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山田 武

偽善者と魔剣道中 その17



 スリース王国

 いろいろと前振りをしたが、帰るのは簡単にできたため特に何もなかった。
 もちろん、やりすぎるのもアレなので空間魔法系の手段で帰ったわけではない。


「間もなく屋敷に到着しますよ」

「うむ……無事に帰ってこれたのだな」

「はい、父上」

「それもこれも、すべてメルス殿のお蔭であるな。誠に、心から感謝している」


 当主と令嬢が頭を下げる。
 二人からしてみれば、俺って国を救った存在……つまりは英雄なんだろう。
 うぬぼれではなく、それは客観的事実だ。

 ──なんて捉えるのは、いかにも偽善者らしいと思わないか?


「頭を上げてください。初めから言っているではありませんか──私は、偽善を行うためにここに来たと」

「そう……だったな。だが、私はこうも言ったはず。その偽善が救ってきた者がいるはずだと。私たち、並びにこの国は間違いなく君によって救われた──本当にありがとう」

「そうです。私も父上も、本来であれば屋敷で事切れていた……それを救ったのは、誰でもないメルス殿です」

「お二人とも……」


 少々涙がホロリ……といかない体なので、水魔法“嘘泣きティアドロップ”というオリジナル魔法を使いそれを演出する。

 すみません、でも本当に嬉しいんですよ。
 やっぱり、偽善はこの瞬間のためにやっているんだと実感できるんで。


「屋敷に到着後、念のために結界などを用意しておきましょう。その後は、契約終了ということでよろしいですね?」

「ダメだ。まだ報酬が……」

「いかようにも、ということでしたので。無断でこの馬車や屋敷を改造した罪を帳消しにするということでご勘弁を」

「それでは、君への報酬が何も……」


 うん、別に何もないんだけどさ。
 お金は要らないし武具や魔道具は自作が可能、権力は非公式だが最大級おうさまだし……あと、女も素晴らしいハーレムが居るので別に必要がない。

 報酬が貰えるとしても、別にわざわざ欲する必要がないんだよな。
 不活性な金が増えてしまうのもアレだし、無償で働くのがベストなのだ。


「皆さんの笑顔、それで充分ですよ。これからも、国家間の平和のために尽くしてください……何かありましたら、連絡ください。そうすれば必ず向かいますので」


 名刺型の魔道具を二人に渡してある。
 念話を行える回路を刻むことで、困ったことがあれば繋げることを可能とした。

 ただ、一気に複数の場所から連絡を受けても困るので、先に中継地点を用意してある。
 偽善を手伝ってくれる国民が、その内容を聞き取れるようにした。

 ──オペレーティングセンターだよな。


「では、お世話になりました」

「いつでも歓迎しよう。カープチノは、君に最大限の援助をすることを約束する」

「……いつか、誰かの偽善のためにお世話になるかもしれません」

「そうか……いつでも来たまえ」


 別れを告げて、馬車を降りる。
 しばらく屋敷の中に馬車が入る様子を見てから、後ろを向いて歩を進めていく。

 そして、見ている者たち・・・・・・に告げる。


「──全員来い。来ない奴は死ぬぞ」


  ◆   □   ◆   □   ◆

 エーリム氷原

 すでに解放された氷の地。
 邪魔するものは何もなく、俺たちの間に阻むものはすべて遠ざけていた。


「……来たか」

「過去を視る力、すべて吐かせてもらう」

「ああ、それが目的だったか……。安心しろよ、今は使えない。お前らの主が誰なのかも分かっていねぇよ」


 お馴染みの刺客たち。
 これまでよりも豊富な魔力を内に宿し、身のこなしも武人や達人といったもの。
 本気を出してきた、ということだろう。


「その魔剣も頂こう。逆らった罪は、それで帳消しとのことだ」

「いやいや、お断りだよ。相手が誰だろうと俺は負けない。この魔剣、欲しくば俺を殺して奪うんだな」

「……元より、そのつもりだ」


 互いに武器を抜き……俺は魔剣を足元に突き刺す。
 すると影が揺らめき、凄まじい勢いで彼らの下へ向かった。


「くっ……」

「悪いな、『隠れ鬼』をやるつもりはない。気分は『氷鬼』なんだ」

「何を言っている」

「ルールは簡単だ。俺が触れた奴は動きを停めなければならない。だが、お前らの誰かが触れれば動いてもいい。お前らが俺に負けを認めさせるのが先か、それともお前らが全員動きを停めるのが先か……楽しみだな」


 話していると、影から男が現れる。
 予期していなかったのか、彼らはソイツをギョッとした反応をして見た。
 なにせ、苦痛に満ちた顔で硬直しているんだからな──気づいたときに刺したんだ。


「触れてみろよ、それで直るぜ。お試し版をやっておけよ」

「…………」


 何か仕掛けがないのか確かめてから、一番ソイツに近かった奴がそっと触れる。
 男は意識を取り戻し、状況を探り出す──これで準備はOKだ。


「生き残るのは誰かな? さて、氷鬼の始まりだ!」

「──殺せ」


 いっせいに動く刺客たち──その数二十。
 多勢に無勢とはこのことだな……まあ、このゲームはもともと鬼が一人でもできる。


「(力を貸してくれよ、魔剣)」

『仮初の契約者、一ついいか?』

「(このタイミングでか? いや、別に問題はないけどさ)」


 そして、魔剣からある話を受ける。
 ……うん、絶対に負けられなくなったな。



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