AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と魔剣道中 その10
論争は今も続いている。
エスプレッソ公爵とやらが当主に難癖をつけ、あっさり国王が騙されているというなんとも面白くも無い展開だ。
俺がケチを付けると、それは当主たちの家系を傷つけてしまいかねないので何も言わずに立ち尽くすだけ。
今は護衛に徹し、それ以外のことはしない方がいい……決して、頭の悪い貴族と話す尾が面倒だとかそういうことじゃないんだ。
「(なあ、魔剣)」
《どうした、さすがにこういった問題を解決する術は持ち合わせていないぞ》
「(いや、それは分かってるんだが……上に反応があるよな?)」
《ああ、王族の特殊部隊であろう》
創作物でもよくある、国が使う影の部隊。
彼らの一部が現在……というか入ってからずっと俺たちの様子を窺っている。
いかに特訓されていようと、生理的な反応までは隠せなかったようだ。
「(あれはただ見てるだけだと思うか? それとも、何か別の目的があると思う?)」
《……王族の意向はよく分からないが、直接何かをしようというわけではないだろう。だが、油断できるということでもない》
「(会話を聴いているとかか?)」
《その可能性は高いな。音源は神明裁判においても効果を成す》
神明裁判、ようするに裁判官が神様な裁判のことである。
ただし、今の神様に正当性が無い時点で、もう形骸化した遺物だ。
やったとしても、ほぼ確実に運営神の都合がいいような結果しか出ないだろう。
「(って、まだやっているのか?)」
《……さて、この国はどうであろうな。だが担い手の国ではそのような単語が飛び交っていた気がするのだ》
「(いいヒントだな。今はどうだか分からないが、それでも少し前までやっていたってだけでも参考になる)」
しばらく様子を窺っているようだが、俺にはあまり注目していない。
あくまで当主とエスプレッソが話す内容に注目し、何かの魔道具を使っている。
まあ、順当にいけばこれが録音のための魔道具だろう。
あそこからでも聴けるのか、それとも何か別の絡繰りがあるのか……さてさて。
「(当主様、聞こえていますか?)」
「む?」
「どうかしましたか、カープチノ公爵?」
「いや、なんでもない。それよりもだ──」
急に念話を繋いだせいで、不自然な挙動を見せてしまった。
慌てて一度接続を切ると、少し分かるように魔力を繋いで話しかける。
「(驚かず、そのまま魔力を感じていただけますか? 糸のように繋がっている魔力が、当主様のお言葉をこちらへ伝えます)」
《……こうか》
「(はい、繋がりました。突然のことですがご報告を。すでにお気づきになっているかと思いましたが、確認をしておこうかと)」
《前置きはいい。それよりも、いったい何に気づいた?》
ちなみにこの間、当主は王と貴族を相手に話している……複数のことを考えること自体は、スキルが無くともできる。
彼のように忙しい職に就く人は、やはりそういったことを技術として身に着けているのだろうな。
余裕がないのか、それとも単純に前置きが嫌いな人なのか声に少々力が籠もっている。
それを尋ねるのもアレだろうし、さっさと要件を告げておく。
「(上に何者かが潜んでおります。強い敵意などはありませんが、おそらく何らかの魔道具でこちらを調べています)」
《……おそらく『乱吹』だろう。王直属の非正式部隊だ》
「(ということは、私のような者を警戒しているのですか?)」
《十中八九そうだろう。だが、魔道具というのが気になるな。魔力の痕跡が残る品を使う可能性は低い》
つまり、その可能性を考慮したうえで必要となる状況なのか。
用途にもよるが、先も挙げた記録用のもの以外にも魔道具はたくさんある。
「(どうしますか? この場に居る者たちにバレずに排除することもできますが……)」
《止めておけ。死をトリガーとした魔道具があると聞いている。その瞬間にしか魔力が使われない隠密性の高いものらしいが、それ以外の情報がない。何が起こるか分からない以上、極力控えておく》
「(分かりました)」
《……こちらはとりあえず、疑いを逸らしておく。エスプーレソにはある黒いうわさがあるが、それだけを理由に問い詰めるわけにはいかない》
ああ、エスプレッソじゃないのか。
まあ貴族と言われてプレイヤーが想像するものなんて、ドリルツインテールの令嬢か悪徳貴族かのどっちかだしな(偏見)。
──当主のような人格者の方が、珍しい気がするよ。
「……と、いうわけだ。王よ、これから私は直接コールザードへ向かう」
「そ、そうか……」
「お待ちください、王よ! よろしいのですか、このままではカープチノ公爵……!」
「では、卿が代わりにご説明に向かってくれるのですかな?」
ぐぅの音も出ないようで、そのまま沈黙するエスプレッソ公爵。
さて、どうやらこのまま行くようだな。
「メルス、すまぬが協力願えるか?」
「はい。貴方様のご命令とあらば、どこまでもお供しましょう」
「ま、待て……ぐぅ……」
「行きましょうか、公爵様」
軽く威圧をかけただけなんだが、どうやらこちらの公爵も貧弱だったようだ。
「……ぐぅ……」
漏れた分だけで少々弱っている当主様を正気に戻して、王城を去るのだった。
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