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山田 武

偽善者と超速塔登り



 第四世界 天獄の塔


 天をも貫く巨大な塔。
 かつて特殊フィールドと直接入口が繋がっていたため見ることのなかったそれは、人々に圧巻の意を覚えさせる。


「俺もこっちに運んでから驚いたが……景観的な意味で」


 仕様を特殊フィールドと同じようにすることで、異層をズラして配置できた。
 特殊フィールドのことは、『終焉の大陸』以降研究を重ねていたからな。


「さて、入場っと」


 入口にある巨大な門。
 その左右に門番が居るが、こちらもアイリスの迷宮同様カナタの設定によって、俺へ攻撃の意志を向けることはない。


『お帰りなさいませ、ご主人様』

「……いや、お前らの主はカナタとコアさんだろ?」

『そのお二人より、そう呼ぶように厳命されております』

「……まあ、いいや。それより、いつもと仕様が違うのはなんでだ?」


 本来であれば、特殊なエレベーターによって一気にカナタたちの居る百階層まで行けるはずだった。
 しかしそれができず、アイツらとの念話も不自然に切れていたため、入り口と同じサイズの門番に確認を取っている。


『──連絡が付きました。メッセージを受け取りましたが……再生しますか?』

「ああ、頼む」

『では──《そういえば、メルス。お前って俺の塔を真面目に登ってなかったよな? もののついでだし、今日ぐらい真面目に登ってみたらどうなんだ? もちろん、ドロップ品も宝箱も一つもねぇけどな!》』

「…………」


 メッセージはまだあるようなので、とりあえず冷静に訊き続ける。
 ……なお、普段着で来ていたのだが、このタイミングで戦闘用の装備に切り替わったことは話にいっさい関係ない。


『続いてコア様からです──《バカマスターが申し訳ありません。ですが、ワタシにも少し考えがありまして……お願いします》──以上が記録されたメッセージとなります』

「……コアさんのお蔭でちょっと落ち着いたな。右門番、今日の挑戦者は?」

『主様より貸し切りの命を受けておりましたので、ゼロでございます。希望者が六人居りましたが、我々の試験で落ちました』

「……あとで詫びの品を渡そうか。ありがとう、開門してくれ」


 装備を整え終わり、さっそく攻略を始めようと思ったのだが……扉は開かず、門番たちは武器を構える。


『申し訳ありません』

「ここからスタートってことか……試練の内容は?」

『最大級──我々二人を同時に相手取っての完全勝利となります』

「ハァ……ついでだ。鍛えてやるから、本気でかかってこい」


 シュリュとの一日で、少々戦闘に対する意欲も癒えてきた。
 いろいろと試したいこともある……殺す気はないが、愚かな主に仕えた罪を少々味わってもらうことにしよう。


『『……お手柔らかに』』

「まあ、考えといてやるよ」


  □   ◆   □   ◆   □ 

 面倒なのでダイジェストでカットしよう。
 前に説明した通り、この塔は十層ごとにその環境を変える。
 フィールドの設定は簡単だろう、ボタン一つで設定できるんだし……。

 そんなこんなで十層まで、つまり塔の周りに合わせた階層はすぐにクリアした。
 続いて十一層からに十層までの洞窟階層、こちらも走るだけでクリアだ。

 ……というか、こんな振り返りをしてもすべて同じだ──『走って突破した』、これしか無いのだから。

 俺だって別に、迷宮の損害になるようなことを好んでやりたいわけじゃない。
 ただ、少しだけダメージを負ってくれればいいわけで──だから走った風圧で吹き飛ばし、その間接ダメージを味わってもらった。

  □   ◆   □   ◆   □

 もちろん、九十層以降は真面目にやらなければこちらが殺られるので戦っている。
 スキルも含めて全力全開ならば目を瞑っていても勝てるが、そうではないので気を引き締めなければならない。


「ただ、ドロップしないからな……」


 現れた『幻影道化師ファントムトリック悪戯神ロキ』の幻術と手捌きを無視し、範囲攻撃で一気に潰して次の階層への道を切り開く。


「何より、微妙に強いから手間がかかる」


 紅の狼──『戦狼ベルムウルフ・《・軍神マルス』を地面から無数に剣を生やして突き刺す。


「やれやれ、どうせ聴いているんだろう?」


 一つ目の巨人──『単眼巨人キュクロプススミス鍛冶神ヴァルカン』が生みだす武具たちを、すべて打ち直して強力な魔具にしてやり返す。


「なんでこういうことを考えたか……それについては何も言わない」


 猿の大妖怪──『巌窟王・斉天大聖ソンゴクウ』が髪で分身を行っていっせいに襲いかかってきたが、鏡に映しだされた自分が本当に具現化されて、そのまま倍返しのダメージを受ける。


「けど、これに何の意味があるんだ? お前は自分の子供たちを、無意味に削っているとは思わないのか?」


 巨大なカラス──『八咫烏ヤタガラス天照アマテラス』が光るのと同時に、エリア全体に俺の支配する影の領域を生みだし、そこから無数の武具を生みだして地面に縫い付けて呑み込む。


「お前がそういうことを考えない奴なら、別によかったんだが……あのとき、眷属が攻略している時、お前は本当に悲しんでいた」


 気体に変化できるタール状のスライム──『気体粘体エアスライム混沌シアエガ』を、絶対零度の空間に閉じ込めてそのまま砕く。


「まあ、DPのこともあるんだろうけどさ。それでも思い出があるんだろう? 同じ個体なのかどうか、それは知らないが……こんな風に殺させないでくれ」


 最高の生物──『大地獣王ベヒモス』を地割れで呑み込み、勢いよく地面で挟み込むことで終わらせる。


「いろいろと言いたいことはあるが……結論から言えば、もうこういうことはしないでくれってことだな」


 最強の生物──『荒海獣王レヴィアタン』の持つ簡易的な不死能力。
 魂を滅してしまうと復活ができなくなるので、再生不可能な呪いを刻んだ魔具を叩きこむことで活動を停止させる。


「さて、そろそろゴールに着く。お前たちが何を言うのか……楽しみだよ」


 空を司る怪鳥──『天空獣王ジズ』を、地面から雷撃を当てることで地面に墜とす。
 さて、残るはあと二層。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 次の階層で俺を待ち受けていたのは──土下座をする褐色の森人《エルフ》少女と、その後ろに立っている真っ白な肌の森人(美女)だ。


「……で、土下座なのか」

「いやまあ、あの……軽い思い付きでやりすぎたって思ってな……悪かった」

「本当は俺に、じゃなくて被害者たちに言ってほしいんだが……こればかりは仕方ない」


 すでに被害者しゅごしゃたちは他界している。
 あとで再召喚したあとで、同じ言葉を伝えてもらおう。


「事情とやらを説明してくれないか?」

「……踏破してほしかったんだよ」

「……はっ?」

「だから、俺の迷宮をお前に単独で踏破してほしかったんだよ!!」


 この理由を聞いて、ある程度納得した。
 というか、俺もいちおうは迷宮の主ダンジョンマスターなので共感する点は多いのだ。


「コアさん、いちおうの説明を」

「前回はこの階層まで到達せず、途中で終了となりました。また、メルスさんは転移を用いての侵入でしたので……マスターはいろいろと不服だったのです。ですので今回、踏破してもらいたかったというわけです」

「……コアの言ったまんまだよ」

「メルスさん、ワタシとしてもマスターと造り上げた迷宮を見つめ直したかったのです。今回のこと、説明もせずにお願いしたワタシにも責任があります。どうか、マスターをお許しになってください」


 そう、迷宮を造りあげた者として、一度はしっかりと機能するところを見たいものだ。
 カナタもまた、俺が迷宮をどういう風に踏破するのかが気になったのだろう。


「……今回だけだぞ。さっきも言ったが、こういうことはあんまりしたくない」

「ああ、悪かったって思ってる……それに、もうやるべきことは済んだ」

「どういうことだ?」

「いずれ分かると思いますよ。今は……マスターの心の準備がありますので、どうかお待ちになってください」


 コア! と咆えるカナタ。
 心の準備、と言われても……素材として使うのを禁止していたカナタが、ついに装備に迷宮産のアイテムを使用していいって許可をくれるのか?


「……も、もうちょっとだからよ。待っててくれねぇか?」

「ん、分かった。ただ、俺はカナタの考えを尊重する。強要はしないから、いつか決めた答えを教えてくれればいい」

「よかったですね、マスター」

「あ、ああ……」


 さて、これで一件落着……って、一つ忘れてたな。


「コアさん、例の物ができたぞ」

「本当ですか?」

「……例の物? おい、メルスそれっていったい何なんだよ」


 今回ここに来たのは、コアさんからかねてより頼まれていた品を届けるためだった。
 ……やっぱり、カナタもなかなか正直になれないことが多かったらしくてな。


「まあ、コアさんがいずれ教えてくれるだろうからさ。そのときを楽しみにしとけよ」

「ええ、マスターの準備もいっしょに進めましょう。きっと、メルスさんが喜びマスターも悦ぶ──まさにWinWinです」

「ひぃ──っ!」


 こちらからは見えないが、コアさんを見たカナタの表情がゾクリと震える。
 コアさん、アンタいったいどんな顔をしているんですかい……。



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