AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と仕えし者



 夢現空間 図書室


 先日リュシルにプレゼントした魔本。
 彼女はそれを使って何かをしているため、なかなかそこから出てこない。
 というか、暇な時間はだいたいそこで過ごすようだ。

 そのため、本日の図書室には彼女の助手である少女がポツンと残されていた。
 あれ、いちおう個人空間プライベートルームをイメージして作成したからな。


「そのため、開発者ディベロッパーとの時間が限りなく損失しました。この責任、どのようにして対応するつもりですか──創造者クリエイター?」

「まさかここまでハマるとはな……」

「子供に玩具を渡したら、飽きるまで没頭し続ける。常識ではありませんか」

「いいのか、子供扱いして?」


 俺がバレると、頬を膨らませて怒ってくるのがなんとも言えない罪悪感を醸し出すんだよな……普通に怒られるよりも辛い。
 助手である人形少女──マシューは自身の生みの親よりも豊満な胸を張って、俺に自慢してくる。


「それが創造者と私との違いです。信頼の差とも言えますかね」

「うぐっ」

「というより、私は開発者の娘のような者。子供が母親にいくら辛辣な扱いをしようと、その関係は決して変わりません」

「その定義で言えば、俺は父親になるはずだが……まあ、仕方ないか」


 ただ、その論について語ると運営神の一柱である義侠神まで家族構成に含まなければならないのでカットだな。
 というか、リュシルもさすがにそれは嫌だろうし……。


「ちなみにマシューにとっての俺って、どういう存在?」

「ロクでなしの父親でしょうか?」

「あっ、そうですか……」


 まあ、何股かけているんだという具合だからしょうがない。
 こればかりは、こっちの世界では止められない止まらないんだよ。

 ……いちおうは父親として認められているということで、満足しておこう。


「まあ、リュシルが居ないのはある意味好都合だな。前回、マシューを一日借りることについては了承を得ていたし」

「本人の意思はどちらへ?」

「どこかへ旅行にでも行ったんだろう。それより、何かしようか」

「何か……と言われましても、具体的に創造者に案はあるのですか?」


 うーん……無い。
 リュシルも行く場所が無かったので、図書室(+魔本)の中で一日を過ごしたわけだからな……どうしようか。


「無理になさらなくてもよろしいのでは?」

「それって、出かけたくないからか?」

「たしかにそれも九割九分九厘ほどございますが、残った一厘にはしっかりとした理由がございます」

「……そんなに行きたくないのね」


 母親リュシル大好きっ娘のマシューである。
 子が母に愛されているのに嫌いになる、ということの方が難しいだろう。

 リュシルは物を大切にする、その結果がマシューなのだ。


「そう──開発者がいつ出てきてもいいように待機しておきたいので」

「俺に対する理由はゼロだったのね」

「はい。創造者にはとっかえひっかえできる方がたくさんおりますし」

「その言い方はひどくないか!?」


 いや、眷属に対してな。
 俺は自分のやっていることがどれだけ大それているか、それをある程度理解しているので別に構わないんだけど。


「じゃあ、ここで好いから。リュシルを待つ間だけでもいいからさ」

「……仕方ありませんね。私以外の予定が空いていないことですし、特別に創造者のご相手をしてさしあげましょう」

「本当、態度が変わらないよな。というか、バッチリ把握しているならとっかえひっかえとか言うなよ」

「…………」


 まあ助手なんだし、リュシルが誰と会おうするか分からない場合は、そういうことを予め知っておく方が普通なのかもな。
 無言になるのは……あれか、リュシルのためにやっていることが恥ずかしいからか。





 ただ会話をしていると精神がゴリゴリ削られそうだったので、図書室の資料を丸暗記する作業をやってみた。

 思考は<千思万考>を使っているので、意識せずとも複数の資料に目を通せる。
 また、複眼を使いながら透視眼と千里眼を行使することで、本を開かずともその場で閲覧することが可能となった。


「人外染みていますよ」

「【怠惰】だからな。ああ、五ヶ月前より後に入荷した本をピックアップしてくれ」

「……畏まりました」


 ただ、どれを読んでいいのか分からない。
 なので、マシューに頼んでそれらをすべて集めてもらう。
 なんでもできる能力だが、俺の望んだとおりになるとは限らないのだ。


「……なあ、マシュー」

「なんでしょうか、創造者?」

「こういう本、入荷しているのか?」

「それをお望みになりましたので」


 タイトルは『蠱惑の蜜』。
 内容は……だいたい察してほしい。


「これ、需要あるのか?」

「ありますよ。開発者の資料の中に紛れ込ませるのです。そうすることで、顔を真っ赤にして恥じらう開発者を拝めます」

「……他には?」

「特にございません。皆さま創造者に欲求は解消してもらっているようですし」


 ノーコメントだ、沈黙権を行使する。
 それに、あくまで夢のお話だからな!


「というか、こんな本いったい誰がここに持ち込んだんだよ」

「時々あるのです。知らぬ間に本や棚が追加されていることが」

「……神の仕業か? こんな悪戯に力を使うぐらいなら、さっさと覚醒しやがれ」

「一度は目を通したがる開発者のために、こういった本は変わらず入荷していただきたいのですが……」


 知らんがな。
 というか、さすが<禁忌学者>……やっぱり暴きたくなるんだな(意味深)。


「まあ、納得した。けど、どうせならリュシルのためになる本でも入荷してやればいいのに……こう、『神髄について』とか」

「似たような話を開発者にしたことがあるのですが──『研究神様や探究神様は解ではなく過程を重要にします。きっと、自力で解き明かせということなんですよ……って、なんで録音しているんですか!?』とのことです」

「うん、再生ありがとう」

「はい、私物コレクションの一つです」


 外で似たようなことをされたら、速攻削除に励むが……眷属同士の問題だし、二人の間で解決してもらおう。


「──さて、新作も読み終わった。参考になる資料も多かったな」

「こちらなどですか?」

「…………いや、違うから」

「ずいぶんと間が空きましたね」


 先ほどの本を挙げられてしまった。
 ……うん、あれについては了承を得てから試させてもらおう。


「けど、これじゃあ何もしてないのと同じだよな……マシュー、やってほしいこととか何かあるか?」

「ございませんが?」

「……頼むから」

「仕方ありませんね」


 考えたいとのことなので、記憶を基に本を作成して時間を潰す。
 昔の記憶の中から、少しは面白そうなエピソードを抽出して本にする。

 そうだな……タイトルは──。


「『墜ちし勇者 ~導かれる傀儡~』にでもしようかな?」

「R指定ですか?」

「……おかしいな、いつの間に」

「創造者の頭の中が、開発者同様に桃色一色に染まっているのが原因かと」


 ペラペラとページを捲ってみるのだが、過激な描写は存在しない……当然だ、アレをイメージしてそんな内容は生まれない。


「ところで願いは決まったか?」

「はい。開発者の持つ魔本に入れるようにしていただきたいです」

「無理。けど、ちゃんと使い込めば他者を招くことはできる……というか、だいぶ使っているからいずれ可能だろう」

「そうですか……楽しみです」


 まあ、俺が仲介すればいつでも侵入可能だが……そこは内緒ということで。


「他にはあるか?」

「特には。わざわざ願うことといえば、そのくらいしか……」

「マジか」

「創造者は、眷属の願いはたいてい聞き入れてくれますし。この場で言う必要がある願いは、先ほどの願いのみです」


 そうだな……うん、強要することでもないよな、こういうことって。


「──ですが、一つだけ」

「やっぱりあるのか」

「これは開発者と共に、いずれお話ししたいことということで。……その、準備などがありますので」

「ん? ああ、分かった」


 久しぶりに見たな、マシューの顔が赤くなるところ。
 いったいリュシルに、何をさせる気なんだろうか……というか俺、そのとき何をさせられるんだろう?



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