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山田 武

偽善者と赤色の旅行 その06



 突撃、隣の魔王城(仮)!
 勢いのままに、直接潜入してみた。
 鏡を使って俺とガーに歪曲眼を施し、他者から認識できないようにしているのでたぶんバレることは無い。


「もちろん、何もしなければだけど」

「ワクワクしますね」

「ああ、こういうのはスパイ系みたいで興奮してくるな」

「はい」


 不可視にした鏡(に映った魔眼)が今もなお、俺たちの周囲の空間を歪めている。
 常時発動を要求されるため、かなりの勢いで魔力が消費され続けていた。

 だが、その分安心を得ている。
 広い道を歩いている俺たちだが、遭遇する魔族は誰一人として俺たちに気づかない。
 最初の一回だけは発動しているかどうかに緊張したが、その確認を終えればこっちのものだと言わんばかりに堂々と歩いているぞ。

 声も歪めた空間で細工しているため、俺たち同士にしか届かない。
 魔眼神眼マジ最高と謳いつつ、ガーと話して時間を潰しながら最奥を目指して進む。


「ところでガー」

「はい、なんでしょうか?」

「たしかコカコーラさんは破杖とか呼ばれているんだよな? 最初に訊いたハンマーの奴みたいに、魔法で城を壊したのか?」

「いえ、違うようです。なんでもコゥカコーラと相対すると、武具がことごとく破壊されることから破壊、持っているのが杖ということで破杖となったとのことです」


 装備破壊系の能力か、けしからんな。
 ぜひ、それをご教授……じゃなくて、解析しておかないと。
 いつ眷属がそんな目に遭うか分からない。
 予め俺がその手段を習得し、身を以って眷属たちに教えてあげなければ!


「……あの、どうされました?」

「いや、なんかこう、謎の使命感がどこからともなく湧いてきてな。けど、そんな能力があるなんて……耐久度を減らす速度を上げているのか、それとも直接装備に干渉する能力なんだろうか」

「なるほど、ぜひ調べてみましょう」

「ああ、楽しみだな」


 眷属たちは未知のスキルを集めている。
 理由は定かではないが、まあ強くなるためだと俺は思う。
 帰れば記憶から解析が行えるし、そうでなくとも調べた情報だけであればすぐに送信することも可能だ。


「それじゃあ……行きますか」

「ええ、どこへでも」


 すでに扉は目の前だ。
 コソコソと侵入するのもスパイっぽくて面白そうだが、やりたいのはそれじゃない。
 意味もなく髪を上げ、瞳をジッと扉へ集中させる。


「──捻じれろ、歪曲眼!」


  ◆   □   ◆   □   ◆

 一瞬の出来事だった。
 目の前で広がるその現象は、何の反応も見せずに唐突に発生したのだ。

「これは……空間属性か?」

 膨大な魔力を含むため、魔力による干渉をほぼ・・防ぐ魔鋼製マナメタルの扉。
 それが今、ナニカの干渉を受けて大きく歪み始めていた。

 自身の経験とスキルから、何が起きているのかを予測していく。
 そして浮かんだ答えは──かなりの腕前を持つ空間属性使いからの干渉である。

「むっ、予想以上に速いな」

 魔鋼の抵抗を物ともせず、それは侵蝕を続けている。
 やがて完全に抗う力が失われ──扉に巨大な穴が生みだされた。

「おっ、どうやらちゃんと開いたようだな」

「そのようでございますね」

「……何者だ」

 魔鋼の中心から捻じれるようにして生まれた穴、そこから二人の者たちが侵入する。
 兵たちは何をしているのかと思ったが、彼らの周りに違和感を感じて警戒心をよりいっそう高めていく。

「そう、だな……『ファン』と『コー』とでも名乗っておこうか。あっ、俺の方がファンだから」

「……コーと申します。お見知りおきを」

 明らかな偽名であった。
 だが、真名が訊きたかったわけではない。
 ジッと彼らの挙動を窺いながら、老人──『破杖のコゥカコーラ』は杖の握り締める。

「私はコゥカコーラ、世に言う破杖を冠する魔王である」

「魔王、魔王ね……それって本物か?」

「……貴様、私が魔王で無いと?」

「いやいや、そうじゃない。この世界に本物の魔王はたった一人、それはお前なのかって話だよ」

 自分は魔王では無い、そう言われているように感じられた。
 最近では『破槌のブドゥソーダ』と呼ばれる者も新たに魔王を名乗り、世に破壊と混乱が生まれているとのこと。

「──魔王システム、長生きしたご老人であれば知っているかな? 世界の管理者の一人である魔王、それを俺は探している……お前がその、魔王を受け継ぐ者なのか?」

「さて、それはどうだろうな」

「あんまり細かいことを知らないから、俺はその真偽が判断できない。こうして口頭で尋ねるのもいいが、もっと簡単な調べ方も用意しているんだぞ」

「それが貴様の自信の表れか」

 侵入者は共に、自分への対策のためかいっさいの武器を所持していなかった。
 ……いや、空間属性を使えるので隠している可能性もある。

 しかし、空間に歪みを生みだそうとする反応は無く、魔力すら運用していない。
 完全な脱力状態、だがそれ故に手出しができずにいた。

「まあ、そうだな。アンタの力と魔王の因果にどう関係があるかは分からないが、それは今から俺が評価してやるよ」

「抜かせ、小僧が」

「戦闘不能にすれば、答えは分かる。さぁ、踊ってもらうぞご老人」

 そういって、男は髪をかきあげ──


「貫け──“閃光眼”」


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