AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とお菓子魔道具
始まりの町
「またのご利用をー!」
「あーっ!」
「ハァ……」
哀れな子羊は、新たな扉を開いただろう。
いつも、と呼べなくなるぐらいに久しぶりに路地裏で商品を売っているのだが、来る客はだいたい舐めたうえで舐められる……同情したくなってきた。
「旦那……ったく、心配しやしたぜ!」
「ああ、そりゃあ悪かったな。見ての通り、客は品も買わずに品になっているぞ」
「へへっ、そりゃあ残念でごぜぇます。その代わり、アッシらは貴重な品を買い放題なんですがね」
「ポーションも余っている、いつもの分のついでに買っていけ」
契約分のポーションを取りだしている間、彼──ウッスはお土産を吟味する。
有料だが、それだけの価値がある……それに彼は、意外とお金持ちだからな。
「そういや、会談は上手くいったのか?」
「へい、上々でしたよ。旦那ぁ、『青』とも知り合いだったんですね。さすがですね……あぁ、これとこれをくだせぇ」
「知り合い、というか殴りこんだらたまたまそこが組織だったんだよ。幸か不幸か、俺にはさっぱりだけどな。ほいよ、釣り銭だ」
「へへっ、ありがとうごぜぇやす。これでアイツらにも自慢ができやすよ」
購入したのは武器ではなく魔道具──それも、非戦闘系の物を二つだ。
転移ですぐに逃げられる彼に、戦うための武器はあまり必要ない。
それはそうと、会談は上手くいったのか。
紹介した身ではあるが、何を話したのか俺にはさっぱりだ。
「旦那、また来やすね!」
「ああ、金を持ってりゃ客人だ」
「では、そういうことで」
転移を行った彼は一瞬で消え、再び辺りは静寂に包まれる。
先ほどまで長話ができたのも、客の数が少なかったのが原因だ。
「あーあ、もう少し品数を増やすべきか?」
そうやってあれこれ手を出した結果、何を売っているのか分からなくなっていくのが日本の販売である。
何でも、というと響きはいいんだが……本当に何でも売っている所なんて、全体の一割にも満たないだろう。
「売れた場所には何を置いておこうか?」
売れた魔道具は、お菓子を作る全自動系の装置が二つ。
忙しい主婦へ、料理のやり方が分からないお子様のための商品だ……なぜそれをここに並べていたのか、適当に載せていたからだ。
「同じのを、というよりは関連商品の方がいいかもな」
クッキー、アイスタイプが売れてしまったので、今度はプリン、タマゴボー□タイプを店頭に並べておく。
売れない可能性が高いが、たまたま通りかかる者がお菓子好きかもしれないしな。
本当に、お菓子好きが現れた。
だがそれは、割と知っている人である。
「久しぶりだな」
「そういうことですか……」
「とりあえず、そこの魔道具を買おう」
先ほど置いた装置はすぐに売れた。
使い方を示し、サンプルを渡したら美味しそうに食べてくれる。
「それで、用件はどういったものでしょう」
「ウッスがお菓子を作る魔道具を買った。なら、そこに行くしかないだろう」
『…………』
「冗談だ。正しくは、また手柄を立てた祈念者に会いに来た──『一家』のリーダーにもなったらしいな」
伝えておらずとも、彼女の情報収集能力であればすぐに分かるか。
透き通るほどの真っ白な肌や髪、爛々と光る紅の瞳……アルビノであり、この町の裏を仕切るボスが相手では。
「ちょうど世代交代が行われていたので、不穏分子を取り除くお手伝いをしただけです」
「前にも言ったが、代わらないか? お菓子が交渉材料であれば、すぐに代わろう」
「いえ、勘弁してください。実際に仕事はしておりませんので」
たとえ代わったとしても、やってきたことすべてを維持することはできないだろう。
彼女のスペックは眷属以上とも呼べる逸材だし、誰にも代わることができないからこそボスをやっているのだ。
「先代はまだ健在ですので、再び会談を行えるように準備しておきましょう。期限などはございますか?」
「無い。ただ、『青』の土産同様に帝国の菓子も作ってくれるのだな?」
「……そう、ですね。ご期待に添えるよう、尽力させていただきます」
会談の内容は分からないが、持っていくお土産についてこちらが手を加えていたのはバレていたようだ。
まあ、生産神の加護はバリバリで機能しているので、当然とも言えるんだが。
「ただ、あまり期待はしないでください。ある程度の技量で味は出せますが、本職には敵いませんので」
「少なくとも、わたしはお前の作る物は至高だと考えている。その思想はわたしだけのもので、他者が介入する余地は無い。お前はただ、そんなわたしの期待に応えられるような物を作ればいい」
「そう、ですね……帝国からの使者を楽しみに待っていてください」
「ああ、期待しておこう」
後ろで笑っていたウッスの肩に掴まり、ボスは再び職場へと戻っていった。
彼女にしかできないこと、この混沌に満ちた町を裏から支えるための仕事だ。
「ボスも、笑えるんだな」
最後の一瞬に見せた、その見た目にあった小さな笑み。
なんだかそれが忘れられず、そんなことを呟くのだった。
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