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山田 武

偽善者と魔剣道中 その11



 屋敷に戻った俺たちは、再び作戦を決めるべく会議を行う。
 だがその前に、状況を把握していない令嬢(と俺)への説明がなされた。


「──と、いうことだ。コールザードへ向かい、私が話をすることになった」

「危険です! 父上を陥れようとする輩がどこにいるか分からないというのに、外に出るなどと……」

「屋敷が襲われた以上、どこにいようと危険は変わらん。ならば、メルスが居るこのときこそがチャンスなのだ。彼であれば、いかなる敵であろうと払いのけられるだろう」

「微力ながら、お供いたしましょう」


 令嬢の表情が、なんだか『頼まなければ良かったのか?』みたいなものになっている。
 だが、これを選択したのは当主であり、誘導なんてしてないんだから勘弁してほしい。

 偽善を今さらキャンセルなんて特にだ。


「しかし、移動手段はどうされるので?」

「転移門を、と言いたいところだが無理だろう。すでに確認したが、どうやら一時的に遮断されているらしい」

「そうなると、残りは陸路と空路。しかし今のイテルナ寒地は吹雪の季節だ。残念だが、陸路しかないうえ、厳しい旅だろう」

「空は難しいので?」


 魔道具があればどうとでもなるのでは? と訊いたが、どうやらそういう系の飛行船は王族用の品らしい。
 しかも、あのエスプレッソ公爵とやらが邪魔をしているので使えないとのこと。


「兵を見せる必要が無い分、行軍染みた真似はせずともよい。だが、最低限の護衛がいなければならない。つまり、何かに紛れての移動は避けておきたい」

「……吹雪に耐えられる馬車はお持ちで?」

「この国、そしてコールザードの貴族や商人であれば必需品だ」

「では……少々時間を取りますが、馬車を偽装するのはどうでしょうか? 乗る馬車を代えるのでも良いのですが、せっかくですので馬車の性能を上げるという方向で」

「ふむ、どういった風にだ?」


 なんだか興味を持ってもらえたので、俺が考える理想の馬車プランを説明する。
 初めは少し呆れていたが、その実用性を細やかに伝えていくと表情を変わっていく。


「可能なのか、それは。明らかに時間がかかる作業であろう」

「数時間あればどうにか。もう少しよい性能が必要なのであれば、時間もまた多くかかってしまいそうです」

「それだけでも、今は充分だ。すぐに作業に取り掛かってくれ」

「お任せください」


 実際に馬車の改造にかかる時間なんて知らないが……生産神の加護を持つ俺にとって、求められる品質がこっちの人基準の馬車であれば、容易く作業できるだろう。

 ──さぁ、両国の平和ぎぜんのためにもお仕事を進めないと。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 イテルナ寒地

 令嬢が言っていた通り、吹雪が馬車に吹きつけてくる。
 スリース王国から北に出た先では、奥が見えなくなるほどの猛烈な雪が吹いていた。

 道の整備はしていないのかと訊ねれば、結界などが意味を成さない特殊な雪なんだと返答をもらう……魔力を奪うらしい。
 少し興味が出て外に出れば、たしかに雪に触れた所から熱と共に、魔力が体外へ放出されてしまった。

 かつて終焉の島で経験したように、これもきっといい魔法に眷属たちがしてくれよう。


 閑話休題ばしゃにもどる


「……信じられん、まさかこの旅がここまで軽快に進もうとは。車輪はいったいどのようにして回っているのだ」

「父上、それだけではありません。窓側に居る私でさえ温もりが感じられます。どうやら寒さを通していないようです」

「──いかかでしょうか、私が手を加えた馬車の居心地は?」

「素晴らしいものだ。メルス、君には戦闘の才だけでなくモノ作りの才もあるのだな」


 単純な話、付与魔法と貴重な魔物の素材や鉱石を使って加工しただけだ。
 あとは内側の空間を拡張したうえで、外との距離感を少しズラす……これだけで寒さはほとんど防げた。


「お褒めいただき、光栄です。ですが、これはあくまで簡易の防壁。時間が無かったため防御しかできませんでした」

「……ちなみにだが、もし時間があったのであればどのような物に?」

「攻撃に対応した迎撃ができる魔道具になっていたでしょう。念のため空を駆けれるようにしたうえで、転移による屋敷への帰還もしてあったかと……」

「そこまでは……せずともよかったな」


 どうやら、やりすぎになるところだったみたいだ。
 まあ、強引にやるのが偽善なのだから勝手にやってもいいと思うんだが……時間が無くて残念だよ。


「しかし、防御だけであればある時間で最大限まで凝らしました。何か問題があれば、すぐにこの馬車の中へ逃げ込んでください……念のため、こちらを」

「これは……指輪か」

「致死の損傷を受けた場合、その場に仮初の死体を生成して本人を馬車へ転移させます」

「またなんとも……遺物レリックのような品を」


 迷宮のような場所から、いちおう転移系のレアアイテムはドロップする。
 ただ、DPの消費は半端ないからな……宝箱のランダムドロップじゃないと、都合よく手に入れられないんだよ。


「まもなく、目的地となります。一度、当主様がたには待機してもらいます」

「……本当にやるのか?」

「いい手土産になるでしょう。また、私もそれを果たせば都合がよいのです……偽善ですよ、偽善」

 馬車を降り、先に準備を行う。
 しばらくすると道を逸れ、そこで馬車は動きを止める。

 ──さて、一狩り行こうぜ。



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