AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と帝国散策 その08
だが、どうしても諦めきれなかった。
いつだって戦いは男の心をくすぐり、あの手この手で導こうとする。
運命の悪戯だったのかもしれない、だがそれは間違いなく奇跡だったんだ。
あとから思い返そうと、俺はこの選択を後悔していないのだから。
「──まあ、そんなわけで代理試合に参加してもらおう。なーに、簡単な話……相手を痛めつけて金を貰おうって寸法だ」
「ボス……アンタ、それでいいっすか?」
彼は同伴していた組織の一員なのだが、どうやら渡した分が尽きて暇そうだった。
そのため捕縛し、今回の作戦に協力させようと話を持ち掛けている。
「悪いが金が要りようでな。必ず勝てるうえに、経験値も入るから働いてくれ。手に入った額は九一で分けよう」
「怖い思いをするっすよ? たしかにボスの力が必要っすけど、四六ぐらいの比率がないと割に合わないっすよ」
「……ハ?」
「……ハハッ」
そこからは醜い皮算用が始まる。
最終的には装備の質を落とすと脅しをかけた俺の、八二で納得させた。
帝国内でお小遣いがだいぶ減ったので、働かないといけないんだよ。
「それじゃあ、これが変装アイテムが入った収納袋だ。顔だけ隠して、まずは登録してくるんだ」
「……鬼」
「そう言うな。本当の鬼であれば、一銭たりとも渡しはしないだろう。それとも、実際に鬼のように振る舞ってほしいのか?」
「い、行ってきますっす!」
これ以上の減額は望まないのか、彼は凄まじい勢いでここから逃げだした。
根は真面目な奴だと把握しているので、逃げることはないだろう。
「代理試合。一定額を予めベットしておくことでできる、コロシアムの横入り。誰かが払えば無法者でもルール上は割り込めるってのが、なかなかに斬新なやり方だよな」
参加するからには、自分の出した者にそのすべてを賭けよ──要するに、八百長をするのは駄目だということだ。
わざと負けるなんてナンセンスなこと、観客は望まないからな。
ちなみに、払ってもらえなかった場合はコロシアムから強制退場を受ける。
魔物に襲われる場合もあるし、闘奴たちがいっせいに襲いかかる場合もあるらしい。
ただ、それは秩序を守らない奴が、金にも救われなかった場合だけだ。
普通に参加すれば参加者として迎え入れられるし、そうでなくともそれだけの実力があると証明すれば襲われることもない。
──要は、強ければ問題ないのだ。
「と、登録完了しましたっす」
「よし! ならば、行こうじゃないか──共に命を賭けた、大博打へ!」
「……俺だけじゃないっすか、命賭けって」
彼の内心に気づいてはいるが、とりあえずスルーの方向で進めていく。
隠蔽量まで一割分くれてやったんだ、その分はしっかり働いてもらわないとな。
◆ □ ◆ □ ◆
コロシアムの運営者は悩んでいた。
飛び入りで登録してきた『一家』の一人、その彼に当てる者がいなかったからだ。
「若いとはいえ、一家の一人。並々ならない実力者のはず……だが、それを広められないのが拙い。このままだと、一家が儲けるだけで終わってしまう!」
闘奴やレートの配分を管理し、毎月一定額支払うことで生かされ続けている運営者。
生きる分には申し分ないが、楽しみにしていた娯楽場に手が届かなくなることを大変嘆いていた。
「ああ、どうにかしなければ……」
「お、オーナー! たった今、グランドオーナーよりご連絡が!」
「なんだって!?」
各部門を管理する者をオーナーと呼び、それらを統括する者をグランドオーナーと呼ぶ裏の掟。
コロシアムオーナーである彼に届けられたのは、一通の手紙と小さな収納袋だった。
奪い取るようにそれを手に取り、手紙の内容を確認する。
「……そうか、さすがグランドオーナー! これなら、無事に乗り切れる!」
自信を取り戻した彼は、ニンマリと笑みを浮かべて作業に取り掛かる。
……夜の蝶たちが、仕事終わりの彼を待っていると信じて。
◆ □ ◆ □ ◆
コロシアムの中で戦いが始まった。
闘い、ではなく戦いである。
後ろ盾を持たない参加者は提示された相手と戦闘しなければならなく、終わるまで決して逃がしてもらえない。
「だからこそ、負けると思われるんだよな」
「ボス、どうしてアイツを戦わせたんで?」
「暇そうだったからな。それに、俺も正直金が足りなくなってきた」
「……やり方が悪かったんですよ。ボスの理想に救われた俺たちですけど、難しいってことぐらい分かってますよ」
かなりの金を使わなければ、コイツらを纏めて抱え込むなんてことはできなかった。
非合法な品ばかり買っていたこともあり、ポケットマネーなんて残っていない。
「まあ、もともと弱点らしい弱点が無かったアイツだ。多人数で囲んでも勝てるだろ」
「アイツらが……というより、上が何を出してくるかによりますがね」
「用意したのは、死なないようにするだけの試作品だ。有効的に使えるかどうか、それを見せてもらいたいよ」
配下に取り込むのに、かなり時間がかかったんだ……かかった時間は金銭にして支払ってほしいものだ。
いつだって戦いは男の心をくすぐり、あの手この手で導こうとする。
運命の悪戯だったのかもしれない、だがそれは間違いなく奇跡だったんだ。
あとから思い返そうと、俺はこの選択を後悔していないのだから。
「──まあ、そんなわけで代理試合に参加してもらおう。なーに、簡単な話……相手を痛めつけて金を貰おうって寸法だ」
「ボス……アンタ、それでいいっすか?」
彼は同伴していた組織の一員なのだが、どうやら渡した分が尽きて暇そうだった。
そのため捕縛し、今回の作戦に協力させようと話を持ち掛けている。
「悪いが金が要りようでな。必ず勝てるうえに、経験値も入るから働いてくれ。手に入った額は九一で分けよう」
「怖い思いをするっすよ? たしかにボスの力が必要っすけど、四六ぐらいの比率がないと割に合わないっすよ」
「……ハ?」
「……ハハッ」
そこからは醜い皮算用が始まる。
最終的には装備の質を落とすと脅しをかけた俺の、八二で納得させた。
帝国内でお小遣いがだいぶ減ったので、働かないといけないんだよ。
「それじゃあ、これが変装アイテムが入った収納袋だ。顔だけ隠して、まずは登録してくるんだ」
「……鬼」
「そう言うな。本当の鬼であれば、一銭たりとも渡しはしないだろう。それとも、実際に鬼のように振る舞ってほしいのか?」
「い、行ってきますっす!」
これ以上の減額は望まないのか、彼は凄まじい勢いでここから逃げだした。
根は真面目な奴だと把握しているので、逃げることはないだろう。
「代理試合。一定額を予めベットしておくことでできる、コロシアムの横入り。誰かが払えば無法者でもルール上は割り込めるってのが、なかなかに斬新なやり方だよな」
参加するからには、自分の出した者にそのすべてを賭けよ──要するに、八百長をするのは駄目だということだ。
わざと負けるなんてナンセンスなこと、観客は望まないからな。
ちなみに、払ってもらえなかった場合はコロシアムから強制退場を受ける。
魔物に襲われる場合もあるし、闘奴たちがいっせいに襲いかかる場合もあるらしい。
ただ、それは秩序を守らない奴が、金にも救われなかった場合だけだ。
普通に参加すれば参加者として迎え入れられるし、そうでなくともそれだけの実力があると証明すれば襲われることもない。
──要は、強ければ問題ないのだ。
「と、登録完了しましたっす」
「よし! ならば、行こうじゃないか──共に命を賭けた、大博打へ!」
「……俺だけじゃないっすか、命賭けって」
彼の内心に気づいてはいるが、とりあえずスルーの方向で進めていく。
隠蔽量まで一割分くれてやったんだ、その分はしっかり働いてもらわないとな。
◆ □ ◆ □ ◆
コロシアムの運営者は悩んでいた。
飛び入りで登録してきた『一家』の一人、その彼に当てる者がいなかったからだ。
「若いとはいえ、一家の一人。並々ならない実力者のはず……だが、それを広められないのが拙い。このままだと、一家が儲けるだけで終わってしまう!」
闘奴やレートの配分を管理し、毎月一定額支払うことで生かされ続けている運営者。
生きる分には申し分ないが、楽しみにしていた娯楽場に手が届かなくなることを大変嘆いていた。
「ああ、どうにかしなければ……」
「お、オーナー! たった今、グランドオーナーよりご連絡が!」
「なんだって!?」
各部門を管理する者をオーナーと呼び、それらを統括する者をグランドオーナーと呼ぶ裏の掟。
コロシアムオーナーである彼に届けられたのは、一通の手紙と小さな収納袋だった。
奪い取るようにそれを手に取り、手紙の内容を確認する。
「……そうか、さすがグランドオーナー! これなら、無事に乗り切れる!」
自信を取り戻した彼は、ニンマリと笑みを浮かべて作業に取り掛かる。
……夜の蝶たちが、仕事終わりの彼を待っていると信じて。
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コロシアムの中で戦いが始まった。
闘い、ではなく戦いである。
後ろ盾を持たない参加者は提示された相手と戦闘しなければならなく、終わるまで決して逃がしてもらえない。
「だからこそ、負けると思われるんだよな」
「ボス、どうしてアイツを戦わせたんで?」
「暇そうだったからな。それに、俺も正直金が足りなくなってきた」
「……やり方が悪かったんですよ。ボスの理想に救われた俺たちですけど、難しいってことぐらい分かってますよ」
かなりの金を使わなければ、コイツらを纏めて抱え込むなんてことはできなかった。
非合法な品ばかり買っていたこともあり、ポケットマネーなんて残っていない。
「まあ、もともと弱点らしい弱点が無かったアイツだ。多人数で囲んでも勝てるだろ」
「アイツらが……というより、上が何を出してくるかによりますがね」
「用意したのは、死なないようにするだけの試作品だ。有効的に使えるかどうか、それを見せてもらいたいよ」
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