次に唱えるべき魔法──呪文はすでに決めてある。
 創造したい想像を強く思い、現実を書き換えていくのだった。


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