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山田 武

偽善者と赤色の旅行 その08



「──魔王だ」


 その発言を溜めた意味はない。
 ただ、そっちの方が面白くなると邪推したからだ。


「おめでとうございま」

「──ただし、『魔王』じゃない」

「……? どういうことでしょうか」

「簡単に言うとだな。偽物じゃない本物の魔王なんだけど、それは俺たちが探し求めるこの世界公認の『魔王』じゃないんだ」


 いや、職業ロールという観点から言えば立派な本物の魔王様なんだけどな。
 ただし、老人を連れていっても扉の認証システムは彼を『魔王』とは認めないのだ。


「調べたところ、この老人は【壊光魔王】という固有職に就いているみたいだ。あのときに使った“崩壊の光ブレイクレイ”とやらも、どうやら職業付属の能力によるものってことだな」

「なるほど、少し強力な魔法だとは感じていましたが……固有職の恩恵を授かっていたのであれば納得です」

「再現は可能か? なんかこう、無力化するときに使ったら面白そうだ」

「ふふっ、分かりました。すぐに解析班へ映像のデータを送りましょう」


 完璧な再現は無理だろうし、そっくりそのまま術式を真似る必要はない。
 欲しいのは装備破壊だけであり、光を用いなければ発動しないという制限は取り除く必要がある。

 神器に影響を及ぼせるまでに、いずれは魔法というか装備破壊能力を特化させなければならないと俺は思っている。
 究極の力の権化にして、神の末端に居るべきとも呼べる神器を破壊する──それは可能ではあるがほぼ不可能に近い。

 それでもやらねばならない時が、残念だが訪れるだろう……そう、非常に残念で遺憾ながら他者の力を破壊してでも偽善を成すことが、いつかの未来にあるのだろう!


「あの、メルス様。お顔が少し……」

「ブサイクだって? ああ、そんなことは分かっている」

「いえ、それはいつも凛々しいものだと思っていますが……なんというか、やりたいことがあると喜んでいるように思えました。何か手伝えることが、私にありますか?」

「おっ、おう……と、とりあえずは無いから心配するな! そそ、それに、あくまで考えが膨らんだだけだ!」


 まあ、実験は行っていこうとは思うが。
 神器の生成ぐらい、今の俺であれば簡単にできること……『ぐらい』と言えるようになるなんて、進化なんだか変異なんだか。

 褒められてまた暴走した感情が静まるのを待ち、落ち着いてから話を戻す……{感情}の精神安定があっても褒められるのだけは、なぜか揺れ動くんだよな。


「まあ、何はともあれ俺たちの魔王探しはまだまだこれからだ! ということだな。ガーにはもう少し、俺といっしょに旅行を続けてもらおうか」

「はい! このガー、メルス様とともに居られることを光栄に思います!」

「ははっ、ここで減らず口の一つや二つ叩きたいところだけど、全肯定のガーにはあまり意味が無いか……よろしくな」

「私だって、メルス様が本当に自身の信念から外れた行動を取れば否定をします。ただ、そのようなことがこれまでに一度も無かっただけですよ……はい、こちらこそ」


 老人が未だに倒れているが、俺たちは気にせず笑い合った。
 すでに回復魔法はガーが施してあるし、さらに言えば気にかける必要が無いからな。

 ……うん、偽善者らしい態度が取れている気がして俺としては満足だ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 本物ではあるが目的の魔王では無かった老人の城を抜け、空の旅を始めてみた。
 転移眼では文字通りアップダウンの激しい移動となるので、鳥獣眼で背中に翼を具現化させて飛行を行う。


「熱気が皮膚を焼きそうだな……」

「私が癒しましょう!」

「いや、焼けてないからいいよ。それより、回復用の魔眼も探しておくか……あんまり見つからない気がするけど」


 魔眼とは、もともと邪視と呼ばれる頃がある代物……他者への妬みや恨みなどの負の感情を視線として向け、呪うというわけだ。
 今で例えるならアレだな、リア充を恨む男たちやらハーレムで自分以外の女が男といっしょに居る時の女たちの視線である。


「負の感情から生まれる魔眼が、どうして正の感情でも最高峰とも言える癒しを発現できるんだろうか? いや、無理だろ」

「どうでしょうか? メルス様の世界ではそうでしょうが、この世界はすべてが悪意だけでできているわけではございません。神眼はともかく、魔眼にも正しい使い方のできる物はあると思いますよ」

「そうかもな。まあ、たしかにガーの言う通りだ。最初からすべてを否定しても、何も始まらないか……解析班がその気になればすぐに創れるだろうけど、まずは天然ものが居るかどうかを探すところから始めようか」


 ちなみに神眼を予め前提条件として含んでいないのは、議論しても仕方が無いからだ。
 前提条件として、神にしか扱えないような眼の権能なのだ……都合よくプラスにしか働かないのも、魔眼の上位互換とも言える理由の一つだな。


「それじゃあ、次の目的地の発表だ」

「はい。どちらとなるのでしょうか?」

「魔王の城ってのはここで終わりだ。次は、それっぽい魔力の持ち主を適当に探しても居ようと思う」

「ええ、メルス様とともに行きましょう」


 はてさて、その中に『魔王』の候補者は居るのかな?



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