AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と終焉徘徊

なろうにおける最新話との差が激しくなったので、月末に大量投稿を行います
二時間に一本……多いですね(01/12)
===============================


 終焉の島 中央


 懐かしの場所に帰ってきた。
 数ヶ月前まで、俺はここを拠点に活動していたんだ……まあ、実際には別空間への接続点として使っていただけだが。


「それで、どうしてここなんだ?」

「──主様ぬしさまと言えど、この島すべてを巡ったわけではなかろう? せっかくじゃし、儂が案内してみせようと思ってのう」

「ふーん……まあ、いいけど」


 そんな場所に、俺はソウと居た。
 本来の姿である古龍の鱗の色同様、銀色の髪がわずかな光に反射して輝いている。


「これが主様との逢瀬……なんとも胸躍る感覚じゃろうか……」

「そうか、そりゃあ何よりだ。今日はいちいち罵らないから、その気でいろよ」

「うむ。時には不意打ちと言うのも、また乙なものじゃからな」

「…………」


 全然分かってもらえていない気がするが、今は言及しないでおこう。
 今回はできるだけソウの期待に応え、理解することを目的としているのだから。


  □   ◆   □   ◆   □

 メルスとソウはまず、中央のエリアを周囲から守護する森の中を散策した。
 そこは聖霊が居た影響で、終焉とは似ても似つかない精霊溢れる場所となっている。

「ここに、ユラルが居たんだ」

「ふむ……たしか、聖霊でありながら神樹を操る力を持っておったから……だったか?」

「正解。けど、神樹という存在がどこにあるか分からないんだよな」

「神樹とはその名の通り神の樹じゃ。ならばどこにあるのか、また何を意味するのかよく分かるじゃろう?」


 続いて東の黒い草原──『最果ての草原』へ向かった。
 森という結界が失われ、魔物たちが彼らを襲う……はずが、ソウの禍々しい威圧に怯えていっさい出現しない。

「奥にはリアの国の残骸が、特殊フィールドにはミシェルの封印されていた洞窟がある」

「マレフィセント、という魔女であり龍である者居ったんじゃったか?」

「……救えなかったな。クソ女神の使いだったし、そもそもアイツを救おうとしたらリアは救えなかったし……ギーがどうなっていたか分からない」

「ギーがか?」

 尋ねるソウ。
 先の解答は大きな出来事として把握していたが、ギー云々の事情に関しては当時のメルスが『蝕化』していたため、詳しく聞ける者はいなかった。

「……ギーが有れば、とか言ってたな」

「たしかに、ギーの力は魅力的じゃ。しかしソヤツは、使う前から──つまり神器であるという点から欲したのじゃろう?」

「そうだな」

「何か、あったのかもしれんのう」


 次に向かったのは不思議な川が在る、真っ黒な平野──『エレト平野』だ。
 空を舞う魔物たちも現れるが、眼下に居る圧倒的強者の前にそれは許されない……気絶するように地へ墜ちていった。

「この先はクエラム、特殊フィールドにはアリィが封印されていた。ただ、川を使わないと特殊フィールドには行けなくてな……しかも水には吸収や封印が付与されてたよ」

「儂ならば、吸収されようと古龍の性質だけで突破できるぞ? 加えて、封印なんぞいっさい通用せん」

「……いや、マジで凄いなお前」

「何せ、神の束縛をも拒絶したからのう」


 次は霧が立ち込める黒葉の森──『彷徨の森』を訪れた。
 二人は霧に惑わされることなく、真っ直ぐに歩を進めている。

「ここではネロとチャルだったな。奥に行けばアイツの根城とアンデッドの住処がある。特殊フィールドは……腹が立つ遺跡だな」

「腹が立つ、どういうことなんじゃ?」

「入り口に問いがあって、それをクリアしなきゃ入れないんだ……まあ、面倒だったし穴掘りでクリアしたけどさ」

「それはそれで……どうなんじゃろうか」


 その次は吹雪が吹き荒れる凍土の高山──『コネット山脈』へ向かう二人。
 ほぼすべての魔物が彼らの動向に警戒する中……一匹の魔物だけは臆することなくただ様子を窺っていた。

「ここはリュシルとマシュ、特殊フィールドでシュリュだ。あと、カナタもだな。アイツの場合は特別なエリアだった」

「……のう、主様。アヤツは……」

「あれは白金山羊鹿プラチナコーン『バクラ・ヘルト』だ」

「ふむ、あれが……」

 名の通り、神々しい白金色の角を持った山羊と羊と鹿の合成獣キメラである。
 ちなみに山羊と羊はウシ科の、鹿はシカ科の動物なので異なる存在とも言えるだろう。

「主様、倒してみるかのう?」

「……いや、アッチから仕掛けてこない限りは何もしない。俺が弱かった頃、見逃してくれた礼も兼ねてな」

「そうか……せっかく儂の偉大さを知らしめようと思ったんじゃが」

「もともとないから気にするな。それより、次に行くぞ」

 軽くディスったせいか、少々悶えはじめたソウの肉体に『グレイプニル』を使い──メルスはそのまま引きずっていく。


 中央地点に造ったトンネルを通り、地下世界へと移動する二人。
 眷属の一部が自身の居たエリアを夢現空間に運ぶことがあったが、アイリスとフィレルはそのままであることを望んだため、場所はそのままとなっていた。

「ここがフィレルの封印されていた場所だ。アイリスは魂を電脳空間に保存して、逃げ延びたらしいな」

「浮島か……主様、儂ら古龍の住処も空にあるのじゃぞ」

「そうなのか? ……いや、たしかそんな本があった気がするな」

「龍……いや、竜の系譜に並ぶ者のみが訪れることができる場所。そこが古の龍たちの住処、辰たちも居るぞ」

 通常では龍や辰、竜の血を引く者や神の祝福を持つ者しか訪れることができない地。
 ソウの生まれ故郷──そこは、もう一つのドラゴンたちの楽園であった。


 そして、彼らは最後の地を訪れる。
 鉛色の空を、膨大な雨の海を、襲いかかる魔物たちを抜けていったその先──眩しい太陽がやって来た者を祝福する、雲の大地。

 そこは──ソウのかつての住処であった。

  ◆   □   ◆   □   ◆


 一日ぶりに太陽を拝んだ。
 ずっとソウの隣に居たのでそれなりに目は光に慣れていたが、やはり本物の太陽は少々眼に染みる。


「もう夕日か……だいぶ巡ってたんだな」

「愉しい時間はすぐに過ぎ去る。ここに来るまでの時間、またここに居た時間よりも主様たちと共に居た時間の方が、濃厚で濃密な記憶で飾られておるのう」

「おいおい、今日の一日もちゃんとその時間に含まれているんだろうな?」

「無論じゃよ。主様との逢瀬じゃ、存分に味あわせていただいた」


 そういって、ニコリと微笑むソウ。
 なんだか負けた気分になるのは、俺がいつもコイツをドM銀龍としか思っていないからだろうか。


「そ、そうか……そういえばソウは、ここに来ることってあるのか?」

「時々そこの穴に糸を垂らし、釣りをしているぐらいかのう? 寝床であれば主様が用意してくれた、暇潰しにしかならぬよここは」

「釣りか……ちょっとやっていくか」


 夢現空間に釣り堀は存在しない。
 しいて言うなら、水族館の魚を強引に釣り上げればそれに該当するが……海や魚、釣りの神から祝福は授かっていないのだ。


「釣り竿はどうすればいい?」

「いつもは鱗を触媒にしているんじゃが……いいものはないじゃろうか?」

「任せておけ」


 先ほどソウが指定した場所に椅子を二つ用意し、共に座る。
 また、暇潰しに作っていた釣り竿を二本取りだして一本をソウに渡す。


「釣りを始めるか」

「うむ」


 餌は同じく竜の肉、互いに釣り竿を雲の海に垂らしてジッと待つ。
 その間に、適当な会話を行う。


「なあ、ソウ。さっき言ってた故郷に戻りたいって気持ちはあるのか?」

「いいや、無いのう。もともと追いだされた身、帰ってすることなど特に無い」

「……追いだされた?」

「あの頃は若かったのう……主様の国の言葉で言えば──『尖ったナイフ』のような古龍じゃった。故に、方法はともかく戦いに明け暮れておった」


 釣り竿はいっさい揺れない。
 だから、まだ話を続けられる。


「なら、俺が案内してくれって言ったら……案内してくれるか?」

「構わぬぞ。未だに父と母が生きているのであれば、紹介してもよいか?」

「そりゃあいいけど……どういう風に説明する気なんだ?」

「無論──儂の番じゃと」


 釣り竿が激しく揺れる。
 だが、それは水中からの干渉では無い、俺が思いっきりソウの頭を叩いたからだ。


「痛ッ! 主様、さすがに防御無視での一撃は無しだと思うんじゃが」

「……俺は番じゃない。番ってのは、一対一の関係でしかないだろ。ソウ、お前は本当にそう思っているのか?」

「……失念じゃったな。すまぬ、主様。今のは儂が間違っておった」


 釣り竿がグイッと引き寄せられる。
 勢いのままに引っ張ると、そこには2m程の竜が喰い付いていた。
 釣り上げた者──ソウはそれを一撃で地に伏せさせると、再び話に戻る。


「行ける者全員で向かい、挨拶しよう。儂の家族、今と昔の者たちを引き合わせたい」

「ああ、できればやろうな」

「うむ……約束じゃ」


 夕日は沈みゆく。
 ただ、ソウが纏う光は消えることなくこの場に光をもたらす。

 ──『白銀夜龍』、白夜を司る銀龍。

 その名に偽りなく、決して終わることのない輝きを放っていた。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品