AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と魔剣道中 その19
幾百の時を紡いできた。
何十、何百もの使い手が現れた。
しかし、自身を振るいに値する担い手が、ソレに現れることはない。
(ダメだ、ダメだダメだダメだ……!)
担い手であった『あの者』と同じ道を志すこと、それが必要な条件だった。
膨大な魔力も優れた剣術も、懲罰に長けることも必要としない──ただそれを目指す、ソレは新たな担い手を探していた。
(またハズレか……)
自身を握った次なる所有者は、過剰に膨れた我欲に溺れた男だった。
己の力も制御できず、精神を根深く侵蝕されている……そんな男だ。
だが彼は、最後に良い働きをした──新たな使い手を見出してくれたのである。
故にその者と契約した、ある程度行っていることに協力した──偽善に力を貸した。
(そして、それは間違いではなかった!)
彼──メルスは約束を果たした。
決して人を殺めず、魔物ですら温情の余地があれば見逃す寛大さ。
それは『あの者』と同じ、生き様だった。
偽善を謳おうが構わない、ソレにとって目指すべきは過程ではなく結果である。
(この者であれば……いずれ、担い手の過去すらも暴いてくれよう)
ソレ──黒鍵魔剣は求める。
自身を生みだし、ある目的と根源を遺して逝った担い手のすべてを知ることを。
すべてを暴く力を持った魔剣は、ただ一つだけ──生みの親を知りたいだけだった。
□ ◆ □ ◆ □
夢現空間 居間
「──とまあ、そんなことがあったんだよ」
「ふーん、メルスも大変だったんだねー」
「魔剣で斬って叩くだけで気絶するから、敵自体はどうとでもなるんだけどさ。やっぱりこう、少しやりすぎた気がしてさ」
「それはいつも通りだと思うけど……うっ、またババなの?」
今回あったことを、アリィとババ抜きをしながら話してみた。
どうせ二人でやっていることなので、いちいち顔を取り繕う必要もない。
ただ暇潰しとして、おコタで温まりながらゲームをしているだけだ。
「けどさ、その魔剣を使う必要あったの?」
「ん? どういうことだ、アリィ?」
「神剣あるよね?」
「……いや、偽善者としての使命だよ」
あらゆる武具を模倣できる『模宝玉』。
だがその欠点は、その武具が持つ意思までコピーすることはできないということだ。
また、意思を持つ武具は真似できないということで……つまりは偽善対象である。
なので救った。
契約者の居ない魔剣の契約者となり、かつての担い手について情報を集める。
これは最初に言われたことであり、また再び頼まれたアイツとの契約だ。
「ただまあ、大変そうではあるがな」
「どんなところが? ……ババを引いてよ」
「そもそも大陸を渡ったかどうか、それが微妙らしいからな。もしかしたら、別大陸の生まれなのかもしれなくてさ……それって、いつになったら情報の欠片を掴めるんだよ」
「そうなんだ……ねぇ、早く引いてよ」
ため息を吐いてアリィの出すカードを引き抜く──もちろんジョーカーは出ない。
クーなしでも、ある程度カードゲームのテクニックを磨いた今なら戦えるのだ。
「まあ、幸いにして長い時間がある。あと、別大陸派遣組に新情報として流してある。運が良ければ、見つかるんじゃないか?」
「運がよければ、ねぇ……」
「あっ」
「その台詞は勝負師にとって禁句よ」
せっかくあと一回引けば勝利、という場面でアリィの別人格たるアリスが現れる。
巧みに札を操り、二分の一という確率の中俺にジョーカーを押しつけてきた。
「だから運に頼らず、派遣して探しているんでしょう? それに、もしかしたらの可能性まで考えて──」
「そんなつもりはないんだけどな」
「つもりはなくても、実際にそうなっているわ。もちろん、勝手に深読みしている眷属の仕業だけれどね」
無知で無智で無恥な俺の代わりに、眷属たちはさまざまなことをやってくれている。
そう、例えるならダメな社長を支える経営陣のように……うわっ、容易に思い浮かぶ。
「アリス的に、その魔剣の持ち主って嫌な予感しかしないわよ。うん、アリィも訊いててなんとなく思った。絶対悪人の家だよね」
「それっぽいけどな」
ジョーカーを押しつけ合いながら、魔剣の初代担い手の実家について話し合う。
ヒントが少なく、もっともそれっぽいのは寒い場所ということ。
いちおう、大陸の中には極寒の地もあったとアマルから報告を受けたが……寒い場所ならたいていの地に一つは存在するだろう。
あとはそれ以上に本質を表す──尋問の能力を持つ魔剣を生みだせた環境だ。
表側の存在が、そう易々とそんな力を持つ魔剣を創りだせるとは思わない。
「間違いなく、裏側の奴らの生まれだな。だが一口にそうと言っても、幅が広すぎてどうしようもないのが現状なんだよ」
「ふーん、まあ見つかるわよ。──それはそうと、ババ抜きはアリスの勝ちね」
「……ハァ、負けました」
「やったぁ! 約束通り、アリィは美味しいケーキがプレゼントされるぅ!」
アリィとアリスのチェンジに文句を付けることは無い。
大人しく“空間収納”からケーキを一切れ出して、アリィに差しだす。
「ちゃんとアリスと分けろよ」
「はーい。ふふっ、感謝するわ。たまに分けてくれないもの」
「ヲイ……」
「だって、美味しいんだもん」
結局、アリィはちゃんとアリスにも食べさせていた……本当に少しだけだったけどな。
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