自称偽善者は電脳異世界に揺蕩う(旧:AFO ~(自称)偽善者のVRMMO(?)記~)

山田 武

偽善者と精神研究



 夢現空間 私室


 訪れた部屋は、少々狂気に満ちた場所だ。
 何の素体だか分からない禍々しい瘴気を放つ素材や、ガラスケースに封じされた魂魄などが並べられたりしているからだろう。

 そんな部屋の主──ネロは俺が入って来てもこちらを見向きもせず、ひたすら何かの実験を行っていた。


「根を詰めすぎるのもよくないぞ。何時だと思ってやっている?」

「……午後だったか?」

「もう朝だ。なんでこう、研究者ってのはそこまでのめり込めるんだか」

「生産をしている時のメルスも、似たようなものではないか」


 俺の場合、精神と肉体を好きに分離できるうえ、時間の操作が自在にできるため問題にならない。
 というか、自由時間ならば没頭するが、眷属との時間なら絶対にそっち優先だからな。


「ところで、それはなんだ?」

「以前、戦場跡に向かったのだろう? あそこの奥には、超越種がいる。それがアンデッドともなれば、吾は動かずにはいられなくなるではないか」

「いや、それは別に構わないんだが……それらを何に使うかって訊いたんだ」

「改良だ。肉体や魂魄を弄る経験は多かったが、精神はそう多くない……だからその可能性について調べていた」


 肉体は身体的面を、魂魄はその存在そのものを司っている。
 それらを弄繰り回すことで、目に見える形で強化が可能だ。

 だが、精神の操作となると……生者ならばともかく、アンデッドには不要に思える。
 なぜなら──彼らはそういった精神のどこかに欠けた部分があるからこそ、アンデッドたりうる存在なのだから。

 精神だけで活動する霊体系の魔物。
 あれらはたいていが何かに固執した結果、負の魔力に呑み込まれて魔物化している。
 それを精神操作したとしても、少々凶暴性が変わるぐらいの変化しか見込めないのだ。


「たとえば魔力だ。運用しているのはあくまで肉体であり、その量とも呼べる根源を定めるのは魂魄だ。だが、イメージや放出後の操作などはすべて精神によるもの。メルスの国で言うところの『柔よく剛を制す』だ」

「いや、あれって『剛よく柔を断つ』って続きがあるだろ」

「無論、理解している。だが、可能性が一つではなく二つになったというだけの話。今は前者の研究に力を入れていたい」


 世間一般で言う『一般人』にありがちなことだが、覚えた名言を一説だけ覚えてその続きを知らないということがある。

 先ほどのものもそうだし、『天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず』という言葉にも、だけどそれなら貧富の差があるのはおかしいという節や賢愚の差は学んだかどうか、みたいな文章が続く。

 結局のところ、人は知っているということに満足した時点でその探求を止めてしまう。
 それを止めず、あくなく精神で探究し続けることで──真の理解を得ることができる。


「まあいいや。今日は暇なので、お前の手伝いをしに来ました」

「ほ、本当か!?」

「わざわざ嘘を吐くためにここに来て、いったいどうするんだよ。さっきので、だいたい何をしたいかは分かった。完成はお前自身でしてほしいから、そのサポートだけだがな」

「そ、それでも構わん!」


 胸躍る想い、というか胸を踊らせて喜びだす全裸ローブの女性。
 情熱に呼応して、その瞳に宿る緑の輝きは文字通り炎のように燃え盛っていく。


「というか、その格好どうにかならんか?」

「吾はもともと骨だけだったからな。当時を思い返し、原点に還るのであれば──やはり裸が一番であろう」

「……始めるか」

「す、少しぐらい反応してくれてもよいではないか!」


 そういうのはドM龍で慣れてますので。





 今回の研究は精神構造を作り変え、魔力の改変能力を持つアンデッドの作成ができるかどうかというものだ。

 意思が薄い魔物だと、予め用意されたシステム通りの魔法しか行使できない。
 それを改善するため、何をすべきか……方法はいくつも浮かんだが、ネロ一人でとなるとすぐには思いつかなかった。

 俺の場合は擬似的な知性でも植え付けて、どのような場合であればどういった魔法にするのか、それだけを演算させて魔法を行使させることができる……しかしながら、AI的なことを死霊使いにやらせるのは難しい。

 おまけにこれは魂魄の領域だ。
 ネロが求める精神面に干渉した結果、魔法の扱いに変化が起きるという結論に至ることはできない。


「難しい……大変だな」

「だから吾も、時間を費やし研究をしているのだ。魂魄以外のことであろうと、自身が興味を持てばなんでも面白く感じるのだな」

「そういうことだ。なんでも一度やってみることが、結構重要らしいぞ」

「なるほど。奥が深いものだ」


 俺たちはそうして、研究を続けた。
 完成には至らなかったものの、研究としてはかなりいいデータを取れるような時間だったと言えよう。

 共に肩を並べ、力を合わせて何かに打ち込むこと……スケルトンだったネロには、それができなかったのだろう。


「メルス……これからも、その、時々でいいから……研究を手伝ってくれないか?」

「ネロ……」


 感情を持たなかった骸骨が、今ではそんなことを言えるようになるまで成長する……いろいろと嬉しくなった俺は、その日は一日中ネロと共に研究を行うのだった。



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